2018年 大阪桐蔭は「苦しんでも最終的には勝つチーム」だった
甲子園での活躍を予感させる大阪桐蔭の成長
大手前戦での根尾昂
今回は大阪桐蔭の強さを編集部の雑感から総括していきたいと思う。
まず2018年の大阪桐蔭を初めて見たのは大手前戦(試合レポート)だ。去年と比べてどれくらいの強さがあるのか。それをじっくりと確かめると、いろいろ選手のポジションを変えながらも、強さを発揮していた。サードになった中川卓也が満塁本塁打を放ち、セカンドに転向した大阪桐蔭 山田健太が大型とは思えない軽やかな動きをしていた。
何より先発した根尾昂がらしいボールを投げていた。2年夏までの彼は140キロが出ることもあまりなかった。根尾自身、インタビューでは「夏の大阪大会、甲子園と、僕の中で上手くいったといえる試合は1つもないです。打撃も、守備、投球も全然ダメでした」と語っている。
それがこの試合では常時140キロ台のストレートに、130キロ近いスライダーも投げていて、夏までとは違う根尾の姿があった。短期間でこれほど成長しているのだから、秋の戦いが楽しみだと実感した。
秋の大阪桐蔭は根尾昂が投打に渡って大活躍をしていた。秋の大阪大会決勝戦では粘りに粘って本塁打。また近畿大会決勝の智辯和歌山戦では決勝本塁打など秋5本塁打のうち3本塁打を生で見させていただいたが、どれも飛距離が抜群だった。そして近畿大会準決勝の近江戦では最速145キロのストレートと切れ味抜群のスライダーを武器に16奪三振完封勝利。選抜、夏の甲子園の大活躍を予感させる秋のパフォーマンスだった。
そしてエース・柿木蓮が安定したピッチング。近畿大会まで失点を許さなかった。柿木自身、思うようなピッチングができなかったが「今までの経験で抑えることができたけど、次につながるピッチングではなかった」と語るように、秋のピッチングでは春・夏は抑えられないと危機感を抱いていた。その言葉通り、柿木の春から夏にかけての成長は素晴らしかった。柿木から自分の立ち位置をしっかりと自覚して、それに向けて努力する大事さを学ばせていただいた。
精神的な強さを発揮する大阪桐蔭
三重戦でサヨナラ打を放った藤原恭大(写真=共同通信)
2018年1月、編集部は大阪桐蔭を取材することになった。根尾(前編・後編)、中川含めいろいろな選手を取材することができて、学びになった。また、選抜へ向けても良いチェックポイントになった。皆様に少しでも大阪桐蔭のすごさを感じてもらえるよう、充実のコンテンツを配信した結果、想像以上の反響をいただくことができた。
真剣な表情で練習に取り組む大阪桐蔭の選手たちをより注目していただけるきっかけになったと思うし、レベルの高さを感じてもらえたと思う。
そして選抜。最も見応えある試合は準決勝の三重戦だ。リードを許しながらも土壇場で追いついて、サヨナラ勝ち。大阪桐蔭の強さを最も感じられた試合だった。どんなに追い詰められても最終的には勝つ。今年の大阪桐蔭が求めていた強さが感じられた試合だった。
こういう試合はたびたびあった。まず春の大阪大会・寝屋川戦(試合レポート)。9回裏二死まで3対4と1点差で負けていた試合だった。まず中川主将が打った二塁への打球はエラーを誘うほど速く、これまで苦しんでいた根尾はあっさりとレフトフェンス直撃のサヨナラ打を放った。試合後、大阪桐蔭の選手、西谷監督は厳しくこの試合を総括していたのが印象的だった。
そして夏の北大阪大会準決勝の履正社戦。またも、9回二死まで3対4と1点ビハインド。ここから怒涛の粘りを見せ一気に3点を入れて逆転に成功。二死となっても平然と打席に入り、粘り、四球を選び、そして安打を打つ。勝つには何をするべきか。試合終了までその姿勢を崩さず、逆転勝利を果たした大阪桐蔭ナインの姿を見て、夏の大阪桐蔭の全国制覇を予感された方は多いと思う。
春・夏甲子園を制した瞬間(写真=共同通信)
甲子園でも接戦もあったが、それでも最終的に勝利してしまう大阪桐蔭の強さは素晴らしかった。
最終的に勝つ大阪桐蔭の強さは精神的な成熟が生んだものだと思う。相手選手から「打たれても全く動揺せず、投げていて悔しかった」といわしめた根尾の精神的な強さ、高いキャプテンシーでチームをまとめた中川主将。妥協のない日々を1年間重ねた成果が最後の夏に表れた。
この後、各校の取材すると、大阪桐蔭の強さに憧れる球児が非常に多かった。
2018年の大阪桐蔭は全国制覇を目指す各校にとって大きなモデルとなっていた。個人の能力差はあるとはいえ、チームマネジメント、試合における戦略、試合中における立ち居振る舞い。すべてが参考になるチームだった。
高校野球史に長く語り継がれるチームであることは間違いない。来年以降、2018年の大阪桐蔭を凌駕するようなチームが現れることを願いたい。
文=河嶋 宗一