足首の硬さがもたらすもの
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。
連日暑い日が続いていますが、選手の皆さんは来たるべき目標に向けて日々練習等に励んでいることと思います。甲子園出場を果たしたチームの皆さん、おめでとうございます。地方大会で敗退したチーム、選手の分まで甲子園という舞台を楽しみ、全力で試合に臨んでほしいと思います。さて今回は足首のことについて取り上げたいと思います。足首の硬さは体にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
足首の柔軟性をチェックしよう
セルフチェックとしてしゃがみ込み動作をしてみよう
「足首が硬い…」と悩んでいる選手は少なくないでしょう。これは皆さんに限ったことではなく、以前に比べて環境の変化が影響していると考えられています。食事や勉強などは椅子に座ることが多く、直接床に座って正座やあぐらをかくことは少なくなりました。またトイレも洋式トイレが主流となり、深くしゃがみ込む和式トイレは使いづらいという人も増えてきました。このような生活環境の変化が柔軟性低下の背景にあると考えられています。
まずは自分の足首をチェックしてみましょう。両足をそろえて立ち、その状態からしゃがみ込みます。かかとが浮かず、後ろに体勢を崩すことなく保持できますか? かかとが浮いてしまう場合は足首の柔軟性が低下していることが考えられます。後ろに転んだりしないよう周辺には気をつけてチェックしてみましょう。
足首の硬さは他の部位のケガにつながることも
足首が硬いと捻挫しやすいといった足首に関わるケガを心配することと思いますが、足首の柔軟性は足首だけではなく、膝や腰、肩・肘といったさまざま部位のケガの遠因(えんいん:間接的な原因)となることがあります。特に野球は地面からの反力を受けてその力を下半身から上半身へ、そして最終的には手に持っているボールやバットに力を伝達することでパワーを発揮します。足首の動きが柔軟性によって制限されると、他の部位がそれを補ったり、体全体のバランスが崩れたり、無理な体勢で力を発揮しようとしたりするため(代償運動)、筋力的に弱い部分などを中心に大きな負担がかかってしまいます。足首が硬い選手は「腰が痛い」「肩が痛い」と訴えることも少なくありません。
[page_break:足首の動きをよくする]足首の動きをよくする
足を組み、足指と手指で「握手」して足首を丁寧に回す
クールダウンなど入念にストレッチをする際には足首も丁寧にケアしましょう。オススメの方法が足首をゆっくりと回すことです。ストレッチの最後に手首・足首を回すこともあると思いますが、足首の動きをよりよくするためには立位ではなく、座った状態でしっかり手で足首を抱えて回すようにしましょう。具体的には座って足を組み、足首を同じ側の手で抑え、反対側の手でつま先を保持して左右にゆっくり回します。また足指の動きを意識させるためには足指と手指を組んだ「握手」状態で回すとより効果的です。左右10回程度まわして、反対側の足首も同様に行いましょう。
また足首だけではなく、ふくらはぎや脛の前側の筋肉などもしっかりとストレッチを行いましょう。特に脛の前側はなかなか伸ばしにくい部位ですが、入浴中に湯船で正座してみると足の甲と脛の前側が伸ばされます。浮力の影響で全体重がかからないため、比較的取り組みやすいと思います。正座をして20〜30秒程度伸ばしましょう。これを入浴時の日課にすると良いですね。
足首の硬さは瞬発力を生み出す
足首は柔らかい方がいいと思われがちですが、地面の反力を使って瞬発力を高め、走力アップやジャンプ力を高めたい場合には「足首をロック」した状態で弾むように地面からの反力をもらうことが大切です。地面に接地したタイミングで足首が緩んでしまうと、次の動作までにより多くの時間を必要とします。縄跳びなどを思い出してもらうとイメージがつかめるかもしれません。
このような動作は足首をしっかり固定させることを意識して行うものですが、もともと足首が硬い人はナチュラルに「ロック」されている状態ともいえます。ただ足首をロックした状態での動作は、荷重関節(重力のかかる関節)を中心に大きな負担がかかることにもなります。ケガをしないように、瞬発力など爆発的なパワーをつけるためには、体全体の筋力を高めておく必要があるといえるでしょう。
足首は柔軟性を保ちつつ、必要な動作の時にはバネの力を使うために「固定」させることも野球の動作の中では必要となってきます。ただもともと足首が硬いという選手は、必要な柔軟性を獲得した上で足首を固定させるテクニックを習得することが望ましいと考えられます。足首は体全体に大きな影響を及ぼしていることを理解しておきましょう。
【足首の硬さがもたらすもの】
・現代の生活環境は足首の硬さをもたらしやすい
・足首の柔軟性チェックとして膝を抱えてしゃがみ込む動作を行ってみよう
・足首の硬さは膝や腰、肩・肘などの痛みの遠因ともなる
・クールダウンや入浴後などに足首を丁寧に回す習慣をつけよう
・湯船での正座は足の甲や脛の前側のストレッチとして効果的
・爆発的なパワーを得る場合には足首を固定し、地面から反発力をもらう
(文=西村 典子)