サーキットトレーニングの目的とプログラム
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。
オフシーズンは基礎体力づくりがメインになるチームが多いと思います。ランニングやウエイトトレーニングなどいろんな取り組みを行っている中で、さまざまな種目を組み合わせて行う「サーキットトレーニング」を実施しているチームもあるかもしれませんね。
今回はサーキットトレーニングって何?という基本的なところから、実際にどのように種目を組み立てているのかといったことについて、お話をしていきたいと思います。
全身持久力と筋持久力強化がメイン
サーキットトレーニングとは数種類のエクササイズを組み合わせ、全身すべての筋肉や機能を動員し、循環(サーキット)させることを目的としたトレーニング方法です。このとき、エクササイズは比較的軽めの負荷を設定し、休息をとらずに心拍数を高い状態で保つように組み合わせます。こうすることで、体力要素の中でも特に全身持久力・筋持久力を重点的に強化することができます。野球において、スタミナを保持するための全身持久力や、同じ動作を繰り返しても崩れないだけのフォームを維持する筋持久力などは、鍛えておきたい体力要素ですよね。
採用されるエクササイズの多くが自重負荷ですので、筋力そのものを鍛えるといった点はあまり期待できませんが(ウエイトトレーニングのほうが断然効率がよい)、エクササイズによっては自分の体重をコントロールするバランス能力や敏捷性などもトレーニングすることが可能です。
心拍数を運動強度に応用しよう
脈拍は人差し指と中指の2本で測定するとわかりやすい
サーキットトレーニングを行う前にチェックしてもらいたい項目の一つとして安静時心拍数が上げられます。サーキットトレーニングはエクササイズの間に休息をおかず、休みなくさまざまな部分を動かし続けることで心拍数を上げていきますので、トレーニングの前に脈を測って自分の現状を把握すると、より明確な指標が得られるでしょう。
1分間の測定時間がむずかしい場合は30秒、20秒、10秒というふうに短い時間で計測し、60秒に換算することも構いませんが、短い時間になればなるほど計測の誤差が出やすいことも覚えておいてください。
マウンドに立つ投手の1分間の心拍数は最大200回にまでのぼるとも言われており、こうした心拍数の高い状態を保ちながら一定時間継続してトレーニングをすることで、実際の野球でのプレー時と同じような状況で身体を動かすことができます。またセット間のインターバル(休息)時にどれだけ心拍数が平常値に戻るかというのも、疲労回復、全身持久力の目安となります。簡易的な目安として最高心拍数を「220-年齢」で割り出し、安静時心拍数をあらかじめ測定しておくと、トレーニング後の心拍数がどのくらいの運動強度に相当するのかを知ることが出来ます。たとえば18歳の選手、安静時心拍数が70、サーキットトレーニング後の心拍数が150の場合、
(トレーニング後の心拍数-安静時心拍数)÷(最高心拍数-安静時心拍数)×100=運動強度(%)
(150-70)÷(202-70)×100≒60.6
およそ60%の強度であるといえます。また運動強度を設定し、トレーニングを行う場合は、
運動強度(70)×(最高心拍数-安静時心拍数)÷100+安静時心拍数=目標心拍数
70×(202-70)÷100+70=162.4
となり、心拍数がおよそ162拍/分の状態で、運動強度が70%に相当すると計算することが出来ます。年齢と安静時心拍数によるこうした指標は、大まかではありますがトレーニングの際に参考になると思います。
[page_break:エクササイズの組み立て方]エクササイズの組み立て方
実際のサーキットトレーニングではどのようなエクササイズを組んでいるのでしょうか。エクササイズのプログラムは、選手の体力レベルや参加人数、施設や器具などの環境、サーフェス(地面)などさまざまな要因を考慮して決めていく必要があります。パワー系のトレーニングエクササイズと有酸素系のエクササイズを交互に取り入れるのであれば、1種目行ったら次の種目にうつるまで走って移動するように設定すると、効率よく行うことが出来ます。
腕立て伏せやスクワットなどさまざまな姿勢を取り入れよう
30秒のエクササイズを行い、その後30秒間ランニングを行い、また次のエクササイズを行う・・・といったパターンで10種目、合計10分間のトレーニングプログラムを展開することを例に考えましょう。
エクササイズは上半身、下半身、体幹とトレーニングする部位を大きく3つに分け、それぞれが連続しないように配慮しながら組み立てます。30秒間連続して腕立て伏せを行ったら、次のエクササイズは30秒間のフロントランジを行い、その次は腹筋種目を行うといった具合です。また身体も座ったり、立ったり、寝転んだりとさまざまな姿勢をとるように配慮します。
そしてもう一つポイントとなるのがジャンプ系のエクササイズです。抱え込みジャンプ、もも上げ、縄跳びといったエクササイズはなるべく最初に一種目入れておくようにします。ジャンプ動作は一気に心拍数を上げますので、心拍数の高い状態をすぐに作り出すことができ、この状態を維持したままサーキットトレーニングを継続していくことができます。運動強度を上げて心肺持久力を強化するためには非常に効率がよい導入方法です。ただし、ジャンプ系のエクササイズはたとえ自重であってもかなりの強度を要します。筋力レベルの低い選手やトレーニング初心者などは、回数や秒数などを配慮する必要がありますし、場合によってはジャンプ系のエクササイズは省いてもよいかもしれません。またウォームアップ不足もケガを引き起こしやすいですので、入念に身体を温めてから行うようにしましょう。
たくさんのエクササイズを休みなく行うサーキットトレーニングですが、その組み合わせや運動プログラムは実はかなり綿密に計算されたものといえるでしょう。こうしたことを配慮しながら、基礎体力づくりの一つとして積極的に活用してみてくださいね。
【サーキットトレーニングの目的とプログラム】
●サーキットトレーニングとは全身の筋肉を動員して、循環(サーキット)させることを目的とする
●体力要素として特に強化されるのは「全身持久力」「筋持久力」
●心拍数を測定し、運動強度の目安にしよう
●エクササイズは部位別に連続しないこと、一つ一つ姿勢を変化させること
●ジャンプ系のエクササイズはトレーニングの始めに行い、心拍数を素早く上げる
●ジャンプを採用するときは筋力レベル、トレーニング頻度、疲労などを配慮すること
(文=西村 典子)
次回コラム公開は2月15日を予定しております。