世代最強の呼び声が高かった大阪桐蔭が2回戦敗退 攻守の課題、誤算を徹底総括
花田旭、池田陵真、松浦慶斗、宮下隼輔
優勝候補・大阪桐蔭は23日、2回戦の近江戦で逆転負けを喫した。世代最強とも呼ばれたチームがなぜ2回戦で姿を消すこととなったのか。改めて考えていきたい。
タレント力は最強。それでも圧倒できなかった攻撃。懸念材料だった守備面
1年前、近畿地区を回ると、今年の近畿をリードするのは大阪桐蔭という声がよく聞かれた。実際に選手たちのパフォーマンスはそれにふさわしいものがあった。特に打撃面については過去に優勝したチームと比較しても、上回るほどのポテンシャルの高さがあった。
大阪大会では打率.654,2本塁打、14打点と圧倒的な打撃を見せた池田陵真。主将としても素晴らしく、西谷監督も「選んだというよりも、入ったときから選手同士満場一致で、私もそれだけの人材だと思います」と全幅の信頼を置く。
東海大菅生戦で本塁打を放ち、抜群の強肩を披露した大型外野手・花田旭、完成度の高い打撃フォームで本塁打を放った大型一塁手・前田健伸、2回戦で甲子園でバックスクリーン弾を放った松尾汐恩、盗塁もできて、右打席、左打席ともに公式戦で本塁打経験のある藤原夏暉、対応力の広い打撃で、次々と安打を記録する繁永晟、山口東シニア時代から評判が高かった野間翔一郎は超俊足で次々と状況を切り開く走塁と広角に打ち分ける打撃っを見せてくれた。
近江戦で走者一掃の適時二塁打を放った宮下隼輔は昨秋からクリーンナップとして本塁打も打てるクラッチヒッターとして存在感を示し、三塁守備もバウンド処理が上手く、肩も強い。
甲子園で2試合で4本塁打。しかも4打者。大阪大会を合わせると、6打者7本塁打を記録したように、とてつもない打線であり、藤原、野間など俊足の野手もスタメンに名を連ねる。歴代の優勝チームと比較しても、タレント力は負けていない。このチームでも圧倒した試合内容ができないことに、野球の難しさを実感する。近江戦では盗塁死が2つあり、機動力を仕掛けられなかったのもあったが、簡単に攻撃が終わるイニングが、大阪大会を通してかなりあり、相手からすれば、それほど怖さは感じないのではないだろうか。
結果としてアウトになったけれど、次のイニングにつながる内容のある打撃だったというのがあまりなかった。
また守備面にやや綻びが垣間見えた。というのは、大阪大会、甲子園を見ると、内野手にボールを処理する時、一瞬の間合いがある。いわゆる足が動かない状態だ。無失策の守備を見せたチームと比較すると、捕球⇨処理にいくまで、ボールを待って捕っている。一見、確実に見えるのだが、結構ボールが高めに浮いたり処理を誤ったりする選手が多い。また中継プレーや、カバーリングを見ると、正確さを欠ける場面が見られた。
秋からこの夏までの失点パターンを振り返るとちょっともったいないなと思うシーンはあり、今までは打力の高さでカバーしていたが、それが通用しない相手になると苦しんでいた。今回はモロにそれが出てしまった試合だった。
大阪桐蔭は後半戦に強いチームを作ることを長年信条としてきた。それができるためには、試合運び、選手起用、特に無駄なエラーから失点を与えない守備こそが大事となる。今年に関してはオフェンス面では申し分ないけれど、ディフェンス面についてはこの夏に限っては、嫌なところで出てしまったというのが多かった。
実は苦しかった投手陣の起用
関戸康介、松浦慶斗、川原嗣貴、竹中勇登
投手陣について、今年の甲子園では、松浦慶斗、 竹中勇登、別所孝亮、川原嗣貴、関戸康介がベンチ入り。この5人の評価付けとしてはこんな感じだったと考える。
松浦・・・球威、変化球も復調気味。大事な場面で使いたい。
竹中・・・春季大会から経験値はチームで一番。安定感もあり、一番信頼している投手。多少、制球が甘くても無理強いが利く。ただ夏の大会だとストレートの威力が弱いのが懸念材料。
川原・・・春の大会から急上昇。188センチの長身から投げ込む角度ある直球は一番。
別所・・・切れのある140キロ前後のストレートは魅力的だが、まだ大事な場面で使える投手ではない。
関戸・・・回復途上で、使える状態ではない。奇跡的にフォームのバランスが合致し、球威ある直球を投げられれば起用できる。
初戦では松浦が先発。2回戦の近江戦では竹中が先発。西谷監督は「しっかり準備してくれたので。一番良い状態の投手と思いました」と起用理由に説明する。また川原のリリーフ起用も、「ブルペンを見て川原の状態が良くて、ブルペン捕手と話して、決めました」と語る。実際に川原のストレートは竹中にはない角度と重みがあるストレートで、妥当な判断だったといえる。ただ、川原がマウンドに登った時、近江は追い上げペース。それが甲子園初戦登板なのだから荷が重くて当然だ。
松浦が登板しなかったのは「勝つことは大事ですが、守るべきは選手のけが。過密日程、球数制限の影響が全くないといえばウソになりますが、勝つために一番最善の方法を考えていました。だから次の試合に誰を置くかというローテーションではないです」
近江と大阪桐蔭は1回戦最後登場のカードで、日程的に最も過密なチームだ。登用が難しいというのはあっただろう。
大会出場校のトップクラスの長打力を持ちながらも、押し切れない攻撃内容、ところどころで現れる守備のミス。そういったところで後半勝負ができず、投手起用に苦しんだということだろう。西谷監督はこの試合の勝敗の分岐点についてこう答えている。
「前半思いもよらぬといいますか、4点はいってそのまま行くとも思いませんでしたが、そ
こから丁寧に攻撃ができませんでした。雑になったわけではないですが、山田君の投球が
勝った。足を絡めたかったですが出来ずに。1点ずつ追い上げられてしんどい形になりま
したし、先攻でプレッシャーかけられて粘り強い野球を向こうにやられて、こっちができ
なかったかなと思います」
改めて振り返って、選手の個々の能力は全国トップクラス。これは疑いようのない事実だ。しかし最後の最後までどんな相手でも圧倒させ、これは勝てないと思わせる野球を確立できなかった。そこに尽きるだろう。
大阪桐蔭に限らず、優勝は狙えるなと思うチームはビハインドの場面の粘りや、攻撃手段が非常に多く、嫌らしさがあった。
大阪桐蔭の新チームは、本塁打を放った松尾や、長身右腕の川原、速球派右腕の別所や、甲子園でベンチが外れた川井泰志、中学時代から松尾と同じチームで、近畿大会でベンチ入りしていた谷口勇人などタレント揃いの一面だ。しかし本当に勝てるチーム、勝てる野球はどういう野球なのか。それを追求する1年となる。
(文=河嶋宗一)