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静的ストレッチはパフォーマンスに影響する?

2020.08.16

 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

 ようやく梅雨が明けて夏の暑さを実感するようになってきました。感染症予防対策と変則的な日程の中で、選手の皆さんは日々練習に励んでいることと思います。気温の高い日中を中心に熱中症にはくれぐれも気をつけて過ごしましょう。さて今回はウォームアップの時にストレッチをするとパフォーマンスが落ちる?ということについて考えてみましょう。

体と心の準備を担うウォームアップ

静的ストレッチはパフォーマンスに影響する? | 高校野球ドットコム
一般的な静的ストレッチがパフォーマンスを低下させることは考えにくい

 チームでの全体練習や、個人で体を動かす時などは、技術練習に入る前に必ずウォームアップを行っていることと思います。ウォームアップを行うことは体の機能を高め、強度の高い激しい動きにも対応できるように準備すること、そしてこれから野球を始めるための心理的な準備を兼ねていると言えるでしょう。ウォームアップを行うことの重要性についてはこちらのコラムを参考にしてください(参考コラム:パフォーマンスアップにつながるウォームアップ )。ウォームアップは季節や気温、場所などの外的(環境)要因と練習頻度や疲労具合、不安部位の有無といった内的(個人的)要因などによって、その内容やウォームアップにかける時間は変わります。

静的ストレッチとパフォーマンスの関係

 ウォームアップを行う時に多くの選手がストレッチを取り入れていると思います。ストレッチは筋肉や軟部組織の柔軟性を高め、関節の動く範囲(関節可動域)を拡げることでより大きく、より力強い動きを引き出すことにつながります。ただし筋肉は急激に伸ばされると筋肉の中にある運動感覚器官がそれを察知して、筋線維がダメージを受けないように、その筋肉を収縮させて守ろうという反射(=伸張反射)が起こります。このため、特にスタティックストレッチ(以下、静的ストレッチ)を行うときは伸張反射が起こらないように、息を吐きながらゆっくりと伸ばすことが推奨されます。

 静的ストレッチを行うと、その後のパフォーマンスが低下する可能性を指摘した研究報告があります※1。ストレッチによって筋肉をゆるませると、その後の筋力発揮(等尺性収縮および等速性収縮)が一時的に落ちるというものです。しかし実際のスポーツ現場において、静的ストレッチをした直後に等尺性収縮(筋の長さが変わらない状態で筋力を発揮すること:スタビリティトレーニングなど)や等速性収縮(運動速度を一定にした状態で筋力を発揮すること:専用のマシンが必要)といった運動をすることはほとんどなく、研究対象とされたストレッチについても一部位につき30秒以上伸ばしたものについて指摘されたものでした。10秒、20秒といった比較的短い時間で行う静的ストレッチについてはパフォーマンス低下との関連は低く、通常の練習や試合前のストレッチについては、パフォーマンスへの悪影響は少ないと考えられます。

[page_break:静的ストレッチを取り入れるタイミング]

静的ストレッチを取り入れるタイミング

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静的ストレッチも大切なコンディショニングの一つ。上手に取り入れよう

 静的ストレッチを行う主な理由としては筋肉や軟部組織の柔軟性を高め、関節可動域を拡げることですが、それ以外にもウォームアップには体温や筋温を上げて血流を促して運動に適応した体を準備することや、神経の働きを良くして、感覚器からの情報をうまく動作につなげられるようにするための準備などもあわせて行う必要があります。ウォームアップの流れを考えながら静的ストレッチを組み込むのであれば、

・体全体をジョギングなどで軽く温める
・静的ストレッチを実施して、関節可動域を拡げる
・関節可動域を大きく使いこなせるようにダイナミックストレッチ(動的ストレッチ)を実施する
・視覚や聴覚をはじめとする感覚器の情報を動作につなげらえるような神経系のドリルを実施する
・より競技動作に近い専門的な動きを取り入れる(ダッシュなどを含む)

という流れがスムーズではないかと思います。ウォームアップ時の静的ストレッチはなるべく立った状態か、もしくは最初に寝転がった状態や座った状態から始め、最終的には立った状態へと移行します。段階的に動的ストレッチへと進み、よりアクティブに体を動かすことができるようにウォームアップの内容を組み立ててみましょう。

 「静的ストレッチを行うとパフォーマンスが落ちるかも…」と考えて、静的ストレッチを省いてしまった結果、ケガをしてしまうことも懸念されます。30秒以上と長めのストレッチには気をつける必要がありますが、日頃から行っているストレッチについてはパフォーマンスの低下を気にすることなく実施するようにしてくださいね。

参考論文)The Duration of the Inhibitory Effects with Static Stretching on Quadriceps Peak Torque Production
https://journals.lww.com/nsca-jscr/fulltext/2008/01000/The_Duration_of_the_Inhibitory_Effects_with_Static.8.aspx

【静的ストレッチはパフォーマンスに影響する?】
●ウォームアップは野球を行うための体と心の準備
●静的ストレッチを行う時は伸張反射を起こさないようにゆっくり伸ばす
●30秒以上伸ばすような静的ストレッチはパフォーマンスを低下させる可能性がある
●柔軟性を高め、関節可動域を拡げるために静的ストレッチを取り入れよう
●パフォーマンス低下をおそれず、短時間(30秒以内)の静的ストレッチを行おう

(文=西村 典子

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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