体を支える脊柱の働きと腰痛
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
暑さによる気候の急変で雷雲が発生したり、台風が近づいたりする気候となりました。屋外で活動する皆さんは日頃から天気予報などで情報収集をしていると思いますが、見上げた空の状態がいつもと違って暗くなっていたり、冷たいひんやりした風が吹く時は要注意です。天気の急変を見逃さず、安全第一で練習に励んでくださいね。さて今回は野球選手によく見られる腰痛について、体を支える脊柱の構造や働きとともに考えてみましょう。
脊柱が持つ3つの役割
脊椎の構造を理解しておこう
脊柱には大きな役割が3つあります。1つ目は体を支える柱としての役割、2つ目は体を前後左右に動かしたり、回旋動作を可能にしたりする運動機能としての役割、3つ目は脊柱管という管の中にある脊髄を保護する役割です。スポーツが持つダイナミックな動きを支えているのは脊柱の働きが大きいと言えるでしょう。
脊柱の構造を知っておこう
背中側に位置する脊柱(背骨)は椎骨という骨が積み重なって一本の柱を構成しています。この椎骨は首部分に7個、胸部に12個、腰部に5個あり、それぞれを頸椎(けいつい)、胸椎(きょうつい)、腰椎(ようつい)と呼びます。腰椎よりも下には仙骨(せんこつ)、尾骨(びこつ)という骨が存在します。椎骨と椎骨の間には椎間板という軟骨組織があり、荷重による物理的ストレスを和らげるクッション的な役割を果たしています(図253_1)。
正面からみると脊柱は一本の柱のようにまっすぐ見えますが、横から見ると緩やかなS字カーブ(専門用語ではアライメント=配列のこと)を持っています。このカーブが乱れてしまうと腰痛を引き起こしやすくなります。頸椎と腰椎はやや前方にカーブを持ち、胸椎はやや後方にカーブを持ちます。たとえば頸椎のカーブが少なくなるとストレートネックと呼ばれるような状態となり、頸部痛や頭痛などの要因ともなります。腰椎のカーブが少なくなると骨盤が後傾しお尻が落ちて、猫背になりやすく、パフォーマンスにも影響を及ぼすようになります。逆にカーブの傾斜がきつくなると「反り腰」のような状態となり、腰椎に負担がかかって痛みを引き起こすことがあります。
野球に限らずスポーツは体を大きく曲げたり、反ったり、ひねったりという動作を伴います。この時に背骨が本来持つ動きをスムーズに行うことができれば良いのですが、背骨に付着している筋肉が硬い状態だったり、背骨が持つカーブそのものが乱れていたりすると、強い外力に耐えられずに痛みを引き起こす場合があると考えられます。
[page_break:腰の回旋動作は胸椎が担う]腰の回旋動作は胸椎が担う
回旋動作の大半は腰椎ではなく胸椎が動くことによって起こる
バッティングで腰を回旋させる時、腰椎がその動きの中心ではなく、実は胸椎部分がメインとなって回旋動作を担っています。腰椎は前後に曲げる動作は得意ですが、回旋をする動きは少なく5個の腰椎がもたらす回旋角度は約5°とわずかです※。体は左右に約40°ほどひねることができますが、その多くは7個の胸椎がもたらすものであり、その合計回旋角度は約35°といわれています※。大きくひねる動作を行う場合は腰をまわすというよりも、もう少し上部を意識し、胸椎の動きをイメージしながら体幹部分をひねるようにすることが大切です。
腰椎の前弯が強くなると腰椎分離症のリスクも
腰椎は5個ありますが、その中でも上から4番目、5番目の腰椎とその下にある仙骨にかけてはもともとカーブの傾斜がきつく、他の部位に比べて痛めやすい部分と言われています。それに加えて背筋群やお尻〜大腿部後面にかけての筋緊張、股関節の関節可動域(関節の動く範囲)に制限が見られるときなどは、腰椎のカーブがさらに強くなり、反り腰の状態になりがちです。荷重ストレスに加えて、運動時に激しい動作を繰り返すことによって腰椎にはさらに大きな負担がかかるようになり、骨そのものを痛めたり、椎間板を痛めたりしてプレーに支障が出るようになることもあります。痛みがある中でムリをしてプレーを続けているとやがて骨は繰り返される外力によって疲労骨折(腰椎分離症)を起こすこともあります。
腰椎分離症は中学生・高校生に多く見られるスポーツ傷害の一つですが、成長期にある選手の骨は大人に比べてやわらかく、脆弱(ぜいじゃく:弱いこと)であると言われています。それに加えて体を支える筋力も未発達であったり、さらには野球という非対称動作の多いスポーツによって筋バランスが崩れやすいことなどもケガの一因と考えられます。
複雑な動きを可能にする脊柱の運動機能を理解し、野球でのプレーの特徴と腰痛についても理解を深めておきましょう。
※参考書籍「カパンジー機能解剖学」
【体を支える脊柱の働きと腰痛】
●脊柱には「体の支持」「運動」「神経の保護」という3つの役割がある
●脊柱を構成する椎骨は首部分に7個、胸部に12個、腰部に5個存在する
●脊柱を側面からチェックするとゆるやかなS字カーブを持つ
●腰をひねる動作の大半は腰椎ではなく胸椎の動きによる
●腰椎4番、5番および仙骨部分は生理的カーブがきつく、痛めやすい部位といえる
●成長期の選手に見られやすい腰椎分離症は骨の疲労骨折によるもの
(文=西村 典子)