Column

2017年甲子園出場・滝川西。引退の時が来るまで変わらずに高校野球に取り組んでいく

2020.06.08

 2017年の夏の甲子園に北北海道代表として、19年ぶり3度目の出場を果たした滝川西。鮮やかな水色のユニフォームと、グラウンドを常に全力疾走で走る姿を今も覚えている人が多いのではないだろうか。20日に夏の甲子園が中止となったが、北海道では6月2日に独自の大会を開催することが発表された。独自の大会を前に指揮官の小野寺大樹監督は何を感じているのか。チームの今を語っていただいた。

選手がノートに綴った、甲子園中止に対する想い

2017年甲子園出場・滝川西。引退の時が来るまで変わらずに高校野球に取り組んでいく | 高校野球ドットコム
滝川西3年生の集合写真 ※写真提供=滝川西野球部

 本校は2月下旬から休校が続いておりましたが、5月19日から分散登校が始まりまして、そこで選手たちと久々に再開して、顔を見ることができました。20日に甲子園の中止が決まりましたが、翌日の21日が3年生の登校日だったんです。

 ですので、私自身会うのが辛かったです。どんな顔で何を語ってあげればいいのかと思いました。ただ、考え方によっては良いタイミングとは同時に感じていましたので、20日の夜に主将へ「ミーティングをしたいから、3年生の方に連絡してくれないか」と連絡をしました。

 すると電話越しでしたが、「涙が止まらないです」と話してきたんです。それに対して「何泣いているんだ」と言えるわけもなく、もらい泣きをしてしまいました。

 戦わずして目標を失う経験などしたことのない自分にとって、「気持ちはわかるぞ」と軽い言葉はミーティングで言えないので、どんな言葉をかけて話せばいいのか。自分の中で整理してまとめようとしましたが、何もできずに21日を迎えてしまいました。

 ですが、3年生は自分の姿を見ると、近寄って元気に笑顔で「おはようございます!」とあいさつをしてくれたんです。それで逆に元気をもらいました。「しっかり前を見て、現実を突き付けられても、今できることを精一杯やるしかない。いつも通りやろう」と思ったんです。

 後々野球ノートを見ると、『下を向くことなく、前を向いて1日を乗り越えよう』と書いていたり、4月から甲子園の中止が決まるまでの間、日々の取り組みや心の動きを野球ノートに書き、甲子園までのカウントダウンも一緒に書いているものもいました。ただ、20日の中止を受けてバツ印で上書きしているのを見て、選手たちの気持ちを考えると、『きついな』と思ったんですよ。

 けど『自分から野球を取った時、何も残らない人になるな、という先生の言葉を胸に、ここまでやってきました。だから心配しないでください、ここからが見せ場です』と書いているんです。そういったところからも元気はもらいました。

[page_break:記憶に残る代と共に集大成の夏へ]

記憶に残る代と共に集大成の夏へ

2017年甲子園出場・滝川西。引退の時が来るまで変わらずに高校野球に取り組んでいく | 高校野球ドットコム
練習中の様子 ※写真提供=滝川西野球部

 だから、とにかくミーティングで、「皆に助けられたよ。明るく挨拶をしてくれてすごく元気をもらえたよ。だからこそ、3年生と新たな目標に向かって練習をしたかった」と話をしました。ただ、21日の時点では部活動再開がまだ先で、代替大会も決まっていませんでした。ですので「俺はお前たちと再びグラウンドで野球をしたいしか今はない」と最後に言葉を送りました。

 そして6月1日、待ちに待った練習再開の日でしたが、まだ代替大会は決まっていなかったので、「こうしてグラウンドでお前たちのユニフォーム姿を見ながら話せるのが何より嬉しい」と話をしました。そのうえで、「3年生の引退が決まらない限り、俺はお前たちの引退の時が来るまでいつも通りやるぞ」とメッセージを送りました。

 他にもいろんな話をしましたが、やっぱり甲子園が無くなって選手への接し方や練習を変えるのは違うと思うんです。たしかに甲子園は目標でしたが、目的は別のところにありますので、そこを見直して今も練習をしています。

 3年生は甲子園こそなくなりましたが、「全員で心1つに野球が出来ることが嬉しくて仕方ない。代替大会があるだけでも、高野連の方には感謝しかない」と口をそろえて言います。

 クラスメイトからも『自分たちの分まで頑張ってくれ』とメッセージをもらっている選手もいるようです。ですが他の部活動は大会が中止になっているので、仲間たちの想いを受け止めて謙虚に学校生活を送ろうと意識をさせています。

 春から夏を迎える時期は1番成長できる時期だと、選手たちには話をしています。3年間の集大成に向けて大きく心が変わり、行動が変わる。そうすることで気づけることがあると思っています。

 どのような壁にぶち当たってもそこから逃げ出さず、やれることを最後までやり抜く力が人間を大きく成長させますし、ここぞという場面で力を発揮できる人間になると思っています。代替大会がある、ないだけでも違いますが、下級生に3年生が背中で伝えられる機会が増えたと言うことだけでも意味があると思っています。

 今までにないことだからこそ、新しく気づけること、いろいろな発見があると思います。間違いなく記憶に残る代になります。そんな3年生の進化し続ける姿が楽しみです。3年生にとって最後の発表の舞台を作っていただいた北海道高野連の方に心から感謝させていただきます。

(記事=田中 裕毅

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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