野球と熱中症
第23回 野球と熱中症2011年06月30日
スポーツ種目別発生傾向(昭和50年~平成21年)
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
暑い夏が近づくにつれて気をつけたいのが熱中症による体調不良や事故です。軽度のものであれば脱水症状を改善することで良くなりますが、重度になるにつれて早急な対応が求められるようになります。今回は熱中症を防ぐために心がけたいことと応急処置についてお話をしたいと思います。
毎年、学校でのスポーツ活動中に熱中症による事故が起こっており、野球による熱中症の事故が一番多い種目となっています(独立行政法人日本スポーツ振興センター 学校安全Webより)。
野球は日中の練習時間が長い傾向にあることが原因の一つと考えられます。熱中症には脱水による脱力感、めまい、頭痛、吐き気などを訴える「熱疲労」、大量に汗をかいて水分補給のみを行い、水分と塩分のバランスが崩れて足、腕、お腹などに痛みやけいれんを起こす「熱けいれん」、体温上昇によって中枢機能に異常をきたし、反応が鈍い、言動がおかしい、意識がないといった重篤な症状がみられる「熱射病」の3種類があります。
熱中症が起こりやすい環境要因としては、気温・湿度・日差しの強さ・風の有無などがあげられます。特に気温が高くなくても湿度が高ければ体の中に熱がこもりやすくなるので注意が必要です。最近はテレビやネットなどでも夏には熱中症指数が発表されていますので、練習前にはこのような数値をチェックすることをオススメします(日本気象協会・熱中症指数)。
人間には暑い環境の中で過ごしていると、自然と汗の量が増えて適切な体温調節を行うようになります。これを暑熱馴化(しょねつじゅんか)と呼ぶのですが、体が慣れるまでにおよそ1週間程度かかると言われています。
だんだん暑くなる環境ではさほど問題は起こらないのですが、突然暑くなると暑熱馴化に対応していない体は熱中症を起こすリスクが高くなります。
前日は涼しかったのに急に気温や湿度が高くなった日などは要注意です。また選手個人のコンディションによる要因も考えられます。
《環境要因》
・前日と比較して急に気温が高くなった日
・梅雨明けなど雨から急に気温・湿度が高くなった日
・風のない蒸し暑い日
《個別要因》
・睡眠不足のまま練習に参加する
・下痢などの体調不良(すでに軽度の脱水症状にあることが多い)
・朝食を食べていない(エネルギー源のない状態では体力が落ちる)
・疲労が激しいとき(合宿の後半など)
・風邪などの病み上がりの時
・防具をつけているキャッチャー
特にキャッチャーは暑い中、防具をつけてプレーをしているため、より熱中症には注意する必要があります。攻撃の時は防具や帽子を外して、日陰で風通しのよい場所で過ごす、水分・塩分補給をこまめに行う等、防具による暑さが体の中にこもらない工夫をしましょう。
熱中症を予防するために欠かせないのが水分・塩分補給です。個人にまかせて練習の合間に水分・塩分補給を行うだけではなく、ウォーターブレイクといって強制的に水分・塩分補給を行う時間を設けるようにするなど、練習の中でもぜひ取り入れていただきたいと思います。
水分・塩分補給の詳しい内容については第2回コラム「夏の暑さに負けない工夫」を参考にしてください。
熱中症の症状がみられる場合は、ただちに応急処置を行います。
《熱疲労の場合》
・涼しい場所に移動し、ベルトなど体を締め付けるものや靴などを脱ぎ寝かせる
・水分・塩分補給を行う。
・氷などで体を冷やす(大動脈のある頸部、脇の下、股関節付け根、膝裏など)
・足を少し高くしておくことも効果的
・吐き気や嘔吐がある場合は、病院で点滴を受けるようにする
《熱けいれんの場合》
・生理食塩水(0.9%)やそれに準じた水分を補給する
・けいれんしている部位をゆっくりストレッチする
《熱射病の場合》
まずは意識があるかどうか、反応があるかどうかの確認し、反応が鈍いようであればすぐに救急車の手配をしましょう。また熱射病になると体温が異常に高くなります。明らかに体温が高い場合も同様に対応します。
・救急車を手配する
・氷や濡れタオルを使う、扇風機やうちわなどで直接体に風を送り、一刻も早く体温を下げる
(氷は大動脈のある頸部、脇の下、股関節付け根、膝裏など、熱疲労と同じ部位を中心に)
熱中症はそのままにしておくと重篤な事態を引き起こしかねません。環境や選手のコンディションに細心の注意を払いながら、いざというときは迅速に応急処置の対応ができるよう、日頃から熱中症に対する意識を高めるようにしてくださいね。
(文=西村 典子)
次回、第24回公開は07月前半を予定しております。