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内転筋群の役割とパフォーマンス

2020.06.30

内転筋群の役割とパフォーマンス | 高校野球ドットコム

 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

 学校の再開とともに皆さんのチームでも少しずつ活動の範囲が増えてきたでしょうか。多くの地域で代替案による地方大会が開催されることが決定しています。感染予防に努めながら体力を回復させ、今まで野球を通して培ってきたものを思う存分発揮してほしいと思います。さて今回は体のことについて、特に太ももの内側にある内転筋群の役割とパフォーマンスについてお話をしたいと思います。

内転筋群と野球の動作

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大腿中央横断面の模式図(右大腿部を下から見た図)※

 人間の体には「内転筋」という名前のつく筋肉が複数存在しますが、最も知られているのが太ももの内側にある内転筋群(短内転筋、長内転筋、大内転筋)です。骨盤と太ももにある大腿骨とをつなぎ、主に太ももを内側に引きつける内転動作を担います。

 太ももの筋肉といえば、前面にある大腿四頭筋、後面にあるハムストリングス(大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋)に注目しがちですが、内転筋群はその筋断面積をみると、ハムストリングスに匹敵するほどの筋肉量があり※、目立たないながらも大きな力を発揮する筋群といえるでしょう。

 内転筋はさまざまな動作において動員されます。太ももを体の近くに引きつける内転動作はもちろんですが、ランニング時には大腿四頭筋やハムストリングス、臀部の筋群とともにその動きをサポートしながら力を発揮します。また股関節の動きにあわせて姿勢を制御する働きがあり、特に片足で姿勢を支持する時には体が外側に流れてしまわないように、内転筋はバランスを保持するように働きます。

 野球でのピッチングやバッティングにおける、いわゆる「下半身の粘り」とは、片足の状態から次の動作へと移行する時に主に内転筋群が伸ばされながらも力を発揮する伸張性収縮による力発揮のことを指しているのではないかと考えられます。

[page_break:伸張性収縮と肉離れの関係]

伸張性収縮と肉離れの関係

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内転筋の筋力発揮が下半身の粘りを生み出す

 野球に限らずさまざまなスポーツで内転筋の肉離れを起こすケースが見られます。肉離れは一般的に筋線維の連続性が断たれ、痛みや腫れなどの炎症症状を起こすものとされていますが、筋肉を伸ばしながらもその力に耐えようとする伸張性収縮時に起こりやすいといわれています。

 例えば懸垂で、腕を伸ばしながらも体重を支えている下降段階の上腕二頭筋であったり、開脚ストレッチでこれ以上伸びないという状態なのに、第三者が他動的にストレッチをしようとしてぐいぐい背中を押してしまうと、内転筋を痛めてしまうといったケースも同じです(パートナーストレッチではムリに伸ばさないこと)。

 片足支持状態から次の動作に移るまでの粘り強さを発揮するためには、股関節に付着する内転筋の筋力強化と柔軟性が必要となってくるのはいうまでもありません。

股関節の動きと内転筋群の強化

 内転筋群は大腿骨と骨盤をつないでいる筋肉であり、股関節の動作を行うことは内転筋群を鍛えることにもつながります。ランジ動作は内転筋群の強化として代表的なエクササイズです。足を左右に踏み出して行うサイドランジは、直接的に内転筋を意識しやすいエクササイズの一つであり、自重であっても行うことができます。行う際は踏み出した足を引きつけるときを意識して行いましょう。

 この他にも前に一歩踏み込むフロントランジでは踏み込み足の股関節に体重をしっかりとかけ、戻すときに内ももを締めるように行います。後方に足を下げるバックランジも同様に内ももを意識しますが、フロントランジに比べてバランスが取りにくいため、体幹などとあわせて姿勢維持を心がけましょう。

 前後のランジ動作はなるべく深い屈曲から伸展へと切り返すようにし、両方の足をはさむこむように動作を行って体が左右前後にぶれないように行うことが大切です。

 またエクササイズの基本であるスクワット動作も股関節の動きに関係し、内転筋の強化につながります。正しいフォームで股関節をしっかり深く曲げるようにしましょう。また自宅に適当なボールがある場合は、それを両方の太ももで挟み込んでスクワットをするとより内転筋を意識することができます。膝が内側に入らないように注意しながら行うようにしましょう。

 このようなエクササイズは自重のみでも正しく繰り返して行うと、十分に効果が期待できるものです。股関節の動きを改善することにもつながりますし、下半身の粘りをつけたいと考える選手はぜひ内転筋に着目してトレーニングやストレッチを行うようにしてみてくださいね。

※参考書籍)アスリートのための解剖学 大山卞圭悟(おおやま べん けいご)/草始社

【内転筋群の役割とパフォーマンス】
●太ももの内側には短内転筋、長内転筋、大内転筋が存在する
●「下半身の粘り」は内転筋群の伸張性収縮によってもたらされる
●筋肉が伸ばされながら力を発揮する伸張性収縮は肉離れを起こしやすい
●ケガの予防のためにも筋力強化や柔軟性を高めることは大切
●ランジ動作は両足を挟み込む内ももへの意識をもって行う
●スクワットなど股関節を動かすエクササイズも内転筋強化に役立つ

(文=西村 典子

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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