Column

仙台育英OB・高橋左和明監督(九里学園)が3.11の被害を受けて「心が折れるくらいの思いでした」 9年前の震災を通じて見つけたやるべきこと

2020.03.11

 新型コロナウイルスの影響で、各地区大会の春季大会の開催中止も相次いでいる。また、当初3月19日から開幕予定の選抜大会の開催可否も本日11日に決まる。そんな中、年々、人々の記憶から少しずつ薄れかけてしまっている、ちょうど9年前の2011年3月11日に起きた東日本大震災のことを今日は改めて、振り返りたい。

 今回は、仙台育英で高校3年間を過ごし、現在は山形県・九里学園野球部を指導する高橋左和明監督に、2011年3月11日当時のお話を聞かせていただいた。

記憶にない大きな地震

仙台育英OB・高橋左和明監督(九里学園)が3.11の被害を受けて「心が折れるくらいの思いでした」 9年前の震災を通じて見つけたやるべきこと | 高校野球ドットコム
被災地の様子 ※写真提供=高橋左和明監督

 震災当時は、九里学園でちょうど授業をしていたという高橋監督。「2年生の特別授業を担当しておりましたが、九里学園がある米沢市は普段あまり大きな地震が来ないんです。それが、かつて経験したことのないほどの地震で、本当に驚きました」と当時を振り返った。

 宮城県石巻市雄勝町(吸収合併される前は桃生郡雄勝町)で生まれ育った高橋監督は、幼いころに宮城県沖地震を経験した。「すごく揺れたのは覚えています。ただ、東日本大震災は、校舎の3階にいたこともあったかもしれないですが、『大変なことになった』と瞬時に思いましたね」

 揺れが収まるまで生徒たちを机の下に潜らせて安全を確保。その後、校舎の破損確認や、生徒たちの安否確認に追われた高橋監督。野球部の選手たちは、練習のためにすでに自転車で15~16分かかるグラウンドへ移動をしていたため、他の先生に部員たちを呼び戻すようお願いをした。

 「米沢市とその近辺の地域や市の被害は大きくなかったですが、停電があり電車が使えない状況でした」そのため、学校の高橋監督自らバスを運転し、生徒たちを自宅もしくは生徒の最寄りの駅に送迎した。

 この震災により、部活動は3月末まで活動休止となったが、それ以上に気がかりだったのが地元・石巻市の状況だった。
 「実家は陸の孤島みたいなところで人口が少なかったんですが、情報がなかなか入ってこないし、両親とも連絡が取れませんでした。さらに道路が震災で寸断されてしまい行くこともできない状況で、両親が生きているのかもわからなかったです」

[page_break:高校野球で被災地へエールを送り続ける]

高校野球で被災地へエールを送り続ける

仙台育英OB・高橋左和明監督(九里学園)が3.11の被害を受けて「心が折れるくらいの思いでした」 9年前の震災を通じて見つけたやるべきこと | 高校野球ドットコム
被災地の様子 ※写真提供=高橋左和明監督

 それでも中学時代の同級生から情報をもらいながら、震災が発生してから3日後の14日、両親の安否確認がようやくできた。地元に向かうべく、米沢市で食料などを調達した高橋監督が最初に見た故郷の景色は、今でも忘れられない。

 野球を始めるきっかけをくれた地元が津波で様変わりしていた。さらに、海から50メートルほどのところにあった自宅は流されていた。甲子園出場の記念品も、両親が丁寧に飾ってくれたメダルや賞状もすべて、津波に流されていったのだった。

 この現実に「心が折れるくらいの思いでした」と高橋監督は話す。そうした過酷な現実を目の当たりにしたが、高橋監督は部員たちには前向きな言葉を掛け続けた。

 「出来る環境で精一杯やりなさい。時が来て、自分たちが何かしないといけない時には指示を出す」と部員たちには伝えた。

 「米沢では野球ができる状況でしたので、選手たちにはできることを一生懸命やってもらい、余計な心配をかけさせたくないという思いが一番でした」

 今では年に数回、故郷・石巻市へ帰る高橋監督。しかし自宅があった場所は津波の影響で昔とは変わり、高い山や丘ができた。高校時代、トレーニングで走っていた毎日のランニングコースは海沿いの防波堤だったが、それも津波で壊された。昔とは変わった故郷に「悪いとは言わないですし、安全のためにしょうがないですが、帰る場所がないというのが本音ですね」と語る。

 それでも、高橋監督が今やるべきことは変わらない。「高校野球」を通じて地元の人々や両親を励ますことだ。
 「地元に残っている親族や友人、応援してくれている方へ。高校野球を続けることで喜びを届けたい。勝負なので、勝ち負けはありますが、とにかく離れた場所でも、元気にやっているよということを高校野球を通じて伝えることができたら嬉しいです」

 昨年の夏は3回戦、秋は2回戦まで進んだが、2017年には東北大会出場。さらに同年の夏の大会では準々決勝まで進んだ九里学園。指揮を執る高橋監督は、震災を乗り越え、これからも高校野球を通じて被災地へエールを送り続ける。

(記事:田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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