実力を発揮するための暑さ対策
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
もうすでに夏の大会が開催されている地域もあり、三年生にとっては最後の公式戦となりました。これから大会に向けて「劇的に技術力がアップする」ということは考えにくいですが、「コンディションが突然悪くなる」ということはあり得ます。今までやってきたことを存分に発揮するためにも、体のコンディションは万全にしたいですよね。
今回はこの時期の暑さに負けないために日常生活から出来ること、そして試合本番での暑さ対策などについてお話をしたいと思います。
睡眠不足はコンディション不良のもと ~日常生活から出来る暑さ対策~
暑さに慣れるには1週間ほどかかる
寝る間を惜しんで練習するという姿勢は、反復練習を繰り返して技術を磨くためには必要な時期があるかもしれません。ただし、試合前の時期に睡眠不足に陥ってしまうようなことがあっては、試合当日のパフォーマンスに大きな影響を及ぼします。
熱中症の症状を訴える選手の多くが「前日によく眠れなかった」「十分な睡眠が取れなかった」と睡眠不足だったことを告白しています。さらに睡眠不足から朝起きるのが遅くなり、そのまま朝食をとらずに練習や試合に参加するといった事態になってしまうことも。エネルギー源も不十分な上に、暑い環境下で激しい運動を行うと体調を崩してしまうことは容易に考えられると思います。
「十分な睡眠・食事も練習のうち」と肝に銘じて、十分な休養を取るようにしましょう(参考ページ:野球選手にとって睡眠が大切なワケ)
体重チェックを習慣化しよう ~日常生活から出来る暑さ対策~
朝起きたら自分の体重を計る習慣をつけるようにしましょう。また練習前後にも体重を計り、練習前と比べてどのくらい体重が減っているのかを数値で確認するようにします。体重の2%にあたる水分量が失われると脱水状態がすすみ、競技パフォーマンスの低下、集中力や判断力の欠如が顕著に見られると言われています。
たとえば体重60kgの選手であれば、練習後に58.8㎏以下にまで減っていると要注意。練習中からこまめな水分・塩分補給、補食などもうまく活用し、体重を減らさないように気をつけましょう。
体を暑さに慣らしておこう ~日常生活から出来る暑さ対策~
これから暑くなるにつれて、屋内で過ごす温度と屋外での温度の差が大きいほど、自律神経のバランスが乱れ、体にダメージを与えやすくなります。クーラーの冷房は少し温度設定をあげ、扇風機などを活用して室内の空気を循環させて過ごすようにしてみましょう。
また寝るときに暑苦しくて眠れないという場合は、クーラーを1時間程度で切れるようにタイマーをセットした上で、使うことをオススメします。疲れてクーラーをつけっぱなしで寝てしまった結果、風邪をひいてしまったというケースもよく見られますので、十分に注意しましょう。
体が暑さに慣れる「暑熱馴化(しょねつじゅんか)」は一週間から10日ほどかかると言われています。こうした取り組みは試合前日だけではなく、事前の準備が大切です。
試合本番での暑さ対策
暑さ対策は事前の準備をしっかりした上で、当日の試合に臨んでもらいたいと思います。試合当日にも工夫して出来ることをあげておきますので、ぜひ参考にしてください。
飲み物の温度に気をつける ~試合本番での暑さ対策~
飲み物は冷やしすぎず、ぬるい程度で
暑い中でプレーをしているとどうしても冷たい飲み物が欲しくなるのはよくわかります。
しかし、氷などで冷やした飲み物は胃腸に負担をかけ、飲み過ぎで腹痛を起こすことも考えられます。水分補給に最適な温度は諸説ありますが、およそ8~13度程度といわれています。冷蔵庫で冷やしておいた水が5度程度ですので、冷蔵庫で冷やしたものを、温度がキープできる魔法瓶などに入れ替えて持参すると適切な温度を保つことが出来ます。
大きなジャグで飲み物を管理する場合は、氷を使ってある程度冷やしたらそこから氷を追加せず、「少しぬるいかな?」と感じる程度の温度を保つようにしましょう。
氷を使って体を冷やす ~試合本番での暑さ対策~
炎天下でプレーを続けるとかなり汗をかき、体が熱いと感じることがあると思います。こういった時はこまめな水分・塩分補給に加えて、氷などで体を冷やすようにしましょう。
冷やす部分は大きな動脈が通っている場所。熱中症の対策と同じように、首の後ろや脇の下、股の付け根や膝裏などを冷やすとよいでしょう。
ピッチャーは一番ダメージが大きいと思われがちですが、あなどれないのはキャッチャーです。防具をつけた状態で熱がこもりやすいので、バッテリーは特に注意して暑さ対策を行うようにしてください。
うちわと扇子で熱を放散させる ~試合本番での暑さ対策~
汗が止まらないほど暑さを感じるとき、うちわや扇子を持っているとかなり役立ちます。ベンチに戻ってきたら濡れタオルを首にかけてうちわや扇子などで仰ぐと、直接風があたって熱を放散させます。
アナログですが熱中症対策にも使えるので、意外と役立ちますよ。
冬の間取り組んできた体力作り、スタミナ強化といったことは、いざ夏の暑い環境下にあっても、普段通りにプレーできるための土台として役立つことでしょう。加えて暑さ対策のための事前準備、そして当日の取り組み等、自分自身でコンディションをよりよく整えることが可能です。持っている力を十二分に発揮するためにも、今から出来ることにしっかりと取り組んでいきましょう。
実力を発揮するための暑さ対策
●睡眠不足はコンディション不良のもと。「寝ることも練習の一つ」と心得る
●体重チェックで脱水を予防しよう。体重の2%以上の水分を失うとパフォーマンス低下につながる
●クーラーをうまく利用しよう。就寝時にはタイマー設定を忘れずに
●水分補給のための飲み物の温度は「少しぬるいかな」と感じる程度に
●体が熱くて汗がひかないときは、氷で首の後ろや脇の下などを冷やすと効果的
●うちわや扇子などで仰ぐと、直接風が体に当たって熱が放散されやすい
(文=西村 典子)
次回、第96回公開は7月15日を予定しております。