投球傷害を防ぐ下肢の柔軟性チェック
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
春のシーズン始めは、ボールを投げる機会が増えて肩や肘を傷める選手が増える時期でもあります。オーバーワーク(投げすぎ)であることが主な要因ですが、この他にも体の使い方や、肩や肘に大きな負担がかかりやすいフォームで投げている場合もあります。投球傷害を起こすとどうしても肩や肘など上半身に注目しがちですが、実は下半身の柔軟性が低下しているために肩痛・肘痛を起こすこともあります。今回は投球傷害を予防するために必要な下肢の柔軟性とそのチェックについてお話をしたいと思います。
下半身のコンディションが肩や肘に影響する
野球のプレーにおいて大きな力を発揮するためには下肢筋力がとても重要です。投球動作は地面からの反力を受けて、足から体幹、そして腕、手指に力が伝達され、最終的にその力がボールに伝わって投げるという動作が起こります。そして投球動作に限らず、バッティング動作やランニングにおいても下肢から上肢へと力が伝達されることによって、より強く、大きなパワーを発揮することが可能です。そして下肢と上肢の間に位置する体幹は力の伝達において重要な役割を果たしています。
パフォーマンスを向上させる(競技力を高める)ためには肩や肘の動きだけではなく、体幹の安定としなやかさ、そして下肢の力強さと柔軟性が必要不可欠なものであると言えるでしょう。これらは競技力だけではなく、投球傷害を予防するという点においても大切なものです。特に下肢の柔軟性が不足するとそれぞれの関節可動域(関節が動く範囲)がせまくなり、上半身にそのしわ寄せがくるため、肩や肘により大きな負担がかかりやすくなります。特に中学生・高校生の年代は体が成長する時期でもあり、筋肉の柔軟性が低下しやすいことが知られていますので、日頃から下半身の柔軟性をチェックしてコンディションを整えておくことが大切です。
下肢の柔軟性チェック
ここでは投球傷害を予防するために必要な下肢機能をチェックしてみましょう。
《太もも前面》
うつ伏せで膝を曲げてかかとがお尻につきますか?(315_1.jpg)
大腿四頭筋をはじめとする太もも前面部の柔軟性チェックです。うつ伏せになった状態で片方の手で足首をつかみ、膝を曲げます。かかとがお尻につくかどうかを確認してみましょう。左右どちらもチェックします。かかとがお尻につかない場合は、鏡などを使って目視でその距離を確認したり、他の人に見てもらったりすると左右差がわかりやすいと思います。パートナーストレッチとして実施することも良いでしょう。(図315_1.jpg)
《太もも後面》
前屈動作で手が地面につきますか?(315_2.jpg)
大腿二頭筋をはじめとする太もも後面部の柔軟性チェックです。足を肩幅程度に広げた状態から前屈し、手が地面につくかどうかを確認してみましょう。腰に痛みや不安がある場合は長座の姿勢をとって足裏に手が届くかどうかを確認する方法でも構いません。(図315_2.jpg)
《股関節の動き》
うつ伏せで両膝を曲げ、足が外に開きますか?(315_3.jpg)
うつ伏せになった状態で膝をそろえ、両膝を曲げます。そこからそれぞれ外側に向かって扇のように足を開いてみましょう。それぞれ45°の可動域があればOKです。左右差が見られるかどうかも確認しておきましょう。(図315_3.jpg)
[page_break:片足バランスのチェック]片足バランスのチェック
疲労によってバランス能力が低下していませんか?(315_4.jpg)
柔軟性のほかに、片足で立ったときのバランスもあわせてチェックしておきましょう。平らな場所に立ち、片足を膝の高さ程度に上げてバランス良く立つことができるかどうかを確認します。それぞれの秒数をカウントすることも良いでしょう(30秒程度を目安に)。(図315_4.jpg)
このバランステストでは左右差を確認することももちろん大切ですが、連投などで下肢に疲労がたまっているとバランスを崩しやすくなる傾向があります。バランス能力が顕著に低下している状態では、下肢のブレによって投球フォームを崩しやすく、その影響が肩や肘に及ぶことが懸念されます。明らかに疲労が見られる場合は、投球傷害を防ぐためにも疲労回復のためのコンディショニングを優先させるようにしましょう。
下肢のコンディションが低下していると、下から上へと力が伝達していく過程の中で、肩や肘にかかる負担が大きくなると考えられます。特に高校生の皆さんは体の柔軟性が低下しやすい時期でもあるため、日頃から下肢の柔軟性やバランスなどをセルフチェックし、「いつもと違うな」と感じたときは、練習内容の見直しやストレッチなどのコンディショニングを優先して行うようにしましょう。
【投球傷害を防ぐ下肢のチェック】
●投球動作は下肢、体幹、上肢、ボールと下から上へと力が伝達して行われる
●下肢の柔軟性が低下すると、その分肩や肘に大きな負担がかかりやすい
●中高生は体が大きくなる時期であり、この時期は筋肉の柔軟性が低下しやすい
●太ももの前面・後面、股関節の可動域を確認しよう
●片足で自分の体重を支えてバランスが保てるかを見てみよう
●下肢のコンディションが低下しているときは、状態を回復させることを優先させよう