Column

秋4強・三島南(静岡)が主催する「地域野球体験会」の中身とは

2020.11.13

 この秋の県大会ではベスト4まで進出した、県内でも有力野球部の一つともいえる静岡県立三島南高校。地域に密着した歴史のある公立校でもあるが、「地域野球体験会㏌三島南高校」という小学生や、もっと下の保育園生へ向けての野球普及活動の一環として、グラウンドを開放して、野球体験会を実施している。
 11月上旬に実施された体験会の様子を取材してきた。

コンセプトは遊びとして野球に親しむ

秋4強・三島南(静岡)が主催する「地域野球体験会」の中身とは | 高校野球ドットコム
和やかな雰囲気で野球体験会は始まる

 体験会は、学校が終わった後の子どもたちが遊びとして野球に親しむということをコンセプトとしている。だから、放課後の時間ということで17時からの開催で、夕ご飯前までの18時半に終了という予定となっている。静岡県東部地区の三島南は、三島市大場(だいば)という市の南部にある。

 この活動を始めたのは、稲木恵介監督が富士宮東から異動して赴任した2013(平成25)年の翌年から、当初は保育園児を対象として開催していた。原則的には、三島市と隣りの函南町の子どもたちを対象として案内を配布したり告知していた。その取り組みが地元紙に紹介されるなどして、口コミなどでも広がっていった。そんなこともあって、小学生まで対象枠を広げ、現在では裾野市や沼津市、伊豆の国市、伊豆市の子どもたちまで参加するようになっている。

 この日も、当初の事前予約では64人だったが、ふたを開けてみたら友だちに誘われてきた子どもや、親たちの情報交換で参加した子などで80人と前回の62人をはるかに超える人数となっていた。

 「時期も時期ですから、人数制限しておこうとは思っていたんですが、来てくれた子たちには、検温、手指消毒なども実施し、保護者にはマスク着用を徹底してもらい、感染予防対策をしながら参加してもらった」

 と、嬉しい悲鳴でもある。

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受付開始の様子

 準備ができて16時20分からの受付となっていたが、開始を待ちきれない子どもたちも多く、16時30分過ぎにはかなりの子どもたちが随時受け付けられていった。そして、早く到着した子は“的当てゲーム”や鬼ごっこのような“逃亡ハンターゲーム”をウォーミングアップ代わりに実施して、子どもたちは好きなところに随時参加していった。

 「基本は遊びの延長なんです。みんな、今の子どもたちは野球をきちんとやらされすぎていて、『野球=練習』というイメージなんですよね。ウチ(三島南)の子たちもそうです。だけど、子どもの頃には、“あそび講”としてボール投げや駆けっこなどをして、そんな中で自分たちでルールを決めてっていうところから始められればいいなということなんです。原点は遊びです」

 稲木監督は、この野球体験の主旨をそう語っている。保育園の時に初めて体験会に参加して、小学生になっても参加しているという子どもも少なくないという。

 小学生を含めた野球体験会は昨年から始めている。保育園児から規模を拡大しての体験会は、昨年は延べ286名の参加となった。コンセプトの中には、バットやボールを使う場所が限られている現代の中で、高校のグラウンドで野球を教材として遊ぶことが月に1度でもできるようにしていくことで、野球離れに歯止めをかけようという狙いもあって、昨年は夏休みに試験的に実施している。ただ、今年はコロナの影響で実施を見合わせていたが、感染防止対策を徹底していくことで何とかこの時期に実施することが出来たのだ。

[page_break:「地域で愛される野球部、応援してもらえる野球部」への思いも込めて]

「地域で愛される野球部、応援してもらえる野球部」への思いも込めて

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「遊びの延長」が体験会のコンセプト

 体験会としては、受付をすませて“的当てゲーム”や“逃亡ハンターゲーム”に興じていた子どもたちが、17時の集合の合図で再び集まる。そして、稲木監督からこの体験会の趣旨などが簡単に説明される。子どもたちは1、2年生、3、4年生、5、6年生と野球未体験者というようにグループ分けして、それぞれのレベルに応じた形でキャッチボールや走塁練習、フリーバッティングなども行っていく。フリーバッティングでは、三島南の選手が投手となって打たせていくのだが、中にはしっかりと芯で捉えて、かなりいい打球を飛ばす子どももいた。

 親が三島南(三島商)の出身という子どもたちも何人かおり、こうした子たちが、この体験会を機に、「お父さんの出た学校で、自分も野球をやりたい」と思うようになることもあるであろう。また、女子児童の参加も多く、男女区別することなく野球に興味を持って楽しんでいかれる環境の提供ということからも、大きな意義はあったと言えるであろう。

 また、どんなに楽しくて子どもたちに興が乗って来ても、きっちりと予定時刻で終わられることも意識している。これも、稲木監督のこだわりの一つだ。

 「少年野球のクラブチームや中学の部活動もそうなんですけれども、熱心に始動すればするほど、長い時間の拘束ということになってしまいます。だけど、そうなると引率してきている保護者としては時間が読めなくて、次の行動の予定がしにくくなるんですよね。だが例えば子供の水泳教室などと同じように、一時間半なら一時間半、しっかりと時間を区切ってそれを厳守する。そうすると、親としては、その時刻を目指して迎えにこればいいわけです。時間の無駄もなくなります」

 かつての、時間が長ければ一生懸命にやっているという考え方とは、一線を画す考え方と言ってもいいであろう。これは、三島南野球部の練習としての考え方にも通ずるものがある。今年は、コロナの影響で中止となってしまったが、毎年、夏の大会を1カ月半後くらいに控えた6月にも代休の日などには保育園を訪問して体験会を実施していたという。

 「この時期ですから、1日時間が取れる日は、どん欲に練習試合を組んでいく学校がほとんどだと思うのですけれども、うちはそういう時にも合えて地域貢献とか、そういうことを体験して学べるものもあるだろうという考え方です」

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子どもたちが集まる前に、体験会の進行を指示する稲木監督

 これは、地域の野球のすそ野を広げていくということもあるが、こうした活動を通じて、「地域で愛される野球部、応援してもらえる野球部」という意識がより高まっていくのである。だから、三島南の夏の大会選手名鑑には、「多くのOBや三島市民、保護者、園児たちの希望となるように真摯に白球を追いかける…」という表記がある。

 高校野球の選手は、ある意味では地域の子どもたちのヒーローでもあるのだ。そのためにも、野球体験会で温かく、優しく子どもたちに指導し、一緒に遊ぶ高校野球のお兄さんたちは、ステキな存在となっていくのである。

 そんな様子を見学しようと、この日も御殿場南の諏訪部尚紀監督や地元の少年野球の指導者たちも訪れていた。

 参加した子どもたちは帰り際には、ご褒美のドリンクを手にしながら一様に、「楽しかった」という感想をもらしていた。

 高校野球のあり方として、もちろん勝利すること、大会に勝つことは大事だ。そのために、高校生活のすべてをかけていく勝利主義も、野球で身を立てていこうという選手にとっては、一つの人生設計としては大きなことかも知れない。しかし、多くの普通の高校生である野球部員は、こうした社会活動、地域活動を体験していくことで、学校の教室だけでは学べないことを学んでいく機会にもなるのだ。

 そういう意味では、野球体験会は子どもたちに野球の楽しさを伝えて行くということだけではなく、その楽しさを伝えていく中で、自分たちも地域とのつながりを身をもって感じていくはずだ。また、野球を伝えることで改めて自分自身も野球の面白さを再発見することに繋がっていくという要素もあるはずだ。

 楽しそうに、子どもたちと触れ合う三島南の選手たちの姿を見ながら、暮れなずむグラウンドの中で、そんな思いにふけることもできた。こうした活動もまた、新たな高校野球の役割のような気がした。

(記事=手束仁

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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