コロナで次々と進む高校野球のIT活用 都立新宿はLINEで「個別指導塾」を開催
新型コロナウイルスの影響でほとんどの学校が活動を自粛。指導者と選手たちがグラウンドで練習ができない日々が続いている。当たり前のように練習できていた日々が失われ、各個人でできる範囲の練習をせざるを得ない環境に、電話取材を通じて戸惑いや不安を隠せない声が多く聞こえた。
そんな中、選手たちとコミュニケーションをとるためにIT活用しているチームが多いことに気が付いた。今回は球児にとって身近なSNSとなっているLINEを駆使してコミュニケーションを取っているチームに迫っていきたい。
LINEを使い、打撃技術指導
動作解析の解説をLINEでやりとりする田久保裕之監督と都立新宿ナイン ※写真提供=都立新宿野球部
まずLINE活用編として代表的なのは、都立新宿だ。都立新宿は昨年現役2名の東大合格者を出すなど、東京都を代表する進学校。そんな都立新宿は、最寄り駅が新宿三丁目駅、新宿駅と、まさに都心のど真ん中にある学校で、校舎からは高層ビルが見える。
そんな都立新宿の野球部を率いるのが田久保裕之監督。田久保監督は、都立小山台がセンバツ出場したときの助監督で、現在は母校に戻ってきた。昨秋はブロック予選の決勝戦で都立青山に敗れ、都大会出場とはならなかった。
春もブロック予選からスタートし、都大会出場を目指して戦うはずだったが、現在は活動を自粛中。選手たちは5月まで自宅で練習をせざるを得ない状況だが、田久保監督も自宅勤務がメインとなり、感染防止のために細心の注意を払っている。
選手たちは学校からの課題をしながら自主練習をしているが、田久保監督はモチベーションに関して強く懸念していた。
「評価がないと、選手たちは『これでいいのか』と闇の中で練習をするような感じで、モチベーションに繋がると思うんです。だから休校のタイミングでLINEでの指導を始めました」
そこで田久保監督は、都立小山台の福嶋正信監督が得意とした動作解析を都立新宿にも導入。選手から素振りの動画を送ってもらい、田久保監督が構え、トップ、インパクト後の3シーンを中心に動作を解析して分解写真を作る。その写真に合わせて、近いタイプのプロ選手の写真と比較材料として一緒に送ることで指導をしている。いうなればリモート指導である。
「グラウンドですと一声かけて、本人も聞いて終わってしまいます。ですが、LINEで写真や動画であれば形として残ります。ですので、見返すことも出来ますし、目で情報を収集できますので、しっかり伝わる辺りではメリットがあると思います」
また映像をじっくり見ることで新たな発見があるなど、LINEを通じての指導には様々な効果をチームにもたらした。実際にLINEでの指導を受ける2年生の大村圭吾は、グラウンドと変わらない指導を受けられていると感じている。
「田久保先生が勉強している理論を、プロ選手の画像を使いながらできているので、いつもと大きな差は感じていないです。ただ、自分だけでやっていると暗中模索状態でしたので、指導を受けられるのは大きいです」
田久保監督が1時間半もかけて作成した分解写真は、選手たちへの効果が絶大。「1つのことを突き詰められるので、選手にとって良いと思うんです。個別塾見たいですね」と指導をする田久保監督は語る。
田久保監督作成した分解写真の一部※写真提供=都立新宿野球部
LINEを通じてコミュニケーションをさらに深める
田久保裕之監督と都立新宿ナイン(*写真は昨秋東京都大会予選都立青山戦より)
写真や映像などを駆使して視覚情報、そして形に残る点でLINEでの指導は良い影響を及ぼしている。だが、それ以上に田久保監督が重視するのはチームの輪だ。
「チームの輪を感じられないのは一番の課題なんです。だから、チームを感じる。チームワークを欠かさないためにもLINEを通じて双方向でコミュニケーションをとるようにしました」
以前から連絡用でチーム内にはLINEグループがあった。しかし、連絡事項など田久保監督が一方向で連絡をすることが多かった。そのグループLINEで選手たちとコミュニケーションを取るように使い方を変えた。
1日何度か田久保監督が全員に向けて投稿。グラウンドや学校の様子がわかる写真を送ったり、参考にしてほしい映像を配信する。選手たちも2年生を中心におすすめの動画や、近所のスーパーの写真を送り、コメントを送るようにしてコミュニケーションを取っている。こうすることで、チームを感じることができている。
「選手たちの意外な一面がLINEでやり取りすることで気づくことができました。顔は見えていないですが、やり取りを通じて個々の距離は近づいていると感じています。でも音沙汰のない選手は顔が見えない分、不安です」
中にはあまり携帯を使わない選手もいる。そして1人の大人として選手たちを見ているからこそ、不安でも我慢して連絡が来るのを田久保監督は待っている。
しかし、チームをまとめる山口歩主将はグループLINEで監督、そして選手同士のやりとりに効果を感じている。
「2年生が凄く中心になってやってくれていて助かっています。3年生は勉強もあって参加しきれていないのですが、完全にチームは分裂しきっていないので大丈夫だと思います。またこれだけ長い期間練習がないのは初めてですので、繋がりが薄れてしまいます。しかし、LINEでコミュニケーションがとれているのはありがたいと思っています」
LINEを使って技術指導をしつつ、チームワークを固めていく都立新宿。グラウンドで練習をすることがベストだが、今の環境では出来ることは限られる。LINEをはじめ最新ITを駆使してチームを強くしていくのが、果たしてベターなのか。この取り組みが結びつく夏になるよう、無事に夏の大会が出来ることを祈って待ちたい。
(取材=田中 裕毅)
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