心拍数とランニング強度を考える
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
休校期間が長くなると運動量が低下するだけではなく、日々の生活が単調になり、活動量が減ってしまうことが懸念されます。人と人との距離をとるソーシャルディスタンスを守って運動量を維持するためには、室内でできるトレーニングや、人の少ないところを選んで行うランニングなどが挙げられます。今回は運動強度の目安となる心拍数とランニングについて考えてみたいと思います。
心拍数とコンディショニング
自分の心拍数を把握して毎日のコンディションチェックに活かそう
毎日起床時など時間を決めて心拍数をチェックしておくことは、体調管理という点でぜひ行っておきたい習慣の一つです。スマホのカメラ機能や手首の親指側にある橈骨(とうこつ)動脈を、反対側の3本指(人差し指・中指・薬指)で1分間の心拍数を確認するようにしましょう。
心拍数は個人差もありますが60拍/分以下であれば徐脈、100拍/分以上と頻脈といわれています。見た目は元気でもこの状態が続くようであれば、隠れた病気がないかどうかは調べておく必要があるでしょう。
起床時の心拍数がいつもよりも多い状態が続くと、疲労回復に時間がかかっていたり、睡眠不足などによってコンディションの低下が見られることもあります。またオーバートレーニング症候群(慢性疲労症候群)は起床時の心拍数が増えるという傾向があります。
およその最大心拍数を知っておこう
皆さんは自分の最大心拍数がどのぐらいか知っていますか。昔から最大心拍数の簡易的な計算方法として【220−年齢】が用いられていますが、近年ではさまざまな研究から考察された【208−0.7×年齢】という数式も用いられるようになっています※1、2。
【208−0.7×年齢】の計算式に基づいた年齢別の最大心拍数は15歳で197.5、16歳で196.8、17歳で196.1、18歳で195.4となります(単位は拍/分)。これにはもちろん個人差があり、調査した論文によると各年齢において標準偏差(数値のばらつき)が10拍ほどあるとされています。
計算では15歳=197.5ですが、約198拍±10、すなわち208〜188拍と幅があり、さらにこの範囲にとどまらない選手も存在しますので、あくまで目安としてとらえるようにしましょう。
心拍数による運動強度の考え方としては簡易的に最大心拍数をもとに計算する方法もありますが、強度が下がれば下がるほど誤差が生じやすいので、起床時心拍数を用いて算出する方法をご紹介します(カルボーネン法)。
1)最大時心拍数−安静時(起床時)心拍数=予備心拍数
2)目標心拍数=予備心拍数×目標運動強度(%)+安静時心拍数
年齢16歳、起床時の心拍数が60拍/分の場合、1)予備心拍数は197-60=137となり、2)運動強度を70%と設定すると目標心拍数は137×0.7+60=96+60=156拍/分となります。
[page_break:ランニングの強度と心拍数]ランニングの強度と心拍数
心拍数を使ってランニングの強度を設定してみよう
心肺持久力やスタミナ維持のためにある程度時間をかけてランニングを行うことがあります。野球という競技特異性からみると優先順位はさほど高くはないにせよ、運動量や活動量を維持し、体力低下を防ぐためには時々こうしたランニングを取り入れることも良いと思います。自宅にこもりがちな状況なので気分転換、心身のリフレッシュにもつながります。
このときのランニングは運動強度の60%〜70%程度を目安に(先ほどの例でいえば142〜156拍/分)心地よく走ることを心がけてみましょう。誰かと一緒に走るという状況ではありませんが、会話が続く程度の強度で走るようにします。また人との距離はしっかりととり、飛沫による感染を防ぐことも忘れないようにしましょう(感染しない、感染させない)。
インターバル走を行う時は運動時間と休憩時間の割合を「1:1」程度から始め、体が馴れてきたら少しずつ割合を「2:1」(たとえば1分走って30秒ジョギングもしくはウォーキングを行う)に近づけて運動強度を上げるようにします。この時行うダッシュは最大心拍数の80%程度を目安にしてみましょう(先ほどの例であれば170拍/分)。
この他にも近くに階段があれば階段ダッシュを行う(ただし下りは膝を傷めやすいので上りのみ)、坂道ダッシュ(できれば上りのみで下りはインターバルに活用、もしくは下りのダッシュを行う場合は本数を少なめにする)を行うといったことで、運動強度を上げることが可能です。
全体での部活動を制限されているところも多く、ランニングも距離や時間などが自分で設定しづらい、または毎日同じような内容になってしまう…という場合はぜひ参考にしてみてくださいね。
※1)Hirofumi Tanaka, Kevin D Monahan and Douglas R Seals(2001). Age-predicted maximal heart rate revisited. Journal of the American College of Cardiology Volume 37, Issue 1
※2)運動強度を設定する最大心拍数の算出方法は?(ベースボールマガジン社)
【心拍数とランニング強度を考える】
●心拍数の把握は毎日のコンディションチェックにも活用できる
●実際に測るときは橈骨動脈を3本の指で触って脈を検知し、カウントする
●最大心拍数は「220-年齢」の他に「208-0.7×年齢」という計算方法がある
●「消費」の時間でも取り組み方次第で「投資」の時間になる
●運動量をある程度確保するためにロング走を取り入れることも良い
●インターバル走はランニングとジョギングの割合に変化をもたせよう
(文=西村 典子)