体力向上とケガ予防を両立させるランニングとは
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
秋の公式戦が一段落し、多くのチームでは来シーズンに向けたトレーニング期に入っていることと思います。トレーニング期では体づくりはもちろん、スタミナ強化や走力のレベルアップを狙ったランニングも行っているのではないでしょうか。さて今回はランニングによるケガを予防するための考え方や、プログラムデザイン、セルフコンディショニングなどについてお話をしてみたいと思います。
ケガを誘発しないための「有効限界」と「安全限界」
運動処方の自由度(池上、1985より)
ランニングの量や強度が高くなると、疲労もたまりやすく、この状態が続くとスポーツ障害につながってしまうことがあります。一方でケガのリスクがほとんどないレベルの運動強度では、体力・走力のレベルアップが見込めないこともあり「ケガをしないギリギリのレベル(安全限界)で、かつ体力レベルが強化できる(有効限界)」プログラムを行う必要があります。プログラムの作成にあたっては運動の「強度」「時間」「頻度」という3要素と「種目」があり、これらの要素が全体的な運動量を判断する目安となります。
安全限界とは「このレベルを超えたらケガをしてしまいますよ」という限界値であり、これは個人個人によって違いがあります。全体的な運動量が安全限界を超えてしまうと、特に体力的に弱い部分からケガをしやすくなります。例えばランニングにおける肉離れは、練習量や強度が選手の持つ筋力、柔軟性、筋持久力などを超えたときに起こりやすくなります。技術練習の時間が長く、そこからさらに強度の高いランニングを行うと、ケガをしやすくなるというのは想像できるのではないでしょうか。
一方、有効限界はトレーニング効果が得られる最低ラインの運動量を指します。トレーニングには過負荷の法則というものがあり、ある一定上の負荷で運動しなければ体力向上が見込めないというものです。いつも同負荷のトレーニングを続けていると、体が負荷に適応してしまいトレーニング効果が薄くなってしまいます。体力レベルを上げたい、野球に活かせる体づくりをしたいという場合は、やはりある程度の負荷をかけてトレーニングやランニングなどを行う必要があります。
ケガ予防を考慮したランニングのプログラムデザイン
ランニング要素に変化をつけ、特にサーフェスには配慮して行おう
「有効限界」や「安全限界」は個人の体力レベルによって違うため、全体で行うランニングでは一人ひとりに合わせたものを行うことがむずかしいと思います。その中でなるべくランニングによるケガを防ぐためには、どのようなことに注意すれば良いでしょうか。
日替わりプログラムを組む
いつも同じ距離、スピード、場所で行われるランニングプログラムは、その運動強度にあった適切なランニングフォームを獲得するという点では優れていますが、力発揮の仕方がパターン化し、体にかかる負担が同じ部位に集中しやすいため、疲労が蓄積した状態ではケガをしやすくなることが考えられます。また毎日同じプログラムでは体とともに気持ちも「馴れ」てしまい、力を抜いてしまったり、適当にやり過ごしてしまったり…ということもあります。プログラムを決定する時はランニングを行う目的を確認することはもちろんですが、ランニングを構成する要素(距離、スピード、ランニング間のインターバル、場所、サーフェス(地面))などを変えることでバリエーションが広がります。特にサーフェスはアスファルトなどの硬いところばかり走らないといった配慮が必要です。
行うタイミングを変える
ボールを使った練習は明るいうちに行わないといけないということもありますので、ランニングはすべての技術練習が終わってから最後に行うというパターンが多いと思います。平日は練習後に行うランニングを、日中に練習できる土曜日や日曜日などはウォームアップに含めて行うとか、グループごとに分かれて技術練習と並行しながら行うなど、行うタイミングについてもワンパターンにならないようにしてみましょう。
セルフコンディショニングで疲労回復に努めよう
全体で行う練習は個人一人ひとりの体力レベルに合わせられるものではないので、選手によっては自分の体力レベルを超えた運動量になっている可能性があります。これが1日、2日といった短期間ではなく、長い期間に渡って続いてしまうとランニング中に肉離れを起こしたり、痛みを我慢してプレーしているうちに実は疲労骨折を起こしていた…といったことも考えられます。選手の皆さんは練習後に行う全体でのクールダウンとともに、自宅でも疲労回復のためのセルフコンディショニングを行うようにしましょう。具体的には入浴では湯船につかって十分に体を温め、入浴後にストレッチを行う、体づくりに欠かせないタンパク質を含めてバランスの良い食事を心がける、成長ホルモンを促すために十分な睡眠をとるといったことです。特に成長ホルモンは傷んだ筋線維を修復させるために重要な役割を果たします。練習やトレーニングと同様に栄養、休養を大切にしましょう。
体力レベル向上を目的とした練習は体に負担がかかりやすい特徴も持ち合わせています。ケガをなるべく防ぐためにも、ランニングプログラムを考慮し、また日常生活でできるセルフコンディショニングを習慣として行うようにしていきましょう。
【体力向上とケガ予防を両立させるランニングとは】
●運動処方は「安全限界」と「有効限界」の間で行う
●プログラム作成は運動の「強度」「時間」「頻度」という3要素と「種目」を考慮する
●ランニングがパターン化しないように構成要素に変化をつけよう
●硬いサーフェスで走る種目が続くとケガをしやすいので特に気をつけよう
●ウォームアップの中にランニング要素を取り入れるのも一つの方法
●練習後のセルフコンディショニングでケガ予防に努めよう
(文=西村 典子)