人工芝のグランドで起こりやすいケガ
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
皆さんは人工芝を用いたグランドでプレーをした経験はありますか。学校では土のグランド、球場では天然芝といったところが多いと思いますが、公式戦などでは人工芝の球場を使用することもあります。グランドの表面(サーフェス)が変わると体にかかる負担も変わり、思わぬケガをすることも考えられます。今回は人工芝のグランドで起こりやすいケガや気をつけたいことについて、お話をしたいと思います。
天然芝と人工芝の特徴
人工芝はメンテナンスしやすい反面、体には負担がかかりやすい
以前は多くの球場が天然芝を使用していましたが、プロ野球チームが使用する球場を中心に人工芝を採用するところが多くなっています。人工芝を採用する理由としては、メンテナンスにかかる費用が天然芝に比べて安く、管理する手間が少ないことがそのメリットとしてあげられます。一方で人工芝は天然芝のサーフェスに比べ、下がコンクリートで固められているためクッション性が低く、プレーをする選手に負担がかかりやすいことが考えられます。ここでそれぞれのグランドの特徴を整理しておきましょう。
【人工芝の特徴】
・人工芝の下はコンクリートで固められているため、クッション性が低い
・打球がよく跳ねる(下がコンクリートなので)
・ボールの転がりが減速しにくい
・ダイビングキャッチなどで滑り込むと摩擦で皮膚を傷めやすい
・維持費が天然芝に比べて安く、管理する手間が少ない
【天然芝の特徴】
・天然芝の下は土なので、人工芝に比べてクッション性が高い
・打球が跳ねにくい(ただしイレギュラーすることがある)
・ボールの転がりが減速する
・芝に滑り込んでも摩擦が少ないのでやけどをすることが少ない(ただし擦過傷は起こる)
・維持費が人工芝に比べて高く、水やり・草刈り等手間がかかる
こうした特徴を踏まえ、人工芝で起こりやすいケガや気をつけたいことについてまとめておきたいと思います。
体幹部や下肢への負担が大きい
人工芝でのプレーでは下肢や体幹に疲労が蓄積しやすい
人工芝はコンクリートの土台に貼り付けられた硬い表面であることから、天然芝に比べて疲労がたまりやすいと考えられます。特に長時間プレーをしていると、ジャンプやランニング時にかかる物理的ストレスが体重のかかる関節(荷重関節:かじゅうかんせつ)、たとえば足関節、膝関節、腰椎などに大きな負担となります。足首であれば横方向への動きで、踏ん張りがきかずに滑ってしまったり、芝の切れ目にスパイクが引っかかって転倒したりしやすく、そこから足首をひねって捻挫をするケースが見られます。また人工芝でのプレー時間が長くなるにつれて腰椎への負担が大きくなり、背中が張ったり、腰が痛くなったりといったこともあります。練習や試合前にはどのチームもウォームアップを行うと思いますが、人工芝でのプレー後はクールダウンを念入りに行い、下肢や体幹部の疲労をケアすることが大切です。
擦過傷が広範囲になりやすい
人工芝でのスライディングは皮膚と地面との間で摩擦熱が起こり、天然芝に比べると擦過傷(さっかしょう:すり傷のこと)が広範囲に渡ってしまうことも少なくありません。皮膚が火傷をしたように赤みを帯びてヒリヒリとした痛みを伴うこともあります。スライディングの技術も求められますが、もしケガをした場合は傷口を水道水などで丁寧に洗い流し、患部を渇かさないように保護する湿潤療法用のパッドなどを用いて、適切な応急手当を行うことが大切です。
照り返しが強く熱中症のリスクが高い
強い日射しの元では人工芝の表面は非常に熱くなり、そこに日光の照り返しも加わるために、選手にとっては上からの日射しと下からの照り返しというダブルのダメージを受けることになります。これに外気温が高く、風が弱いもしくはほとんどない状態でプレーをしていると、想像以上に体力を消耗しやすく、熱中症のリスクが高まります。体をすぐに冷やせるように氷や氷水などをあらかじめ備えておくこと、こまめに水分・塩分補給を行うこと、不必要に直射日光のあたる場所にとどまらないことなどを心がけましょう。
人工芝でプレーする機会は天然芝や土のグランドに比べると少ないかもしれませんが、体にはいつもとは違った負担がかかることが考えられます。大会などで人工芝の球場を使用するときは、ウォームアップやクールダウンを丁寧に行うことや、熱中症対策を事前にしっかり準備しておくことなどを覚えておきましょう。
【人工芝のグランドで起こりやすいケガ】
●人工芝はコンクリートの上に貼り付けた表面をもち、クッション性が低い。
●スライディングなど滑り込みによる摩擦熱で皮膚をやけどしやすい
●体重がかかる荷重関節(足関節・膝関節・腰椎など)を中心に負担がかかりやすい
●人工芝の切れ目や横方向の動きによって足関節を捻挫することがある
●上からの日射しと下からの照り返しによって気温以上に暑さを感じやすい
●人工芝でプレーを行うときは熱中症対策を万全にしておき、プレー後はクールダウンを入念に行おう