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脳震盪を甘くみない

2021.04.30

脳震盪を甘くみない | 高校野球ドットコム

 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

 すっかり春らしい気候になりました。5月の連休中は練習試合や公式戦など実践的な練習を行うチームも多いと思います。試合中のアクシデントは前回でもお話をしましたが、今回は特に注意したい脳振盪(のうしんとう)について話をしてみたいと思います。脳振盪は見た目にはわかりにくく、選手も一時的な症状がおさまれば試合に戻りたいと思うかもしれませんが、時間とともに重篤な症状を引き起こすこともあるので注意しなければならないものです。今回は皆さんに脳振盪についてより深く知ってもらいたいと思います。

脳振盪(のうしんとう)とは

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ヘルメット越しの衝撃でも脳振盪は起こることがあること覚えておこう

 脳振盪(脳震盪とも表現します)とは、頭頸部や体に大きな衝撃を受けた直後に起こる一過性の神経機能障害のことをいいます。ボールなどが直接ヘルメットや頭部、顔面などに当たる場合だけではなく、フェンスなどに直接ぶつかって体を強く打ちつけたときに、頭が激しく揺れ動かされると起こることがあります。脳振盪は頭や首周辺部だけではなく、体に大きな衝撃を受けた際にも起こる可能性があることを覚えておきましょう。

 脳は頭蓋骨という硬い器の中で守られています。頭蓋骨内部は髄液で満たされていて、その中に脳がおさまっている状態です。例えてみると硬い器(=頭蓋骨)の中に水(=髄液)があり、その中に浮いている豆腐のようにもろいものが脳であると想像してみてください。頭や体に大きな衝撃が加わって硬い器(=脳)が大きく揺さぶられると、その中で浮いている豆腐(=脳)もまた大きく揺さぶられます。その結果、脳の機能が一時的に低下し、さまざまな症状が現われることがあります。

【よく見られる症状】
●頭痛や「頭が重い」「頭がボーッとする」といった訴え
●めまい・ふらつき・気分が悪い・吐き気
●目がチカチカする等の視覚異常
●感情の変化(不安感など)
●睡眠障害(寝つけない、やたらと眠い等)
●記憶障害(健忘症)
●意識の喪失(短期または長期)

 これらの症状は脳の機能が一時的に低下したことによるものと考えられ、脳振盪を起こしている可能性があります。脳振盪を起こした、または疑いのある選手はプレーをやめて当日の競技復帰は見送るようにしましょう。選手は「大丈夫です」とプレーの続行を希望することも多いのですが、脳振盪は見た目にわからないものです。脳振盪を疑う症状が現われているときにそのままプレーを続けると、脳浮腫(のうふしゅ:繰り返し外力が加わることよって脳が急激に腫れてしまう)や脳出血の一つである急性硬膜外血腫などさらに重篤な症状を引き起こす場合があります。指導者や周囲の人は必ずプレーを止めること、また衝撃を受けた後に頭や首が激しく痛むとき、体が思うように動かせないときなどは迷わず救急車を要請しましょう。

 トレーナーなどの専門家は最新の脳振盪評価ツールであるSCAT5、などを用いて評価することができます。指導者の方もぜひ参考にしてください。

参考動画)SCAT5(ハイパフォーマンスセンター・脳振盪の啓発コンテンツより)
https://www.youtube.com/watch?v=-zcr23DLUbA

[page_break:脳振盪後の対応]

脳振盪後の対応

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背走するときのフェンス際のプレーにも十分注意しよう

 頭や体に大きな衝撃が加わった場合の応急処置としては、横になる等の安静肢位をとり、氷などで患部を冷やすようにします。そのまましばらく様子を見ながら、症状が軽減するかどうかを確認します(この時にSCAT5などを用いて簡単な質問をしたり、バランス能力や眼球の動きなどをチェックしたりします)。脳振盪は時間が経過してから症状が悪化する場合も少なくないため、受傷後24時間は一人で過ごさないように必ず誰かが付き添って様子を見るようにしましょう。この間、普通に日常生活を送ることは問題ありませんが、受傷後24時間以内は湯船に入っての入浴、激しい運動など血流の良くなることは控えるようにします。

 また脳震盪に伴う症状が複数見られるとき、悪化していると思われるときはすぐに医療機関を受診するようにしましょう。脳への大きな衝撃によって脳震盪だけではなく、脳内で出血(急性硬膜外血腫など)を起こしていることも考えられるからです。

どんな場面で起こりやすい?

 野球の現場においては、デッドボールによる頭頸部や顔面の打撲、接触プレーなどによって野手と走者、野手同士などがぶつかった場合、ライナー性の打球が直接投手や野手の頭部に当たった場合、ボールを追いかけたときのフェンスに激しく体を打ち付けた場合などが考えられます。脳振盪は見た目にわかりづらいことが難点ですが脳へのダメージは大きく、そのままプレーを続行すると長期にわたって頭痛に悩まされたり、集中力の欠如が見られたりとその後遺症は選手生命だけではなく、生命そのものを脅かすものにもなりかねません。

 接触プレーが少ないとされる野球では、脳振盪の発生頻度はさほど多いものではありませんが、対応を間違えると重篤な症状を引き起こすこともあるため、選手や指導者、保護者の皆さんには脳振盪に対する正しい知識と対応を身につけてもらいたいと思います。アスリート向けの参考動画もリンクしておきますので、ぜひ見てくださいね。

参考動画)アスリート向けの解説動画(ハイパフォーマンスセンター・脳振盪の啓発コンテンツより)
https://www.youtube.com/watch?v=Lmm_OzfW4Nc

【脳振盪を甘くみない】
●脳振盪とは、頭頸部や体に衝撃を受けた直後に起こる一過性の神経機能障害
●脳振盪によく見られる症状は頭痛・めまい・ふらつき・嘔吐・感情の変化、睡眠障害、記憶障害など
●脳振盪の疑いがある選手については、当日の競技復帰は見送る(重篤なケースは迷わず救急車を要請)
●受傷後24時間は必ず誰かが付き添って様子を見る。一人にしない。
●日常生活に大きな制限はないが、受傷後24時間は血流が良くなることは避ける
●野球は比較的接触プレーの少ないスポーツだが、脳振盪についての知識はしっかり理解しておこう

(文=西村 典子

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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