全国制覇の道は絶たれても、未来の一歩へ力強く踏み出そうとしている星稜
5月20日、第102回全国高等学校野球選手権大会・地方大会の中止が決定した。戦後では史上初の決定。今まで味わったことがない事態に、指導者、選手はどう受け止めて、次に動いているのか、各校の想いを紹介していきたい。
甲子園以上の想い出を星稜高校のグラウンドで
写真は昨秋の大手前高松との招待試合の模様から
2020年、星稜にとっては悲願の全国制覇を目指す1年だった。1月の取材で林和成監督はこう語っていた。
「昨夏、四半世紀ぶりの決勝まで行かせていただきましたが、また近いうちに行けると思ってしまうと、また半世紀もかかってしまう。なので、決勝戦の雰囲気を味わっている彼ら(1、2年生)のうちに狙っていきたいんですよね。
あの雰囲気は私の中でも今までとは違う雰囲気、景色がありました。まだ去年の3年生たちが甲子園で勝つにはどういうレベルに達すればいいのかを見せてくれて、それが財産になっています。それを一緒にプレーし、間近で見てきた選手たちだからこそ全国制覇を狙っていきたいと思います」
選手たちもそのつもりで取り組み、例年以上の仕上がりを見せていた中でセンバツは中止が決まった。切り替えて夏を目指したが、4月8日から休校期間に入り、寮に入っていた選手も帰省。
この期間は選手は自主練習の期間に入り、LINEで、体調、学習時間、自主練習の内容をチームに報告。細かい指示はできず、どこまでできているか不安ではあるが、林監督は選手の裁量に任せてきた。
そして5月20日、甲子園の中止が決まった。林監督は中止の一報を聞き、
「わずか1%の望みの中で、選手たちとともに希望を持っていたんですけど、中止という心の準備をしていたとはいえ、ショックというか、悔しさと無念さがこみあげてきた感じですね」
このあと、林監督はチームのグループLINEで、長文のメッセージを送った。その一部を紹介してくれた。
『この悔しい思いをどこにぶつけるか。それは未来の自分しかない。人生は谷あり山あり。両方あるからこそ人生は楽しいものであって、野球はピンチのあとにチャンスがある。この先のチャンスを呼ぶのは君たち次第。
人生は自分で作っていくもの。その一歩を力強く踏み出そう』
そして選手たちには、我慢強くなることも問いた。
「明徳義塾の馬淵さんが選手へメッセージを送る姿がテレビで放映されていましたが、お話している内容は、仰る通りだなと思いました。スポーツを通じて我慢する。耐える心を身につけることは大事だと思っていて、今回選手たちはコロナで野球ができない我慢を強いられた。その我慢を乗り切ることで、次の世界へ向けて踏み出す大きな一歩となる。
そういった道しるべを作っていくことが私達の仕事だと思います。」
最後の1年は甲子園がなくなった。3年生にとっては言葉では言い表せない悔しさがある。だからといって、すべてを投げ出してはならない。やはり中止後の行動が未来の自分を変えていけると林監督は信じている。
石川県は代替大会の開催へ向けて動き出している。林監督は甲子園以上の思い出を残りの期間で築くつもりだ。
「甲子園以上の想い出を星稜高校のグラウンドで作り上げようと。そのために例年以上にハードな練習ができればということは選手たちに伝えています。だからこの自主練習期間でも選手たちには、そういう練習をしてほしいと伝えています」
また長い休部期間があったが、林監督はそれをしっかりと受け止めて、前に進んでいける大人の部分を持ち合わせた選手だと評価をしている。
星稜は5月22日から分散登校が始まり、6月8日から通常登校・通常授業に入り、普段のリズムを取り戻していく。
まさに6月からは星稜ナインにとっては未来につながる大事なステップ期間に入る。
(記事=河嶋 宗一)
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