体幹の役割としなやかな動作
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
いよいよ冬休みも近づいてきました。気温が下がってくるにつれ、体力づくりをメインに活動しているチームも多くなってきたことと思います。体調など崩さずに元気よく今年を乗り切りましょう。さて今回はパフォーマンスアップに欠かせない体幹の役割と、しなやかな動作を生み出すためのコンディショニングについて考えてみたいと思います。
なぜ体幹が重要なのか?3つの役割を理解しよう
体幹は回旋動作における運動軸として機能する
プロスポーツ選手をはじめ、多くのトップアスリートが体幹の重要性を話す場面も多くなりました。体幹とは「体の胴体部分」を指しますが、そこには脊柱(背骨)をはじめ胸郭、肩甲骨、骨盤などの骨とそこに付着する筋肉で構成されています。筋肉も大きく二層にわかれ、内臓付近に位置するものを深層(しんそう)筋、その上を覆っているものを表層(ひょうそう)筋と分類し、深層筋はインナーマッスルと呼ばれることもあります。
表層筋の代表例としては、腹部を覆っている腹直筋(いわゆる腹筋と呼ばれるもの)が挙げられます。腹直筋を収縮させることで大きな力を発揮し、体を丸めることができます。一方、深層筋の代表例としては腹横筋が挙げられます。こちらは収縮をしてもあまり大きな変化をもたらさないため、見た目にはわかりにくいのですが、腹横筋には体を支える機能があり、コルセットの役割を果たしています。このように表層筋は主に体を動かすことに働き、深層筋は主に体を安定させる役割となって、互いに連動しながら体幹を支えることに貢献しています。体幹の3つの役割について確認しておきましょう。
1)姿勢の維持
脊柱ではS字カーブを描いて荷重ストレスをやわらげる役割を果たし、そこに内臓を保護する目的とともに筋肉が体幹を支えて姿勢の維持に貢献します。体幹を囲む筋肉群が衰えてくると、姿勢が崩れる一因ともなります。
2)動きを支える土台
腹直筋や広背筋など体幹の表層にある筋肉は脊柱や胸郭などの骨格部分と連動し、さまざまな動きを可能にします。脊柱は7個の頸椎、12個の胸椎、5個の腰椎によって構成されていますが、体の前後屈(前後への曲げ伸ばし)は主に腰椎が、左右へのひねり動作については主に胸椎がその動きを担っており、そこに付着する筋肉とともに複雑な動きを支える土台として働きます。
3)運動軸としての役割
スポーツにおける複雑な動作は手や足など四肢の動きによってもたらされますが、体幹が安定していないといわゆる「軸がぶれた」状態になります。動作の再現性を高めるためにも運動軸を支える体幹をしっかりと働かせることが大切です。
強さとしなやかさを兼ね備えよう
後屈動作が窮屈な場合は太ももの前側を伸ばしてみよう
体幹部分は筋力をつけて大きな力を発揮することともに、柔軟性を高めて力の伝達がスムーズになるようにすることも大切です。体幹トレーニングというといわゆる腹筋・背筋のトレーニングやある動きをキープするスタビリトレーニングなどを想像すると思いますが、胴体部分をすべて含むので股関節の動きであったり、胸から上の胸郭部分をうまく動かせるようにすることもまた体幹トレーニングの一つと考えられます。表層筋や深層筋のエクササイズ(シットアップやお腹を凹ますドローインなど)とともに、体幹の柔軟性を高めるための動的ストレッチなども積極的に行うようにしましょう。
腰椎がうまく機能しないと体を前屈・後屈させることがむずかしくなりますし、胸椎がうまく動かないとピッチングやバッティングなどに必要な体の回旋動作がスムーズに動きません。それぞれの動きやすさを引き出すストレッチ方法をご紹介します。
《前屈が動きにくい》
お尻や太もも裏側のハムストリングスの柔軟性が低下していると考えられます。お尻・ハムストリングスのストレッチを入念に行いましょう。
《後屈が動きにくい》
太もも前面部や股関節前側の腸腰筋(ちょうようきん)などが硬くなっていると考えられます。太ももの前側、股関節の付け根などを中心にストレッチを行いましょう。
《回旋動作がしにくい》
胸椎の動きが悪くなっていたり、それに付着する筋肉の柔軟性が低下していると考えられます。肋骨の一番下の部分を両手で軽く押さえながら、そこから左右にゆっくりひねるように動かすようにしましょう。
《体の横倒しがスムーズにいかない》
体幹の側面を支える腰方形筋(ようほうけいきん)や腹斜筋などの柔軟性が低下していると考えられます。軽いダンベルなどを持って体を側方に傾けながらストレッチを行うようにしましょう。
体幹が強く安定することは、ピッチングやバッティング時のフォームを安定させて同じ動作を繰り返すことができるようになるだけではなく、姿勢の崩れによるケガを予防したり、下半身から得られた力を上肢や手、指先にまで効率よく伝えることができたりといったメリットが挙げられます。強さとともにしなやかな動作を実現させるためのコンディショニングを継続して行うようにしましょう。
【体幹の役割としなやかな動作】
●体幹とは体から頭部・手・足を除いた「胴体部分」のこと
●体幹は背骨や肩甲骨、胸郭、骨盤などの骨とそこに付着する筋肉などから構成されている
●骨に付着する表層筋は大きな動作を生み出し、深層筋は土台の安定性につながる
●体幹の3つの目的は「姿勢の維持」「動きを支える土台」「運動軸としての役割」
●筋力アップだけではなく、動的ストレッチなどを取り入れてしなやかな動きを目指そう
(文=西村 典子)
次回コラム公開は12月31日を予定しております。