明石 楓大(近江)

 鮮やかな逆転劇だった。初回から猛打爆発で2回までに4点を奪った大阪桐蔭に対して、近江は実に地味に、少しづつではあるものの、着実に得点を積み重ね、徐々に流れを自分サイドに引き寄せた末に、8回裏の攻撃で見事に逆転した。強い相手でも、序盤で大量リードされても、こうやって逆転できるんだよと、全国の高校生に夢と希望を与えた。

 見ていて勇気づけられた。2回まで4失点。打線も2回まで無安打。力強い大阪桐蔭のスイングに圧倒され、一方的な試合になってしまうのが普通かもしれないが、近江のベンチは諦めていなかった。

 そのスピリットをグラウンドで表現し、ベンチ全体を鼓舞したのは、163センチ、背番号16の男だった。

 9番スタメンで起用された明石 楓大外野手(3年)は、3回一死走者なしで回ってきた最初の打席で三遊間へのゴロを放つと、一塁へヘッドスライディングして内野安打にした。1番井口とのヒットエンドラン右前打で、三塁へまたもヘッドスライディング。そこで大きく声を上げ左手でガッツポーズを作った。2番西山のスクイズで本塁生還。またも左手でガッツポーズして、ほえた。大阪桐蔭からすれば4点差から3点差になっただけ。先発の竹中はホームに目もくれず、淡々と一塁へ投げた。その向こう側では、明石が1人ほえていた。

 なんでもいい。チームに貢献したかった。甲子園で迎えた今夏最初のゲームは19日、日大東北との1回戦だった。9番スタメンだった明石は左飛、投犠打で終えたところで降雨ノーゲーム。翌日の仕切り直しも9番スタメン出場の明石は2回に回ってきた最初の打席で変化球の見逃し三振を喫し、4回の次打席では代打を送られた。今夏、滋賀大会でも3四死球を選んではいるが、5打数でヒットを1本も打てなかった。次はもうスタメンはないかもしれない。

 しかし、3度目のチャンスは訪れた。ものにしたかった。内野安打、ヒットエンドランからのスクイズ生還。泥臭いが気持ちを表に出した結果、1点が入った。スカイブルーのユニフォームが胸から足まで真っ黒になったが、笑顔でベンチにかえってこられたのがうれしかった。近江ベンチに与える影響は大きかった。

 2点差まで詰め寄って迎えた5回の第2打席でも、気持ちは同じだった。今度は引っ張った会心の当たりで右前打。犠打で二塁、暴投で三塁へ進むと、満塁となってからの4番山田の犠飛で3点目のホームを踏んだ。2番手岩佐の登板にともない、7回守備からベンチに下がったが、3打数2安打2得点。明石自身、最後の夏の初安打を甲子園で放ち、大阪桐蔭からの逆転勝利の流れをしっかり作った。

 ゲーム終盤の大逆転劇のせいで忘れそうになるが、あの好守備抜きにはこの試合も語れない。1回表の大阪桐蔭の攻撃、無死一、二塁から4番花田の打球は右中間を襲った。抜けたら2点先制の場面だったが、右翼手がランニングキャッチした後に倒れこみながらも球を離さなかった。その後、3点を取られはしたが、近江からすれば、あの好捕がなければ、もっと初回に大量失点をしていたかもしれない。そう、最後まで球を離さなかったのは背番号16。明石はその時から燃えていたのだ。

(文=編集部)