肩が痛いときにチェックしたいこと
写真1:背中が丸まった前屈
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
野球は投球動作を伴うスポーツなので、どうしても肩や肘を痛めるケースが多くみられます。肩や肘が痛いときは練習を休んで安静にし、痛みがなくなったら練習を再開して、それでもまた痛くなってしまう、ということを経験した選手も多いのではないでしょうか。
今回は肩や肘が痛い場合に、まず確認したいチェックポイントについてお話をしたいと思います。
肩や肘へのダメージが起こる原因の一つには「成長期であること」が挙げられます。身長などが伸びるこの時期は、骨の成長スピードが大きく、筋肉がそのスピードに追いつかないという現象がみられます。いわゆる成長痛といわれるものも、こうした骨と筋肉の成長スピードの違いから起こります。骨が伸びているのに筋肉がそのスピードに追いつかないと、どうしても関節や筋肉が硬くなってしまいます。こうした現象は特に下半身によくみられ、足を伸ばして長座体前屈をしてみると背中が丸まった前屈をする選手が多くみられるのです(写真1)。また練習などで疲労がたまると柔軟性はさらに低下します。成長期である選手のみなさんは「身体の硬い時期」であるということを理解して、日々のストレッチを欠かさないようにしましょう。
その上でプレーをするときに肩や肘に痛みや違和感があると感じたときは、まず下半身の柔軟性チェックをしてみましょう。下半身がうまく使えず、上体だけで投げているときは肩や肘により大きなストレスがかかります。キャッチボール相手に投球フォームをチェックしてもらい、投げるときにしっかりと下半身が使えているか(上体投げになっていないか)、肘の位置は適切かなどを確認してもらうといいでしょう。肘の位置を少し上方修正しただけで、痛みが軽減したケースなどもあります。柔軟性のほかには筋力のチェック(左右差などを含め)、自分の肩関節の可動域(関節の動く範囲)なども日頃からチェックすることが望ましいです。
写真2:肩の後方(外旋筋群)を伸ばすストレッチ
肩が痛いと訴えてくる選手の大半は、肩だけに原因があるのではなくさまざまな要因が考えられます。特に肩の前面に痛みがある場合、投球フォームに何らかの原因があることが多いようです。
慢性的な痛みになっている場合は、肩そのものの筋肉や腱など機能的な障害が考えられますがそれ以前の、違和感などをおぼえている段階であれば、投球フォームからチェックしていくことがケガを悪化させないためには必要となってきます。
肩の柔軟性を高めるためのストレッチもさまざまな方法がありますが、私が特に選手に勧めているのが肩の後方(外旋筋群)を伸ばすストレッチです(写真2)。これなら練習前後や自宅でも一人で簡単に行うことができます。投球側の肩を下にした上体で横になり腕を横90°に伸ばします。そこから肘を90°曲げて床に向けてゆっくりと伸ばしていきます。
また肩の深層部にある筋肉群=腱板(いわゆるインナーマッスル、英語ではローテーターカフ)をトレーニングすることを取り入れている選手が多くみられるようになりましたが、なぜこの筋肉をトレーニングするのか、適切に強化するためにはどのようにすればいいかといったことをきちんと理解することが大切です。どうしてこの筋肉をチューブやダンベルなどを使ってトレーニングするのでしょう?
インナーマッスルは肩の安定性を高めるために必要な筋肉群です。大きな力を発揮するものではありませんが、繰り返し投球動作を行う上で、腕を支える上腕骨を適切なポジションに位置づける役割があります。インナーマッスルが弱ってくると肩をあげるときに余計な力が入り(代償運動)、結果として肩を痛める原因にもなりやすいのです。
次回はこのインナーマッスルについての基礎知識とトレーニングの時に気をつけてもらいたいポイントなどを解説したいと思います。
参考文献)トレーニングジャーナル2007年12月号「肩のエクササイズ」
【肩や肘が痛いと感じた時のセルフチェック】
●高校生は成長期。身体の硬い時期であることを認識し、ストレッチを行おう
●柔軟性・筋力・関節可動域・投球フォームの確認をしよう
●上体投げになっていないかチェックしよう
●肩の後方ストレッチは練習前後や自宅で習慣化しよう
●インナーマッスルのトレーニングはその意義を理解して行おう
(文=西村 典子)
次回、第39回公開は02月29日を予定しております。