Column

日本の二刀流から世界の二刀流へ 未だ底が見えぬ大谷翔平が目指す頂とは

2018.12.30

 「Big fly! Ohtani-saaan!!!! 」

 もはやお馴染みとなったこのフレーズ。テレビの向こうのアメリカ人アナウンサーが叫んだこの言葉を何度聞いただろうか。2018年、メジャーリーグに挑戦し、世界に衝撃を与えた大谷翔平がホームランを放ったときに聞こえてくる台詞だ。

 NPBでの5年間を終え、昨オフにポスティングで北海道日本ハムファイターズからMLBのロサンゼルス・エンゼルスへと移籍。数々のネガティブな評価を自らのバット、ボールで黙らせてきた男の、1年間の軌跡に迫る。

ベーブ・ルース以来の二刀流にかかる大きな期待

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開幕2連勝を挙げた大谷翔平(共同通信)

 前途は多難だった。

 2017年シーズンは右足首の故障のため、満足のいく結果は残せなかった。投手としては5試合登板に止まり、プロ入り後ワーストの3勝。打者としては65試合出場、打率こそ.332を記録したものの、8本塁打、31打点と、投打ともに納得のいく成績ではなかっただろう。

 シーズン終了後の10月には右足関節有痛性三角骨(足関節後方インピンジメント)除去術を受けた。その後、ポスティングシステムによる米球界移籍を発表し、ロサンゼルス・エンゼルスと契約。しかし、このときには右肘の治療のためPRP注射を行うなど、決して万全とは言えない状態での移籍劇だった。

 迎えた2月のスプリングトレーニングでは、本来の大谷の姿はなかった。打ってはメジャーリーガーたちの動く球に苦しみ凡打の山を築き、投げてはメジャーの環境に対応しきれず、コントロールがつかないところを痛打された。オープン戦での成績は打者として11試合32打数でわずか4安打、10三振。投手としては2試合で2回3分の2回を投げて0勝1敗、防御率27.0と、惨憺たる結果だった。

 「メジャーは早かった」「二刀流はやっぱり無理だ」「若いのだから、マイナーでじっくり鍛えてはどうか」など、多くの専門家が若い大谷のメジャーデビューを危惧した。中には「打撃は高校生級」などという記者までいた。

 二刀流と言うと、アメリカではどうしても「野球の神様」ベーブ・ルースと比べられがちだ。それもそのはず、大谷が日本で2度記録した同一シーズン10勝10本塁打という記録は、さかのぼること約100年、ベーブ・ルース以来の記録だからだ。デビュー前にしてそこまでの期待をかけられていながらこの成績だったのだから、厳しい評価は仕方のないことだったのかもしれない。

 しかしシーズン開幕後、それらの声は一蹴された。

[page_break:打者に専念した大谷翔平への期待感]

打者に専念した大谷翔平への期待感

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メジャー初本塁打を放った大谷翔平(共同通信)

 3月29日(日本時間30日)、オークランド・アスレチックスとの開幕戦に8番指名打者でスタメン出場した大谷は、初打席で右前打を放ち、メジャー初安打を記録。上々の滑り出しを見せた。そして迎えた4月1日(同2日)、大谷の投球に日米のファンが衝撃を受けた。

 6回3失点、被安打3、奪三振6、与四死球1

 オープン戦で見せた、制球に苦しむ姿はそこになかった。初回から160キロの剛速球でメジャーの強打者たちをねじ伏せた。2回に1発こそ浴びたが、失点はこの一打のみ。クオリティ・スタートを達成し、見事初登板初勝利を果たす。

 さらに、本拠地デビュー戦となった4月3日(同4日)、8番指名打者で出場した大谷は第1打席で変化球を豪快にフルスイング。メジャー第1号を右翼席に叩きこんだ。冒頭のフレーズが初めてテレビから聞こえてきた瞬間だった。この一打で波に乗った大谷は3試合連続本塁打の離れ業をやってのけ、全米ファンのハートをガッチリ掴んだのだ。

 この活躍で週間MVPに受賞されると、投打で好調をキープし、4月のルーキー・オブ・ザ・マンスも受賞。オープン戦の不調が嘘のような活躍に、開幕前には大谷を酷評した現地記者も、自身の誤りを認め謝罪の意を込めた記事を出すなど、異例とも言える事態にまで発展した。

 順調に勝利、本塁打を積み上げていた大谷だったが、6月に右肘が悲鳴を挙げる。右肘内側側副靭帯損傷が見つかり、前年同様PRP注射を行い、DL(故障者リスト)入り。しかし7月に入って打者限定で復帰を果たすと、そこから夏場にかけて凄まじい打棒を見せた。

 8月は24試合に出場し打率.328、6本塁打、18打点、4盗塁と、投げる方がダメなら打てばいいと言わんばかりの活躍で、この頃には4番にも座るなどすっかり主軸打者として定着していた。

 そしてPRP注射から約3ヵ月が経った9月、満を持しての復帰登板を果たし、最速159.8キロを計測し完全復活たしたかに見えた大谷だったが…右肘に新たな損傷が見つかり、今シーズン中の投手としての復帰は絶望的。「すぐに手術するべき」という声もあったが、大谷はここから打者に専念。

 すると9月には打率.310、7本塁打、18打点と好調をキープし、日本人メジャーリーガーの新人本塁打記録を塗り替えるシーズン22本塁打を放つなど、打者としてだけ見ても十分な成績を残して見せた。

 ルーキーイヤーの大谷は打者として104試合出場、打率.285、22本塁打、61打点、10盗塁。投手としては10試合51回3分の2を投げ、4勝2敗、防御率3.31、奪三振は脅威の63を記録した。この活躍が認められ、見事ア・リーグの新人王にも選出された。シーズン終了後には右肘の靭帯再建手術を受け、無事成功。来季は打者に専念する見込みだ。

 2018年シーズンは大谷にとって満足のいくものではなかったのかもしれない。二刀流を志して海を渡ったものの、投手としては大きな痛手を負ってしまった。もちろん日米のファンも残念な思いでいることだろう。

 しかし、一方で打者に専念する大谷がいったいどれだけやってくれるのか、ワクワクしてしまうのも素直な気持ちだ。もしかしたら日本人初のMLB本塁打王が誕生するかもしれない。もしかしたらトリプルスリーを成し遂げてしまうのでは?もしかしたら…。二刀流ではない一刀流に専念した大谷への期待は膨らむばかりだ。

 未だ完成形が見えない大器が、目指す山の頂に手をかける瞬間が見られることを期待しながら、来季も大谷の戦いを見守っていきたい。来季もきっと、幾度となくあのフレーズを聞くことを願って。

文=林 龍也(編集部)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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