野球のプレーに欠かせない回旋動作を担う胸郭の働き
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
連日甲子園では熱戦が繰り広げられていますね。新チームが始動した多くの高校では、この夏休み期間に遠征や練習試合などを行っていることと思います。暑い日が続きますのでしっかりとコンディションを整えて過ごしてくださいね。さて今回は野球のプレーに欠かせない回旋(ひねり)動作を担う胸郭の働きと動きについてお話をしたいと思います。
胸郭とは
胸郭の構造を理解しよう
●胸郭とは
胸郭というのは腰の上に位置し、胸部を保護する「かご状」の骨格部分を指します。背骨の一部である12対の胸椎と肋骨、胸骨で構成され、心臓や肺などを外的ストレスから守ります。
バッティング動作などでは腰をひねってスイングしているように見えますが、本来もっている腰椎の回旋可動域はほとんどなく(左右5°程度)、その上に位置する胸椎がその役割を担っています(左右30°程度)。
体をひねるという回旋動作は、胸椎とそれに付随する胸郭の柔軟性を高めることでよりしなやかに動くようになります。一方、胸郭の動きが制限されてしまうと、振り返って物をとるといった日常動作のみならず、肩甲骨の動きにも影響を及ぼすため、スムーズな投球動作ができなくなったり、肩を痛めたりする原因ともなってしまいます。
●柔軟性をチェックしてみよう
体の柔軟性はケガ予防に欠かせないものですが、回旋動作がスムーズに行えるようになると野球のパフォーマンスアップにもつながります。普段のウォームアップやストレッチを行う時に、自分で体をチェックしてみましょう。
どちらがひねりやすいか、普段と比べて今日の動きはどうかといったことを確認しよう
《壁ぎわでツイスト動作》
壁ぎわに立ち、左右の回旋動作を行います。右打者であれば左回旋、左打者であれば右回旋のほうがスムーズに動きやすいと思います。左右差とともに「いつもと比べて動きやすいかどうか」というチェックも合わせて行いましょう。回旋動作を担う腹斜筋の柔軟性も確認することができます。右打者(左回旋)であれば右の腹斜筋が伸び、左の腹斜筋が収縮します。左打者であれば左の腹斜筋が伸び、右の腹斜筋が収縮します。
投球側のほうが可動域が狭くなりやすい。鏡や他の選手に見てもらったりしながらチェックしよう
《肘を抱えて側屈動作》
肘を抱えて体を側屈させます。背筋や腹斜筋などの柔軟性をチェックすることができます。一般的には右投げの選手は右側が硬い傾向にあります。鏡などを見ながら行うと左右差を確認することができます。
普段からできる胸郭のエクササイズ
●普段からできる胸郭のエクササイズ
胸郭のストレッチとして一番なじみのあるものといえば、四股踏みの状態で肩をひねる動作ではないでしょうか。右肩と左肩を交互に体の中心に押し込むことで胸郭の動きを高めるストレッチです。この他にも先ほどのチェックで行った壁ぎわのツイスト動作や、肘を抱えての側屈動作なども取り入れると良いでしょう。
キャリオカは上半身と下半身を分ける意識をもつようにしよう
またウォームアップでよく行われているキャリオカの動作も胸郭の動きを高めるために欠かせないエクササイズの一つです。上半身はしっかりと正面を向いた上で、下半身をひねって足の入れ替えを行います。上半身と下半身の動きが骨盤を境に分断されることで、胸椎の回旋動作を引き出し、スムーズな動きをつくり出します。ただ単に体をひねるというだけではなく、上半身と下半身を分ける意識を持って行ってみましょう。
三点が固定された状態を保ち、しっかりとストレッチを行おう
さらにキャッチボールや投球前のエクササイズとしては、四つんばいの姿勢で行う胸郭のストレッチなども効果的です。頭の上に片手を置き、肘を大きく天井方面に向けるようにして顔も一緒に肘の方向を向きながら体をひねります。ゆっくり10回程度行ったら、今度は反対側も同じように行います。四つんばいの姿勢では腰が反らないように注意しましょう。このエクササイズでは下半身が固定され、上半身をしっかりとひねることができます。
野球のプレーでは多くの場合、右回旋か左回旋のどちらか一方を多く繰り返すため、胸郭の動きを担う筋肉の柔軟性も左右差が生じやすくなります。普段からセルフチェックを行って左右差を確認し、いつもよりも柔軟性が低下していると気づいたら、より入念にストレッチを行ったり、胸郭の動きを意識したエクササイズを行ったりするなど、回旋動作がスムーズに行えるようにコンディションを整えていきましょう。
【胸郭の動きを高めよう】
・胸郭とは胸部を保護する「かご状」の骨格部分のこと。心臓や肺を守り、回旋動作を担う
・壁ぎわでのツイスト動作や側屈動作で胸郭の動きをセルフチェックしてみよう
・キャリオカでは上半身と下半身をしっかり分けて、回旋動作を引きだそう
・四つんばいでの胸郭エクササイズは投球動作前に行うとより効果的
・自分の体を自分でチェックし、足りないところはしっかりと補うようにしよう
(文=西村 典子)
次回コラム公開は8月31日を予定しております。
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