膝のアライメントとO脚・X脚
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
皆さんは「アライメント」という専門用語を聞いたことがあるでしょうか。一般的には本来あるべき位置に「正しく並べること」を意味しますが、スポーツ医学の分野では骨や軟骨、関節などの配列のことを指します。偏平足やO脚、X脚などはアライメントが崩れた状態であり、長期にわたってプレーを続けるとケガのリスクが高まると考えられています。今回は膝の特徴的なアライメントであるO脚とX脚についてお話をしたいと思います。
立った姿勢で行う膝のセルフチェック
膝のアライメント異常によるO脚とX脚
O脚やX脚は鏡などを使って立ち姿を見ると、一人でもチェックすることができます。左右の内くるぶしをつけた状態で立ち、膝の部分に注目します。立った姿勢で膝の内側にすき間があり、そのすき間に指が2本以上入る場合を一般的に「O脚」と呼びます。反対に両膝の内側が接しているのに内くるぶしが離れてしまっている状態を「X脚」と呼びます。O脚やX脚に見られるアライメント異常は骨の配列による先天的なものと、筋力不足や姿勢の悪さなどが原因となって起こることがあります。
O脚やX脚は成長段階において脚の形態に変化が見られることがわかっています。乳幼児期の頃はO脚傾向であり、立って歩き出すようになると荷重によってX脚に移行します。その後、成長とともに自然なアライメントを形成します。
O脚の特徴と考えられるリスク
日本人の多くはO脚傾向にあるといわれていますが、これは内転筋など太ももの内側の筋肉がうまく使えていないために筋力低下が起こり、膝が正面からやや外側に開いてしまいやすいことや、お尻の筋肉が硬くなって、いわゆる「がに股」状態でバランスをとってしまうことが原因と考えられます。その結果、両膝の内側にあるすき間が大きくなってしまい、O脚となってしまいます。
O脚は膝蓋骨(膝のお皿の骨)が外側に引っ張られやすく、運動量が増えるに従って膝の外側を中心にトラブルが起こりやすくなります。代表的なものには膝の外側にある靱帯を痛める腸脛(ちょうけい)靱帯炎が挙げられます。またO脚によって下腿部の脛骨(けいこつ)がねじられた状態となり、ジャンプの繰り返しや激しいランニングによって荷重負荷が大きくなると、シンスプリントや疲労骨折などが起こりやすくなると考えられています。
O脚の選手は外側に荷重がかかりやすいため、特に内転筋をはじめとする太もも内側の筋肉を鍛え、臀部の柔軟性についてもストレッチなどで改善しておくようにしましょう。お尻の筋肉が硬いとつま先が外側に向きやすくなり、結果的にO脚状態になりやすくなります。また拇指球に体重をのせるイメージを持ちながら意識的にランニングフォームなどを確認することも必要になってくると思います。普段使っているランニングシューズの靴底をチェックし、外側がより多くすり減っていないかどうかも確認してみましょう。
X脚の特徴と考えられるリスク
守備の切り返し場面で膝が内側に入ってしまうと靱帯損傷を起こすことも
X脚はO脚に比べるとその頻度は低いと考えられますが、性差があり、女子選手により多く見られます。両膝を内側に倒した状態で座る「お姉さん座り」は、股関節の内旋可動域が大きく、立った時にも膝が内側に入りやすいいわゆる「ニーイン・トゥアウト」の状態をつくりやすいと考えられます。スクワットの姿勢で深くしゃがんだところから膝を伸ばす際に、膝が内側に入ってしまうような状態はX脚になりやすいと考えられます。
X脚はO脚とは反対に膝の内側に大きなストレスがかかりやすく、膝の内側側副靱帯や内側半月板を損傷しやすいと考えられます。この他にも膝の内側にある筋の付着部(鵞足:がそく)が摩擦によって炎症を起こし、鵞足炎を起こすこともあります。野球では選手同士が激しくぶつかるコンタクトの場面はさほど見られませんが、膝が内側に入りやすい特性のある選手が切り返しやジャンプなどでふいに膝が内側に入ってひねってしまったときは、前十字靱帯を損傷するリスクが高くなります。
X脚のアライメントになりやすい要因としては臀筋の筋力低下や太ももの前側、内側の筋肉が硬くなっていることなどが挙げられます。また普段から座っているときについ足を組んでしまうという人も、アライメントを崩す一因となっていることを理解しておきましょう。
後天的な要因を改善する
骨の配列そのものの先天的なアライメントを改善するというよりは、スポーツを長く行ってきたために起こる筋力や柔軟性の左右差、普段の姿勢、アライメントを崩しやすい歩き方や走り方といった動作など、後天的な要因を見直すことで、O脚やX脚を改善していくことが大切です。O脚やX脚そのものはケガではなく、アライメントの特徴を指すものですが、激しい運動を繰り返す野球選手にとってはアライメント異常がケガにつながる可能性もあります。自分自身のアライメントを知り、極端なO脚やX脚が見られる場合は、それを改善する方法としてのセルフコンディショニングをぜひ実践してみてくださいね。
【膝のアライメントとO脚・X脚】
●スポーツ医学でのアライメントとは骨や軟骨、関節などの配列のこと
●立位姿勢で左右のくるぶしをつけ、膝のすき間が指2本分より大きいと「O脚」
●両膝がついた状態で左右のくるぶしが離れてしまう状態を「X脚」
●O脚は膝の外側にトラブルが起きやすく、X脚は膝の内側にトラブルが起きやすい
●膝が内側に入りやすい「ニーイン・トゥアウト」は切り返しやジャンプなどで靱帯損傷するリスクが高い
●先天的な要因ではなく、筋力や柔軟性などの左右差、姿勢、動作など後天的な要因を改善しよう
(文=西村 典子)