ケガをした選手の心理
5月はケガをしやすい時期
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
早いもので4月も終わり、春の地方大会も終盤を迎えていることと思います。勝ち残っているチーム、残念ながら負けてしまったチームとそれぞれ状況は違いますが、この春の戦いが夏への土台へとつながっていくことでしょう。
今回は新学期から一ヶ月たち、環境にも慣れてきたころにケガが多く起こりやすいことや、ケガをした選手の心理についてお話をしたいと思います。
●5月はケガをしやすい時期
新入生が入部してから一ヶ月あまり。5月はスポーツ傷害が起こりやすい時期ともいわれています。高校の練習についていくことに必死になるあまり、どこか痛めていても「痛い」といわずに我慢してしまったり、筋力不足から疲労が蓄積されてケガに至ってしまったりといったことが起こるのがこの時期です。自分の身体を自分でケア、コントロールするという「セルフコンディショニング」という概念についてもまだまだ知識不足、認識不足のところもあるかもしれませんね。痛みがある場合のRICE処置であったり、ウォームアップやクールダウン、適切なストレッチ方法や栄養バランスなど、今、自分の身体に必要なものは何かということをぜひ頭の片隅において、野球の練習に取り組んでもらえたらと思います。
●突発的なケガはどうしても起こる
セルフコンディショニングの意識を高めて実践していても、突発的なケガ(スポーツ外傷)は防ぎようのない場合もあります。野球は相手との接触が比較的少ない「ノンコンタクトスポーツ」に分類されますが、ランナーと守備選手とのクロスプレーなどでは接触することがあります。また相手との接触がなくてもボールが当たるといった危険性も常にはらんでいます。こういった突発的なケガが起こったとき、トレーナーなど専門家のいる環境にあればいいのですが、多くのケースが監督やコーチなどの指導者や、練習を見にこられている父母の方が対応することになるのではないでしょうか。ケガをしたときの選手の心理状態は次のように変化するといわれています。
否定 → 怒り → 消沈 → 認識 → Positive
この流れについて次のページで詳しくお話をしたいと思います。
ケガをした選手の心理
【否定】
文字通り事実を認めていない状況です。深刻なケガをした選手ほど、こちらからの問いかけに「大丈夫です」と答えます。その大半は「大丈夫」ではありません。深呼吸をし、落ち着いてケガをした部位を動かせるか、痛みはどうか、下肢であれば体重をかけることができるか、歩けるかといった日常動作についてチェックを行いましょう。
痛みで患部が動かせないことがわかったとき、選手はようやく「自分はケガをしたんだ」ということを理解します。
【怒り】
思うように動けない、痛みがひどいといった深刻なケガであることがわかると、選手はその事実に対して怒りを覚えます。怒ってもケガをした事実は変わらないのですが、大声で叫んだり、何かモノやその場にいる人に当たったりといった行動を起こすことがあります。トレーナーとしてはこうした選手の心理を理解した上で、ケガへの対応とともに選手へのメンタル面へのケアを行う必要があります。
【消沈】
いくら事実に対して怒ったところで、現状は変わりません。その事実を受け入れるととたんに選手は「どうせ自分なんか・・・」と意気消沈し、プレーしたくでもできないという辛さがあらわれてきます。ケガをきっかけに部活を辞めてしまう選手もいますが、こうした意気消沈したところから、プレーすることに対してのマイナス思考が原因であることが多いと思います。
【認識】
怒って、意気消沈した後にようやくケガをした事実を認めることになります。怒っていても落ち込んでいても現実は変わらないということに気づく段階です。
【Positive】
事実を認めることで、ケガから競技復帰に向けたリハビリテーションに前向きな姿勢を見せるようになります。このケガを克服すれば再びプレーができるという気持ちが生まれてくるようになります。トレーナーとしてはドクターなどと連携を取りながら、段階的にリハビリテーションやトレーニングプログラムを提供します。一歩一歩階段を上るようにできることが増えていき、選手は自信を取り戻します。
ケガをした選手はさまざまな心理状態を抱えています。できる練習も限られ、また端から見ると地味なトレーニングを繰り返す日々を過ごすことも多くなります。身体的なダメージだけではなく、メンタル面でのこうした状況に配慮しながら、ケガをした選手が孤立することのないようにサポートしていくことが大切です。
【ケガをした選手の心理】
●特に春先は身体的なストレス・疲労からケガをしやすい
●セルフコンディショニングの意識を高めることである程度ケガを防ぐことは可能
●突発的なスポーツ外傷(デッドボールやクロスプレーなどによるケガ)は避けられない
●ケガをした選手の心理は、否定 → 怒り → 消沈 → 認識 → Positive
●Positiveにいたるまでにさまざまな心理状態を経験する
●ケガをした選手を孤立させないチームの雰囲気とサポートが必要
(文=西村 典子)
次回、第44回公開は05月15日を予定しております。