Column

高校球児に伝えたい! こんなときだからこそできること ピンチをチャンスに 自分に向き合う時間を作る 髙司譲さん(フィジカルファクトリー代表)

2020.03.15

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で学校は休校。センバツも戦時中の中断期間を除いて初めての中止となった。部活動をすることは言うに及ばず、学校に来ることさえできない状況が続いている。

 高校球児にとっては長い冬のトレーニングが明けて、対外試合が解禁になり、センバツや春の県大会に向けてようやく野球の実戦ができる時期にやってきた災禍に悶々としている選手も多いことだろう。

 先日、子供を連れて近所の公園に遊びに行った際、1人で練習している高校球児に会った。黙々と壁打ちをしている姿を見て「こういうときだからこそできることを広くアドバイスできないか?」を考えた。鹿児島県内で高校野球部を中心にフィジカル、メンタル両面でのサポート活動に取り組む髙司譲さん(フィジカルファクトリー代表)に聞いてみた。

今できることを考え、自分をコントロールすることが大事

高校球児に伝えたい! こんなときだからこそできること ピンチをチャンスに 自分に向き合う時間を作る 髙司譲さん(フィジカルファクトリー代表) | 高校野球ドットコム
髙司譲

:これまで誰も想定していなかった想定外のことが起きている中、野球部員だけでなく多くの中高生がいろんな不安を抱えていると思います。現場の指導者もどうしていいか分からずに忸怩たる思いをしているのではないでしょうか。

 だからこそ、今できること、やれることを、多くの野球選手のフィジカル、メンタル、両面でサポート活動をされている髙司さんからアドバイスをいただきたいと思います。

髙司:まずは「想定外」と思わないことですね。想定外と思ってしまうと立ち直れなくなってしまう。確かにショックも大きいし、心折れてしまうことかもしれませんが、東日本大震災にしても今回のコロナウイルスにしても、想定外なことが起こるのは仕方がないことです。発想を変えて、そこからどう一歩踏み出すかを考えるようにしたいところです。

 まずはピンチの状況を、いかにチャンスに変えるかという発想に切り替える。学校も行けない、チームの練習もできない、場所もない、「ないない尽くし」の状況の中で、「時間」だけは幸いたくさんある。何を感じて、何を考え、何に気づき、何に取り組むか?この時間でその力を向上させるチャンスととらえましょう。

 大事なことは「今この状況でできることは何かを考える」「自分をコントロールする」ことの2つです。

:何ができるか、具体的なことを挙げていただけますか?

髙司:やれる場所は家の中、周りと限られている。その中でまずは自分の弱点は何かを考えてみましょう。体力的なこと、技術的なこと、メンタル的なこと、心技体の何が自分の弱点かを考えると、何ができるか見えてきます。

 何より、体力を落としてはいけないので、それぞれの競技特性に応じた体力を維持するためのトレーニングをやりましょう。野球はスピード持久力が求められる競技なので、家の近くの坂道ダッシュのインターバルを繰り返す、坂がなければ短い距離のダッシュを繰り返すなどのランメニューは効果があると考えます。

 あえて自分の苦手なこと、嫌なことに向き合ってみましょう。例えば腹筋が苦手なら、徹底して腹筋だけをやってみるとか、柔軟性が足りないなら徹底してストレッチをやる。苦手なことに目を向けることが心の成長につながります。そこで培った忍耐強さ、我慢強さは、試合のギリギリの場面で必ず生きてきます。

:時間があって動けないからこそ、イメージを持って自分と向き合う時間を作るということですね。

髙司:心理学では「メタ認知」といいます。自分を一歩引いて第3者の目でみて考える。優れた選手、勝てるチームの選手は自分を客観的にみられる選手が多い。今をそういうことを鍛える期間ととらえるといいですね。

[page_break:目標とする選手のプレーを見て理想のイメージを持つ]

目標とする選手のプレーを見て理想のイメージを持つ

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髙司譲

:2点目の「自分をコントロールする」ために必要なことはどんなことでしょうか?

髙司:自分で使える時間があるわけですから、きょう一日何をするか、「時間割」を作ってみてはどうでしょうか? この時間は走る、バットを振る、壁打ちをする、学校の勉強をする…計画を立てて行動することは目標達成するためにメンタル的にも効果があるとされている方法です。自分で何をするか計画することで、何もない時間が「実のある時間」にするのです。

:読書をするというのもいいかもしれませんね。

髙司:読書もまさにお勧めです。日頃、中高生を指導していて、本を読まない子が圧倒的に多い。優れたスポーツ選手の書いた本は、メンタル的な要素に触れたものが多いです。

 自分の課題をどう克服したか、プレッシャーのかかる場面でどうリラックスできたかなど、過去に自分が体験したことに基づいて書いているので、とても価値があり大いに参考になります。一般書が苦手でも野球選手なら、例えばイチロー選手や松井秀喜選手の体験などはすんなり理解できると思います。

:この前書店で野村克也と息子の克則さんの共著「高校球児に伝えたい配球学・リード術」(東邦出版)という本を見かけました。権藤博さんと二宮清純さんの対談本「打者が嫌がる投球論 投手が嫌がる打撃論」(廣済堂新書)も面白かったです。

髙司:野村さんは実際に心理学を勉強して、その蓄積をもとに実践して体験したことを書かれているのでとても参考になるでしょうね。

:手前味噌で恐縮ですが拙著「鹿実VS薩摩中央 番狂わせから見える甲子園」(南方新社)は番狂わせが起きた試合の中で勝者と敗者、両方の心の動きを描いたものです。「鹿実野球と久保克之」(同)なども参考になりますかね?(笑)

髙司:鹿児島の高校野球の歴史に触れた本なので良いと思いますよ(笑)。私が最近読んだ本では栗山英樹さんが書いた「育てる力」(宝島社)が面白かったです。たくさんの知恵に触れることは自分の心を豊かにします。

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髙司譲

:野球の本ではありませんが「七つの習慣」(スティーブン・R・コヴィー著・キングベアー出版)は毎日読んでいます。ユダヤ人の心理学者のビクター・フランクルという人は、ナチスの迫害に遭い、家族を失い、殺されるか、生き残って死体を片付けるかどちらかに回るかという過酷な強制収容所生活の中でも、自分の心の中の自由だけは奪われないと発見し、イメージの世界を駆使して、主体的に生きる意義を見つけたと言います。そんな人間の英知に触れると感動しますね。

 頭の中で考えることは自由。プラスにもマイナスにもなる。コロナウイルスに右往左往して打ち負かされるか、「よし、この時間でやってやる!」と決心して自分と向き合うか、大きな違いが出てきますね。

髙司:自分の成長につながることをやろうとするのか、休みだからダラダラするのか、選択するのは自分の責任であることは理解して欲しいですね。

:他に何か具体的にできることがありますか?

髙司:自分のプレーを見るというのも良いと思います。過去に撮った動画を引っ張り出して自分のプレーがどうであるというのを観察してみる。

 あとは一流選手の投球、打撃などを繰り返しYouTubeなどで見て、そのイメージを持ったままシャドウピッチングや素振りをするのもお勧めします。正しい動きをイメージしてそれを落とし込むのは効果的な練習だと思います。

 脳は実際に体験したこととイメージしたこととの区別がつかないと脳科学の世界でいわれています。イメージしたもの勝ちで、脳の中でイメージしたことと実際に経験したのと同じような効果がある。今どきの高校生は我々よりも動画は使いこなせていると思うので、良いトレーニングができますよ。

鹿児島城西のエース・八方悠介君は実際に佐々木誠監督の現役時代のプレーは見たことがないけれども「YouTubeで見てすごい監督だと思った」と話していました(笑)。

髙司:自分の理想とする選手のプレーの動画を見て「ああしてみよう」「こうしてみよう」とイメージする。あるいは友人同士で撮影し合いながら、複数で指摘し合うのもより効果を高めると思います。

:苦しい中でも自分で工夫してやったことは一番身につきますね。

髙司:今の自分が置かれた状況の中で、何ができるかを考えることが大事だということです。

:野球と全く関係ないことでもいいですね。勉強、家の手伝い、あるいは遊ぶことも。そこから気づくことがある。何より「野球をやりたい」エネルギーを蓄えることにもなる(笑)。貴重な提言をありがとうございました。

(記事=政 純一郎

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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