Column

プレイバック選手権 「漫画よりも漫画的 2006年の夏」

2016.05.06


左から高校時代の 田中将大(駒大苫小牧)、斎藤佑樹(早稲田実業)

 高校野球ファンからも未だに人気の高い2006年の第88回全国高等学校野球選手権大会。今、現役の高校球児たちは当時小学生の高学年。ばっちり憧れる年代である。印象深い大会なのではないだろうか?そんな大会を、あらためてプレイバック。

2人のエースを筆頭に、魅力あふれる選手が多数

 まず思い浮かぶのは何といっても駒大苫小牧・田中将大、早稲田実業斎藤 佑樹の2人のエースだろう。
この大会、3連覇を目指す駒大苫小牧をどう止めるか、というのが一つのテーマだった。
チーム、そしてエースである田中将大対策を練り、全力ぶつかってくる相手を受け止め、僅差ながらもきっちりと勝ち抜く駒大苫小牧
辿り着いた決勝の舞台では、2回戦で大阪桐蔭を破り(ちなみに大阪桐蔭の1回戦の相手は横浜)、そのままスイスイと勝ち上がってきた早稲田実業だった。

 決勝は、駒大苫小牧菊池 翔太田中 将大早稲田実業斎藤 佑樹の投げ合い。投手戦となったこの試合は延長15回でも決着はつかず。翌日の再試合も9回ギリギリまでもつれた末、4対3で早稲田実業が勝利し、初優勝となった。斎藤 佑樹はこの2試合をひとりで投げ抜いた。決勝戦だけではない。この大会、投球回は69回、投球数は948球と、まさに優勝の立役者となる活躍ぶりだった。

 この年は他にも魅力的なキャラクターをもった選手が多数出場しており、漫画のようだと言われることもしばしば。むしろ漫画であれば「こんなことあるわけない」と叩かれそうな試合が、前述の決勝戦だけでなく、いくつもあった。

 また、この大会で主力となった3年生、1988年生まれに逸材が多いことも知られている。88回大会出場を逃した中にも、秋山 翔吾柳田 悠岐坂本 勇人澤村 拓一梶谷 隆幸といったチームを支える選手達が数多く存在している。今や田中 将大と並び立つメジャーのエース・前田 健太が発起人となり「88年会」なるものが発足したのも記憶に新しいかもしれない。

 1年生から甲子園で活躍を見せてきた前田 健太も、出場を逃した選手の一人。この年の大阪代表はPL学園ではなく、2年生の中田 翔が引っ張る大阪桐蔭だった。大阪大会新記録の4試合連続ホームランで甲子園に乗り込むと、甲子園でも推定140メートルという特大ホームランを放っている。
もちろん、1年生にも注目選手が出場している。帝京杉谷 拳士だ。今では同じ北海道日本ハムファイターズに所属している中田と杉谷。チームでの様子やテレビのバラエティ番組を見ると中田 翔がものすごく先輩のように見えるが、実は年齢は1つしか違わないのだ。

 そしてその杉谷は2006年、漫画のような試合の当事者となっていた。

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[page_break:あるはずない、が現実に。2段構えのどんでん返し]

あるはずない、が現実に。2段構えのどんでん返し

帝京時代の杉谷拳士

 準々決勝、智辯和歌山vs帝京。この文字を見るだけでピンとくる方も多いだろう。土壇場での大逆転に次ぐ大逆転。2段構えのどんでん返しとなった試合だ。
共に打撃に定評のあるチームの対戦は、序盤から本塁打を重ねた智辯和歌山がリード。7回を終了し8対2と、ほぼ試合の流れを握っていた。だがそこは当時「東の横綱」と呼ばれた帝京。8回に2点を返し4点差とすると、9回に史上最多となる8得点をあげ逆転に成功。逆に4点のリードを奪う。この時、7対8から逆転打を放ったのが杉谷 拳士だった。

 だが、智辯和歌山は打倒・駒大苫小牧、打倒・田中 将大を掲げてここまで鍛え上げてきた。駒大苫小牧と対戦するまでに負けるわけにはいかないのだ。
智辯和歌山応援団が演奏する魔曲と名高い「ジョックロック」が流れるなか、智辯和歌山はランナーを溜めると橋本 良平の3ランホームランで一気に1点差に迫る。さらに次の打者も四球を選ぶ。もう止まらない智辯和歌山。ここで再度登場するのが杉谷 拳士だ。1年生ながら度胸を買われての登板となるが、さすがに緊張したのか初球で死球を与えてしまい、降板。しかも当てた相手がサヨナラのランナーになってしまい、杉谷は1球で負け投手になる。
9回裏に4点差をひっくり返した智辯和歌山が勝利し、田中 将大との対戦を勝ち取った。

この試合は記憶にもインパクトを残したが、記録にも残っている。
帝京が9回に8点を取ったのは9イニング目の最多得点
・対する智辯和歌山の4点差からのサヨナラ逆転も大会新記録
智辯和歌山の1試合5本塁打は大会新記録
・両チームあわせて7本塁打は、1試合最多本塁打
・勝利投手、敗戦投手とも投球数が1

と、並んでいる記録だけを見ても、凄まじい試合だったと想像できる。
ちなみにこの試合には当時帝京の2年生だった中村 晃(福岡ソフトバンクホークス)も4番・ファーストで出場、9回大逆転のきっかけとなるタイムリーを放っている。いわばこの試合は「持っている」選手だらけだったのだ。

 伝説と呼ばれる試合が同じ大会で生まれたのも、そうあることではない。漫画よりも漫画的、ドラマチックにもほどがある第88回全国高等学校野球選手権大会。それぞれお気に入りの選手や試合があるはず。語りつくされていると思っても、今一度見直してみると、新たな発見が出てくるはずだ。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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