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肘の痛みと肘の靱帯手術であるトミー・ジョン手術

2018.10.31

肘の痛みと肘の靱帯手術であるトミー・ジョン手術 | 高校野球ドットコム

 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

 公式戦が一段落しオフシーズンに近づいてくると、シーズン中は少々無理をしながらプレーをしていた選手も、患部の治療やリハビリテーションを優先的に行うことが増えてくると思います。この中でも投球動作の繰り返しによって起こる肘の痛みにはなるべく早く対応することが必要不可欠です。今回は肘の痛みと肘の靱帯手術であるトミー・ジョン手術についてご紹介したいと思います。

投球過多による肘の痛み

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踏み込み足が接地し、肩が大きくしなったときに肘には大きな負担がかかりやすい。

 野球選手にとって、肩や肘の痛みを感じたことがないという選手のほうが少ないかもしれません。それほど野球ではよく見られるケガの一つと考えられるでしょう。肘の痛みは投球フォームによるものや、筋力や柔軟性をはじめとする個人の体力レベル、年齢、性別などさまざまな要因が複雑に関係して起こるものですが、かなり大きなウエートを占めるものの一つに投球過多(いわゆる投げすぎ)が挙げられます。

 肘関節は曲げ伸ばし(屈曲・伸展)動作と前腕のひねり(回内・回外)動作を行う部位ですが、他の関節に比べると小さな関節なので、繰り返しかかる物理的ストレスに弱い傾向がみられます。上半身に負担の少ない理想的な投球フォームの場合、通常は肩や肘を傷めることはまれですが、体力レベルを超えて投げ続けると構造的に弱い肘関節はやがて傷んでしまうことになります。痛みがある間はしっかりとケアを行って投球動作を休むようにしたいところですが、この状態で投げ続けるとやがて日常生活にまで支障が及ぶほど肘の痛みに悩まされることにもなります。

肘の靱帯に大きなストレスがかかるとき

 肘の痛みには成長期によくみられる離断性骨軟骨炎(りだんせいこつなんこつえん)などをはじめとする骨の障害、肘関節周辺部に付着する筋肉や腱の炎症、そして骨と骨をつなぎとめている靱帯を損傷したことによるものなどが挙げられます。靱帯は関節が通常とはかけ離れた方向に動かないよう、つなぎとめる役割があるのですが、肘の内側にある靱帯(内側側副靱帯:ないそくそくふくじんたい)は投球動作によってつねに引き伸ばされる力が加わります。特に投球動作の中で踏み込み足(右投手の左足)が地面について、肩が大きくしなった状態(最大外旋時)に伸張ストレスが加わるため、肘の内側側副靱帯は引っ張られ、投球動作を繰り返すことによっていわゆる「靱帯が伸びた」状態をもたらします。

 靱帯が伸びた状態になってしまうと、骨と骨とをつなぎとめる機能が低下してグラグラと動揺性が増し、さらに投げ続けると部分断裂や、完全断裂などを起こすことがあります。肘の内側側副靱帯を傷めている場合、投げ始めから投げ終わりまで一貫して痛みが継続することや、ボールをリリースする瞬間に痛みを感じることなどがその特徴として挙げられます。

[page_break:肘の靱帯を再建するトミー・ジョン手術とは]

肘の靱帯を再建するトミー・ジョン手術とは

肘の痛みと肘の靱帯手術であるトミー・ジョン手術 | 高校野球ドットコム
高校野球ができる期間は限られているのでケガによる長期離脱はなるべく避けたい。

 肘の内側側副靱帯を傷めてしまった場合、まずは投球動作を中止し、専門家の指導の下にリハビリテーションを実施することがまず優先されます。ところが完全に断裂している場合や、長い競技人生を考えたときには傷んだ靱帯の代わりに新たな靱帯を再建する靱帯再建術を選択することもあります。一般的にトミー・ジョン手術と呼ばれるこの方法は、いくつかある靱帯再建術の一つですが、最近では肘の靱帯再建術そのものを指していることも多いようです。

 手術では傷んだ内側側副靱帯を切除し、同側の前腕部にある長掌筋腱(ちょうしょうきんけん)を取り出してこれを肘に移植し、内側側副靱帯として機能するように固定します。靱帯として機能するために、手術後はある程度固定期間が必要であり、その後のリハビリテーションなどを経て競技復帰する目安としては半年~1年ほどかかると言われています。

高校野球ができる期間は短い

 肘の内側側副靱帯を傷めてしまった場合、最終的に手術という選択肢をとることもありますが、高校野球という限られた期間の中で1年にわたってプレーができないという状況はなるべく避けたいところです。ごくまれに一度の投球動作によって靱帯を断裂することもありますが、肘の靱帯を傷めるケースの大半は、痛みを我慢しながらプレーを続けてきた結果、修復できないところまで靱帯を傷めてしまったものです。手術にいたる前段階で肘に異変を感じたら投球動作を中止して医療機関を受診することや、リハビリテーションの指導を受けること、痛みが残った状態でムリにプレーを続けないことなどを理解しておきましょう。

【肘の痛みとトミー・ジョン手術】
●投げすぎは肘を傷める原因の一つ
●靱帯は骨と骨とをつなぎとめる役割をもつ
●投球動作の繰り返しによって肘の内側の靱帯は引き伸ばされる
●靱帯が伸ばされると関節の動揺性が高まる(グラグラ感)
●トミー・ジョン手術とは肘の内側側副靱帯再建術の一つ
●手術後の競技復帰には時間がかかるため、なるべくその前に対策をとろう

(文=西村 典子

次回コラム公開は11月15日を予定しております。

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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