膝を守るための基礎知識
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
荷重(かじゅう)関節といわれる膝はプレーの要です。体重を支え、素早い動作を行うために膝は大きな役割を果たします。野球では投球動作を繰り返すため、肩や肘などの上肢がより注目されますが、膝を痛めてしまうと投球動作はおろか走ることさえままならなくなります。
今回は野球選手にみられる膝のケガについてお話をしたいと思います。
膝に水がたまるとは?
腫れをおさえるためにはまずRICE処置を
デッドボールや自打球などが膝周辺部にあたり、腫れることがあります。
膝の曲げ伸ばしがスムーズに出来なくなると「これは膝に水がたまったからですか?」と選手から聞かれることも多いのですが、正確にいうと腫れたこと(=浮腫)によって関節の動きが制限されたものであり、膝に水(関節液)がたまったからという訳ではありません。
膝に水がたまる原因としては、ひねるなどの動作で膝関節内を痛めてしまい、中で炎症が起こることによります。
炎症を抑えるために関節液が関節内に分泌されるため、「膝に水がたまった」という状態になるのです。また膝の関節内にある軟骨=半月板を損傷した場合や、関節内の靱帯を痛めた場合にも水がたまることがあります。こういった場合は水だけではなく内出血を伴うこともあります。
直接的な打撲による腫れ=「浮腫(ふしゅ)」と、関節内を痛めたことによる腫れ=「水腫(すいしゅ)、血腫(けっしゅ)」は違うことを覚えておきましょう。こうした腫れにはまずRICE処置を行い、腫れをひかせるようにすることが大切です。
成長期にみられやすいオスグッド病・分裂膝蓋骨
成長期は骨が長軸方向に伸び、筋肉との成長スピードに時間差が生じるため、さまざまなスポーツ傷害を起こすことがあります。代表的なものとしては膝蓋骨下部分に痛みを感じるようになるオスグッド病がよく知られています(参考ページ:成長期のスポーツ障害)。
太ももの前側にある大腿四頭筋の引っ張り力が強いほど、筋肉の付着部である膝蓋骨下の部分には大きなストレスがかかります。また同じように太ももの内側にある筋肉(内側広筋)などに過度な緊張がもたらされると付着部である膝蓋骨上部や内側が引っ張られて、膝蓋骨が分裂したように離れてしまうことがあります。これを分裂膝蓋骨といいます。
痛みがない無痛のものと、痛みを伴う有痛のものがありますが、有痛性の分裂膝蓋骨の場合、痛みの程度に応じて分裂した部分を手術によって切除することもあります。
こうした膝のスポーツ障害は成長期に起こりやすいといわれており、膝の痛みが続く場合は早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切になってきます。どちらのケガも太ももの前側の筋肉が硬くなっていることに原因がありますので、ストレッチなどで筋肉の柔軟性を高めることも行うようにしましょう。
膝が内側に入っていませんか?
膝が内側に入らないように気をつけよう
普段の練習やトレーニングなどでチェックしてもらいたいのが膝のポジションです。膝が極端に内側に入ってしまうと膝関節を痛める原因になりやすく、そこに接触プレーなどで予期せぬ外力が加わると、膝関節の中でクッションの役割を持つ半月板や、膝の靱帯を損傷することもあります。
膝の内側にある内側側副靱帯や、膝関節の中にある前十字靱帯などです。関節弛緩性(関節のゆるみ)は女性のほうが高く、膝が内側に入りやすいといわれていますが、キャッチャーなどはそのポジション特性などから膝が内側に入ることが多いため、筋力トレーニングによってケガをしないように日頃から気をつける必要があります。
膝を曲げるときの基本的なポジションとしては、膝が曲がるときに内側に入らないようにすること。膝はつま先と同じ方向を向くように常に意識して動作を行い、体の使い方を学習するようにすると良いでしょう。また膝の角度が90°以上深く曲げると、膝関節そのものにかなり大きな荷重ストレスがかかりますので、重いウエイトを使ってのスクワット動作などは回数や重量などを考慮しながら行うようにしましょう。
野球と前十字靱帯損傷
膝のケガの中で特に気をつけたいものの一つが前十字靱帯の損傷です。接触プレーを行うスポーツに多く見られるため、接触プレーがあまり多くない野球ではさほど発生頻度は高くありません。しかしベース上でのランナーと野手の接触や、守っている際のバント処理でみられる切り返し動作、ぬかるんだグランドに足下をとられて転倒といった人との接触のない状態でのプレーにおいても、前十字靱帯を痛めることがあります。
ケガをしたときに膝に大きな痛みがあり(音がしたという選手もいる)、靱帯が損傷しているため関節液や内出血などが起こり、膝は水や血でパンパンに腫れてしまいます。歩くことも難しいため、すぐに医療機関を受診するようにしましょう。前十字靱帯は再建手術を受けて約半年から一年ほどかけてリハビリテーションを行います(完治に至るまでには個人差があります)。
手術をしないで保存療法で対応することも可能ですが、選手のプレーヤーとしてのキャリアプランなども踏まえ、医師や監督・コーチ、保護者の方とよく相談をした上で、ケガをした選手にとって最もよい選択を行ってください。
膝は体重を支え、機敏な動作を行うために大きな役割を果たします。成長期でもある皆さんには膝の痛みは普段からよく起こることかもしれませんね。こうした膝のケガは適切な対応をとることで早期に競技復帰を可能にします。筋力強化も含め、日頃からケガ予防のために自分でできることを意識して行うようにしてみてくださいね。
【膝を守るための基礎知識】
●膝の打撲などで腫れるものは「浮腫」、水や血がたまるものは「水腫」「血腫」
●膝をひねったりすると関節内に水がたまることがある
●オスグッド病や分裂膝蓋骨は成長期の選手によくみられる
●日頃の動きの中で膝が内側に入らないようにし、つま先と膝を同じ方向にする
●深く曲げる動作のときは膝に大きな荷重ストレスがかかりやすい
●前十字靱帯損傷は接触プレーの少ない野球でも起こる
(文=西村 典子)
次回コラム公開は10月15日を予定しております。