肩ってどこからが肩?自分の体の構造を知ろう
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
少しずつ過ごしやすい気候となってきましたね。平日は学校と部活の両立、土日は実践練習や試合など、選手の皆さんは充実した毎日を過ごしていることと思います。さて今回は普段あまり気にしていない(気にならない?)体の構造のことについてお話をしたいと思います。知っているだけで体の使い方についてより興味がわくのではないでしょうか。
肩はどこから始まる?
胸鎖関節を触った状態で腕を動かすと、関節の動きが確認できる
●肩はどこから始まる?
野球といえばまずボールを投げるという動作が考えられますが、ボールを投げる動作は肩関節を中心に行っています。ではその肩を動かす視点となるところはどこにあるでしょうか?
肩をグルグル回すときの肩関節を思い浮かべる人が多いと思いますが、実はもう少し体の内側から動いています。肩関節と鎖骨が接するところを肩鎖(けんさ)関節といいますが、そこから鎖骨を触りながら内側へと移動すると体の中心に胸骨という骨を触ることができます。胸骨と鎖骨が接する部分には胸鎖(きょうさ)関節という関節があるのですが、腕をグルグルまわしてながら触ってみると胸鎖関節も動いていることがわかると思います。
肩を動かす支点となるのは実は胸鎖関節です。胸鎖関節付近を自分で軽くほぐしてから投げる動作を行うと、腕が上がりやすくなります。余談ですが、胸鎖関節を意識して腕を挙げるとより大きく挙げることができるので、腕が伸びる分だけ垂直跳びの成績も向上します。
指を1本1本独立させてストレッチするとより効果的
●肘についている筋肉を伸ばす
投球動作を行った後に前腕をストレッチする光景はよく見かけます。特に野球では肘の内側を傷めやすく、その部分についている筋肉を伸ばすことで肘への負担を軽くする役割があります。手のひらを外側に向けた状態で前腕の筋肉を伸ばすと、前腕屈筋群と呼ばれる手首を曲げる動作に必要な筋肉の柔軟性改善に役立ちます。
また前腕屈筋群は指を曲げる動作を行う時にも使うため、指の1本1本を独立させて伸ばすようにするとより効果的です。さらに指の関節を意識して一つ一つ丁寧に指の曲げ伸ばしを行うようにすると、ボールの握りや「かかり」が良くなり、変化球の落差などにも影響することがあります。一度練習などで試してみると面白いと思います。
前屈をスムーズに行う
前屈をする前に体の後面を伸ばしてから行うとより動きやすくなる
●前屈をスムーズに行う
体の柔軟性が低下すると動く範囲も制限されることが多いのですが、特に体の前後屈がスムーズにできないと腰背部への負担が大きくなります。前屈の動きを制限しているものの一つに腰背部、臀部、太もも後面のハムストリングスなどの硬さが挙げられますので、こうした筋肉へのアプローチを行いましょう。代表的なものとしては「ジャックナイフストレッチ」が挙げられます。しゃがみ込んだ状態で両手で踵を抱え込むようにし、手を離さないで膝の曲げ伸ばしを繰り返すストレッチです。
この他にも立位の状態から膝を軽く曲げ、その姿勢を30秒程度キープする方法もあります。この姿勢を維持した後に前屈を行うとよりスムーズに曲げられるようになります。これは姿勢をキープした状態が臀部やハムストリングスの筋肉を伸ばすために起こります。
●快適な室内に馴れすぎない
外気温が高くなってくるとついエアコンの冷房に頼りたくなりますが、普段過ごす部屋の温度についてもなるべく外気温との差が大きくならないように調節しましょう(最大でも5℃程度)。いくら練習で汗をかいたとしても、その後にエアコンの効いた涼しい部屋で長く過ごしていると暑熱馴化はなかなか思うように進みません。
「少し暑いかな」と感じる程度の室温に設定し、体を暑さに馴れさせるようにしましょう。その際にこまめな水分・塩分補給を忘れずに行うこと。部屋が暑くて過ごしにくいという場合は扇風機をうまく活用しましょう。直接体に風をあてるのではなく、壁の上方に風をあてるようにして室内で空気を循環させるようにすると、設定温度が高い状態でも快適に過ごしやすくなります。
●後屈の場合は腸腰筋のストレッチを
一方、後屈をスムーズに行う場合は、事前に体の前面にある筋肉を伸ばすと良いでしょう。股関節の付け根にある腸腰筋をストレッチしたり、太ももの前側にある大腿四頭筋を伸ばしたりするだけでも、後屈がしやすくなります。
まだ鎖骨から首にかけて付いている胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)を軽くほぐすようにすることでも、首の動きがスムーズになって体全体が反りやすくなります。腰を反らせると痛みの出る選手であっても、体の前面部分を伸ばすと腰の痛みがやわらぐことがあります。
【体の構造を知ろう】
・肩の動き出しは胸鎖関節から始まる
・肘の内側に付着する前腕屈筋群は指1本1本独立させてストレッチするとより伸びる
・手指の関節一つ一つを丁寧に動かすと指の「かかり」が良くなる
・前屈を行う前に体の後面(腰背部、臀部、ハムストリングスなど)を伸ばすとよりスムーズに動く
・後屈を行う前に体の前面(腸腰筋、大腿四頭筋、胸鎖乳突筋など)を伸ばすとよりスムーズに動く
・体の構造を理解し、動きの改善に役立てよう
(文=西村 典子)