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大阪野球が最強の理由

2017.05.27

近年大阪を牽引している2つの強豪校

大阪野球が最強の理由 | 高校野球ドットコム

優勝した大阪桐蔭(写真は共同通信)

 この春、第89回選抜高校野球大会では、史上初の大阪代表同士の決勝となり、大阪桐蔭履正社を振り切って、5年ぶり2度目の優勝となった。なお、今季というか、この代のチームの両校の対決は、これで公式戦1勝1敗となった。まさに、夏の大阪大会で両校の対戦があれば、それが、その決着をつける対決となりそうだ。

 とはいえ、同都府県から複数代表が選出されることもある選抜大会だが、大阪代表同士の対決が実は初めてだったということに、むしろ少しびっくりしたくらいである。
というのは、強い大阪勢である。過去を遡ればイメージとしては、何度か対戦しているのではないかと思っていたからでもある。

 この両校ということで言えば、3年前の2014年にも、春は履正社が準優勝、夏は大阪桐蔭が優勝を果たしている。さらには、その2年前の2012年は、大阪桐蔭藤浪晋太郎(阪神)と森友哉(埼玉西武)のバッテリーを擁して、春夏連覇を果たしている。

 近年は特に、大阪勢でもこの両校の強さが甲子園では印象に残る。強い大阪勢の代表的な2校がこの春、甲子園で質の高い決勝戦を戦ったということである。

 ただ、歴史的に見ていくと、大阪勢はそれぞれの時代に何度か突出した有力校が登場して一時代を築いている。
 もっとも、知られているのが、1980年代のPL学園である。桑田真澄(巨人)と清原和博(西武→巨人→オリックス)らを軸に、83年夏と85年夏に全国制覇。84年は春夏準優勝に輝いている。PL学園はその前後も81、82年には春連続優勝。87年には立浪和義主将(中日)に片岡篤史(日本ハム→阪神)らがいて春夏連覇を果たしている。1学年下には宮本慎也(ヤクルト)がいたのだが、当時は控えの選手だった。

 そのPL学園は70年代から台頭してきて、70年と76年夏に準優勝し、78年夏に全国制覇を果たしている。その強さは、全国にネットワークを張り巡らせたスカウティングの力もあった。有望中学生を全国から積極的に勧誘して入学させていた。そして、「全国制覇を目指す」という意識を選手個々に育てていくシステムがしっかりと出来ていた。

 そんな中で、全国から選び抜かれた選手たちが高い意識で競い合うので、チームの力が上がっていくのは当然であった。今の大阪桐蔭も、同じような形で、全国の頂点を目指す意識が選手たちの間に育まれていると言っていいであろう。この春に背番号7ながら内野手、投手としても活躍して、最後は優勝マウンドにいた大阪桐蔭根尾昂(岐阜県飛騨高山ボーイズ出身)などは、その代表的な選手と言っていい。

[page_break:大阪の強豪校の変遷]

大阪の強豪校の変遷

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桑田真澄(PL学園)

 もっとも、それ以前にも大阪の高校野球は強かった。戦前は1930年代半ば頃から浪華商(現大体大浪商)が台頭。最初の“強い大阪”を示す存在となった。そもそも中等野球全国大会発祥の地である豊中市が大阪府にあり、やがて聖地として大阪府にほど近い西宮市の甲子園に会場が移っても、「大阪は中等(高校)野球のメッカ」という意識は、当初から植え付けられていた。それも、大阪の強さが継承されていった背景としては見逃してはならないことである。

 浪商の時代はやがて中等野球から高校野球となっても引き続いていた。そして、61年夏に「怪童」と呼ばれていた尾崎行雄(東映)で春夏通算4度目の全国制覇を果たしている。その後も、63年に明星、68年に興国が全国制覇。さらには70年春には北陽(現関大北陽)も準優勝を果たす。また、浪商も79年に牛島和彦(中日→ロッテ)―香川伸行(南海・ダイエー)のバッテリーで春準優勝、夏はベスト4進出と、健在ぶりを示したこともあった。こうして、PL学園時代につながるまでの間にも、大阪代表がそれぞれの形で結果を残している。

 PL学園時代が一区切りすると、元木大介(巨人)のいた上宮や近大付といった、新たなところが登場してくる。それらの学校も、それぞれ全国制覇を果たしている。そんな流れの中に大阪桐蔭も加わってきたのが90年代である。98年には関大一も準優勝を果たすなど、「出場してこれば、やはり強い大阪勢」という印象は十分に残していた。

[page_break:今や激戦区・大阪。その根底にあったのは中学野球が関係している]

今や激戦区・大阪。その根底にあったのは中学野球が関係している

 このように、浪華商に始まって、大阪の高校野球は、圧倒的に強い学校が登場すると、それを倒そうとまた、他の学校が勢力をつけて台頭してくるという構図が成り立っている。その根底にあるのが、ボーイズリーグ(日本少年野球連盟)ということも見逃してはならない現実だ。

 当時は、中学生の野球と言えば軟式野球の中学野球部というのがほとんどだった。そんな時代に、中学生の硬式野球を定着させることを目的として、南海ホークスの鶴岡一人元監督が70年に大阪で発足させた組織である。東京でその頃に発足したリトル・シニアに対抗する組織としても発展していった。

 ことに、プロ野球経験者など高いレベルの野球を体験した指導者を据えることで、より質の高い野球が中学生時代に学んでいくこととなっていった。チーム数も年々増えていき、ボーイズリーグ出身の選手が甲子園で活躍することで、その裾野はさらに広がっていくことになった。その伝統が今も引き継がれており、大阪野球の強さの背景となっている。

 この春もベンチ入り選手の中で、大阪桐蔭では11人、履正社では7人がボーイズ出身者だった。他にもボーイズリーグから分立した組織としてのヤングリーグにシニアリーグの出身者などもいて、いずれにしても、少年野球の時代から注目されてきた選手たちが集まっているのだ。

 一方で、大阪の少年野球出身で東北地区や九州地区などの学校で活躍している選手もいる。近畿圏から飛び出しているのだが、その代わりに他地区の有力選手を迎え入れる形も成り立っている。いわば輸出と輸入が成立しているといってもいいのだが、そうした活性化もまた、大阪の強さの基盤を作っているのかもしれない。

 大阪桐蔭履正社が突出しつつも、追いかける上宮太子大阪商大堺なども充実している。2010年以降では、2強の間隙を縫って、15年夏には大阪偕星学園(旧此花学院)が、11年には東大阪大柏原も初出場を果たしている。
80年代を席巻したPL学園の休部という寂しいニュースが報じられた一方で、大阪勢の強さは、営々と引き続いているのである。

(文・手束仁

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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