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史上最弱と呼ばれた「2017年の大阪桐蔭」はいかにして現在の大阪桐蔭の道標となったのか?

2021.08.14

史上最弱と呼ばれた「2017年の大阪桐蔭」はいかにして現在の大阪桐蔭の道標となったのか? | 高校野球ドットコム

 今年の甲子園で優勝候補に挙がる大阪桐蔭。近年では18年に春夏連覇。昨年は交流戦で東海大相模に勝利。現在のチームの根幹が作ったのが、2017年世代と呼ばれている。主将だった福井章吾(慶応大)をはじめ、各大学で活躍する選手を中心にした17年センバツ優勝、17年選手権ベスト16。いったいどんな1年を過ごしたのか?17年世代の選手たちに1年を振り返っていただく。

最初の練習試合では完敗。史上最弱と呼ばれたチームの中で満場一致で選出された福井章吾という男

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福井章吾(大阪桐蔭)

 始まりは前途多難だった。
 前チームはセンバツ出場したものの、夏は3回戦敗退。大阪桐蔭からすれば早い夏の終わりとなった。ただ、新チームスタート当初はかなり苦しいものだったという。

 新チーム直後の練習試合・東洋大姫路戦で完敗。当時、登板した徳山壮磨(早稲田大)は、

「氷河期と言われたくらいで、西谷先生からも『自分が見てきた中で一番最弱だ』といわれてきたくらいの本当にレベルが低かったので、それを自覚して、これは頑張らないといけないという気持ちが芽生えました」

 前チームを経験していたのは、センバツ後の大会からスタメン出場が多くなった福井章吾、センバツで登板した徳山と香川麗爾(関西大)、1年夏ながらスタメンに選ばれた藤原恭大(千葉ロッテ)ぐらい。特にこの世代はスタメン出場をしていなかった。

「自分たちでも2年の夏頃までは言われても言い返せないくらい結果も出せていなかったですし、上の代に食い込んでいる選手も少なかった」(早稲田大・岩本久重

 そんなチームのキャプテンを任されたのは福井だった。満場一致の選出だったと同期の選手が語る。

「毎年学年で仕切るような選手がいるのでその人を中心にミーティングなどをするので、章吾がなるかなと。言葉でも姿勢でも引っ張ってくれる。言うことには説得力があって、付いていこうと思わせてくれるキャプテンでした」(泉口 友汰

「満場一致で『章吾でしょ』と。みんなから章吾で行こうという感じです。キャプテンシーというか、言い方が悪いかもしれませんが、人を使うのが上手で、自分から率先してやっていたので、そういう人間性でしたので主将は章吾かなと」(山本ダンテ武蔵・國學院大)

「夏の時点でみんなの中で福井だなと思っていたと思います。人を巻き込む力とか、しゃべるのも上手なので、チームの士気を上げるとか、リーダーとして自分たちの代で一番ふさわしいと思ってて、後輩先輩からも好かれてて、愛嬌もあっていいなと思いました」(岩本)

「福井が一番合っている気がしたので、福井しかいないと思っていました」(同志社大・東本直樹

 西谷浩一監督も福井が選ばれるものだったと振り返る。

「福井は真面目でひたむきに取り組めて、芯が強い選手。面談をしたら、2年生のほとんどが福井のことを推していました。僕も面談する前から福井が主将になると思っていました」

 福井は当時、主将に抜擢された時、こんな思いを語っている。

「新チームは夏の大会に出ているメンバーがほとんどいなかったので、一から見直すことから始めました。自分自身は後のことにして、まずはチームを最優先。技術面よりも、声かけや生活面などチームの内面を鍛えることを徹底させてから、試合の進め方、野球に対する根本な考え方。しっかりしないといけないことを選手たちに話をしました」

 こうして歩みを進めていき、16年秋の近畿大会では準々決勝で強豪・智辯学園を下し、ベスト4入りを決め、センバツを確定させた。

[page_break:副主将7名制を導入し、チームが団結。春の頂点へ]

副主将7名制を導入し、チームが団結。春の頂点へ

史上最弱と呼ばれた「2017年の大阪桐蔭」はいかにして現在の大阪桐蔭の道標となったのか? | 高校野球ドットコム
徳山壮磨(大阪桐蔭)

 ただ福井はチームをまとめる中で、苦しんでいた。主将が苦しむ姿をエースの徳山は感じ取っていた。

「チームが勝つことを考えていて、自分がキャプテンをやっていていいのかなと常々思いながら、見えないプレッシャーと戦っていたことは覚えています」

 そこで、同級生たちは副主将7人制を導入。副主将のダンテは「自分も副キャプテンをやらせてもらっていたので、ずっと話し合って、常日頃から相談しあっていきました」と主将へのケアを怠らなかった。

 また野球ノートを活用しながら、チームの状況をまとめ、団結力を高めていった。
 福井が主将を全うできたのは、同級生たちの支えだけではなく、西谷監督とのやり取りも大きかった。野球ノートでは、「西谷先生から『とにかくお前がやるしかない、キャプテンがやるしかない』と日々、言われていましたので、それ以外にも毎日、僕のケツをたたくような熱い言葉をかけてくださって、それがあったからこそ新チームの期間はなんとか食らいついていけたのかなと思います」と当時を振り返る。

 チーム作りをする中で、藤原、根尾昂(現・中日)など能力が高かった1年生たちも実力を伸ばし、大会に挑んだ。

 そしてセンバツでは、履正社を破って見事に優勝。当時、福井は優勝して、優勝旗を受け取ることを目標としていたがそれが有言実行できたのだ。チームのために必死に支えた福井主将に同級生たちの喜びもひとしおだった。

「福井がしっかり引っ張てくれたから優勝があったので素直に嬉しかったです」(泉口)

「優勝した時って喜ぶんですけど、なかなか実感がわいてこなくて、終わって学校に戻ったときに、みんなからおめでとうとか言われて優勝したんだなと実感がわいてきました」(岩本)

「初めは実感が無かったのですが学校に帰って、祝福を受けて、あんな弱いチームが春の頂点を取れたんだなと夏、また取りたいと思ったので切り替えはできてました」(徳山)

 支え合って、つかんだ春の頂点。「史上最弱チーム」と呼ばれたチームは多くの選手が実力をつけ、多くの人々から称賛される強いチームとなった。17年世代はこの夏も、そして卒業後も模範となる姿を見せていく。

(取材・文=河嶋宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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