俊敏性(クイックネス)を高める
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
新年を迎え、皆さん気持ちも新たに練習に励んでいることと思います。2022年も高校野球にたずさわる多くの皆さんに、セルフコンディショニングを中心とした情報をお届けしたいと思っています。本年もどうぞよろしくお願いいたします。さて新年最初のセルフコンディショニングコラムは反応時間を短縮し、素早い動きを実現するための俊敏性(クイックネス)について考えてみたいと思います。俊敏性の能力を向上させるためには何を鍛えていけばいいのでしょうか。
俊敏性(クイックネス)とは
反応時間と動作時間が盗塁成功の鍵を握る
野球の中で求められる素早い動きにはスピード(速さ)だけではなく、体をコントロールしながら正確に動くアジリティ(敏捷性)、そして刺激に対して素早く動き出すためのクイックネス(俊敏性)が求められます。こうした能力を向上させるためのトレーニングとして、この3つの頭文字をとってSAQトレーニングと呼ばれることもあります。
俊敏性(クイックネス)とは「刺激に反応して速く動き出す能力」を指します。野球の場面では目から得た情報(視覚)や耳から得た情報(聴覚)などによってその刺激が脳に伝わり、そこから脳が判断して体を動かすという一連の流れがあります。正確性を求められるアジリティとは異なり、刺激に反応する反応時間(リアクションタイム)と、そこから素早く動作時間(ムーブメントタイム)を短くすることが俊敏性を高めることにつながります。
盗塁と帰塁から考える俊敏性
野球で求められる俊敏性を考えてみると、イメージしやすいのは盗塁を試みようとする場面ではないでしょうか。この時は視覚からの刺激によって「盗塁をする」「帰塁する」という判断を行います。投手のモーションを観察しながらタイミングを狙って次の塁へのスタートを切るという一連の動作には俊敏性が求められます。反応時間が遅いと盗塁を失敗する確率は高くなりますし、素早く反応しても動き出す動作時間が遅ければやはり失敗の確率は上がります。一方、帰塁の場面を考えたときに、反応時間が遅いと投手の牽制に刺されてしまうことがありますが、反応時間が遅くてもその後の動作時間が短く、素早い動きができるとセーフになることもあります。このように俊敏性は刺激に素早く反応する時間と、反応後の動作時間を短縮することでパフォーマンスアップに貢献すると言えるでしょう。
俊敏性を鍛えるドリルとパワーポジション
中継プレーでは周囲の選手たちの声による指示が、俊敏性を左右することもある
俊敏性は「刺激に反応して動き出す」という一連の流れがあるので、刺激にバリエーションを持たせることとその後の動作について正しく判断することが必要となってきます。野球は特に視覚情報から動き出すことが多いため、ドリルを行う際に指示を出す側は「目で見て判断する」合図を出すことを中心に行いましょう。二人一組で指示に従って動くドリル(相手の指示に従って、前後左右に動いたり、相手の指示とは逆に動いたりする)は場所も選ばずに手軽にできるものですが、全体でのウォームアップ時にこうした俊敏性の要素を取り入れることもできます。ダッシュを行う際は笛の指示だけではなく、手の動きやボールなどを使って視覚を刺激し、そこから反応して動き出すダッシュもあわせて行うようにすると良いでしょう。
また反応して動き出すときに力の出やすい姿勢を「パワーポジション」と呼びます。一般的には膝を軽く曲げて腰をやや落とし、背中を丸めずに背筋を伸ばして顎をひき、かつ上体はリラックスしている姿勢を指しますが、どっしり構えるというよりは、反応に対してすぐに動き出せる姿勢と考えられています。自分がどのような姿勢であれば動き出しがスムーズに行えるのかを、普段から意識しておくようにしましょう。
聴覚刺激と俊敏性
野球は多くが視覚刺激によって反応しますが、忘れてはいけない聴覚刺激があります。それは「声」です。特に守備側の野手がバックホームやボールの連携を行う際に、背中を向けていることがあります。この時に的確な指示の声があると、その指示を受けた野手は反応時間を短縮してすぐに動作を行うことが可能となります(判断する時間も短縮される)。こうした時間の短縮が、時に試合を左右するような大きなプレーを生み出すこともあります。派手さはありませんが、チーム内での「指示の声」もパフォーマンスアップに役立つことを覚えておきましょう。
【俊敏性(クイックネス)を高める】
●俊敏性(クイックネス)とは「刺激に反応して速く動き出す能力」のこと
●俊敏性は反応時間(リアクションタイム)と動作時間(ムーブメントタイム)から成り立つ
●盗塁と帰塁の成功率は反応時間や動作時間に左右される
●視覚刺激を用いたドリルやダッシュなどを行おう
●動き出しやすい姿勢=パワーポジションを習得しよう
●聴覚刺激で必要なものは「声」。チーム内で徹底しパフォーマンスアップにつなげよう
(文=西村 典子)