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上半身のトレーニングで気をつけること

2021.10.15

上半身のトレーニングで気をつけること | 高校野球ドットコム

 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。

 10月も中旬を過ぎましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。部活動の制限が少しずつ緩和されているところも多いと思いますが、チームとしての集団行動が感染症のリスクとなることはよく知っていることと思います。いつもどおり練習できることに感謝しながら、引き続き個人個人で体調管理を行うようにしてくださいね。さて今回は上半身のトレーニングについて考えてみたいと思います。皆さんが日頃取り組んでいるトレーニングんの内容を振り返って、思い当たることがないか、どうすればプレーに活かせるトレーニングになるかを考えてみましょう。

投球動作を繰り返すと肩関節の位置が変わる?

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大胸筋や小胸筋の付け根部分をほぐすと肩が上がりやすくなる

 上半身のトレーニングといって真っ先に思いつくのがベンチプレスではないでしょうか。下半身のトレーニングは気乗りしなくても、ベンチプレスだけはやりたいという選手も少なくないと思います(中にはサマーボディーに向けてやる気満々になっている選手も…!)。体全体の筋肉量を増やし、バランス良く鍛えるという点では上半身のトレーニング、特にベンチプレスもさほど問題にはなりませんが、気になるのは筋バランスです。ベンチプレスばかり行って、拮抗筋(きっこうきん:主動筋に対して反対の動きを担う筋肉)にあたる背筋のトレーニングはあまり意識したことがない…ということはありませんか?

 投球動作は腕を後ろから前に振り下ろす動作を繰り返します。この時に前面にある大胸筋は収縮し、後面にある広背筋や上腕三頭筋などは腕が抜けないようにブレーキをかける役割(伸張性収縮)を持っています。このような動作を毎回繰り返していると大胸筋は収縮を繰り返して、肩関節を前方へと引っ張るようになってきます。大胸筋が強ければ強いほどその傾向は顕著になり、肩が丸まって前方に移動するといったことも起こります。すると肩甲骨を引き寄せて大胸筋をストレッチさせる動きが窮屈になり、肩が十分に上がらないまま投球動作を行うため、肩の前方が痛くなったり、肘を傷めてしまったりといったことが見られるようになります。

 このようなことを防ぐためにはベンチプレスなどで「押す」動作とともに、背筋を使って「引く」動作を意識したダンベル(バーベル)ローイングなどのエクササイズを取り入れるようにしましょう。ざっくり言うと背筋を収縮させることは大胸筋をストレッチすることにもつながります。また肩が上がりにくいと感じる時は肩の前方にある大胸筋や小胸筋の付け根部分を自分の手でほぐすだけでも驚くほど肩が上がるようになります。

[page_break:肩を強くするために肩を鍛えるとどうなる?]

肩を強くするために肩を鍛えるとどうなる?

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腕が重くなると投球動作での肩への負荷は増大する

「肩を強くするためにどこを鍛えたらいいですか?」という質問もよく聞きます。単純に肩を強くするためには肩を鍛えればいいのでは?と思いがちですが、大きなパワーを生み出す源は肩ではなく下半身にあると考えましょう。下半身の力を下から上へと伝達させ、その中で力のロスを最小限にしながら指先からボールへと伝えていくことが肩を強くすることにつながります。肩関節は腕を振るたびに大きな回旋の力が加わるので、肩の表面上の筋肉(三角筋など)よりもむしろ、その内部にある腱板筋群(けんばん:インナーマッスルのこと)を強化し、上腕骨頭が体から離れないように安定させることが大切です。

 ショルダープレスなど肩から上に突き上げるように挙上する動作を繰り返すと、三角筋を中心に鍛えることが可能です。ただし肩が盛り上がるほど筋肉がついてしまうと、投球を行う時にうまく肩がまわらない、上がりきらないまま投げてしまうといったことが起こります。この状態ではトレーニングをしたことによって逆にケガのリスクが上がってしまうといったナンセンスなことが起こってしまいます。肩のトレーニングを行う際はスムーズな動作の妨げにならないよう、常にチェックしながら行うようにしましょう。

振り下ろす腕が筋肉で重くなると…?

 上半身のトレーニングでベンチプレスと並んで人気種目の一つがアームカールです。これは重りを持って肘関節を曲げながら上腕部を鍛えるというもの。見た目にもわかりやすく、筋肉がついた腕は力強いアスリートという印象を受けます。ただしこの部位にこだわって鍛えすぎると、腕そのものの重さが筋肉によって重くなるといったことが起こります。上腕部の後方にあたる上腕三頭筋は投球動作において重要な役割を果たすため、肩や肘のケガ予防という点からも鍛えていく必要がありますが、前方にある上腕二頭筋は、上腕三頭筋とのバランスを考慮しながらお互いの筋肉が動作の妨げにならないように注意しましょう。

 腕が重くなってしまうと毎回その腕を振り上げて下ろす(=投げる)動作はより多くの力(筋力だけではなく筋持久力も)を必要とします。肩関節にかかる負荷を軽減させるためには、腕を支える背筋群も鍛えていくようにしましょう。

 上半身のトレーニングは一部位にこだわって過度に鍛えてしまうと、プレーに支障が出ることがあります。「主動筋」に対する「拮抗筋」を鍛えながらバランス良く筋力強化することを目指しましょう。

【上半身のトレーニングで気をつけること】
●大胸筋が硬くなってしまうと肩が丸まって前方に移動しやすい
●ベンチプレスの「押す」動作とローイングの「引く」動作をバランス良く行う
●肩が上がりにくいときは大胸筋や小胸筋の付け根をほぐすと上がりやすくなる
●肩を強くするために鍛えるべき部位は下半身
●肩関節の安定性を高めるためにはインナーマッスルを鍛えよう
●上腕部に筋肉がつきすぎると腕が重くなり、投球動作にも支障がでる場合がある

(文=西村 典子

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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