素振りと腰のケガについて考える
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
まだまだ暑い日が続き、甲子園では夏の大会が行われている真っ最中ですが、多くのチームでは秋の大会に向けた練習を積み重ねていることと思います。気がつけば夏休みも終盤となりましたね。今回は練習量を積み重ねることとケガ予防について、アスレティックトレーナーの立場から特に素振り練習と腰のケガについて考えてみたいと思います。
何を課題として取り組むのか
バッティングのパフォーマンスアップに素振りを行うことがある
反復練習は必要だけれども
投げこみ」「走りこみ」といった練習量に重点を置くものは、その練習における課題が明確であったり、体力レベルに則したものであったりすることが重要になってきます。基本的なことを繰り返し行うことができるようにするためには、反復して練習することも時には必要となります。それにはただ何となくやっている、言われたからやっているというのではなく、何を課題として取り組んでいるのかを選手自身が理解していることが大切です。
逆に選手からすると「きついからやりたくない」と思うかもしれませんが、練習の意図を理解し、体力レベルにあったものであれば続けて取り組むことがパフォーマンスの向上にもつながります。一番考えなければならないのは「体力レベルにあったものかどうか」「オーバーワークになっていないかどうか」ということ。練習量が多く、疲労困憊の状態でさらに反復練習を繰り返すことは、選手がもともと持っている筋力、筋持久力などの体力レベルが落ちた状態で行うことになります。全体の練習量、選手の疲労具合、持っている体力レベルを考慮して、特定部位に過度な負担がかからないようにすることがケガ予防の観点からも求められます。
腰椎分離症に悩む選手が多い
高校野球選手の多くが小学校時代から野球をしていることが多く、プレーのキャリアが長い分、不安部位を抱えたまま過ごしている選手も少なくありません。成長期のときに膝が痛くなったり、腰が痛くなったりした経験もあると思いますが、特に腰では腰椎の疲労骨折である腰椎分離症と診断された選手が、その痛みや不安を抱えたまま高校でもプレーしているケースがあります。
ジュニア時代に腰の痛みを感じながらもプレーを続けてしまうと、やがて腰椎の疲労骨折につながってしまうのですが、特に腰を反らせたときに痛みが強く出る傾向がみられます(参考コラム「腰椎分離症ってどんなケガ?」)。こうした不安部位を抱えたまま高校でもプレーする場合は、不安部位はもちろん、体全体の筋力をトレーニングで強化したり、柔軟性を高めて特定の部位に負荷がかかりすぎないようにコンディションを整えることが大切ですが、プレーできるからといってそのままにしておくと、反復練習などの負荷に耐えられず、弱い部分を中心にケガをしてしまうことにもつながります。
腰への負担の対策
素振りだけではなく下肢の筋力トレーニングも並行し、腰にかかる負担を軽減させる
素振りの方法によっては腰に負担がかかりやすい
反復練習の代表的なものの一つに「素振り」があげられます。よく素振りの回数が練習量の目安になったり、甲子園に出場しているチームの話題になったりしていますが、これもただやみくもに回数をカウントするのではなく、どれだけ量に対して質を求めているかということも考える必要があります(体力面での考慮ももちろん必要です)。
特にマスコットバットなど普段よりも重いものを繰り返しスイングすると、回旋動作の繰り返しによって腰椎に過度な負担がかかりやすいだけではなく、無理に体を捻らせようとしてバッティングフォームを崩しやすくなります。マスコットバットをスイングすることで何を鍛えているのかを理解し、反復練習だけではなく、さまざまな練習方法を行って目的とするパフォーマンス向上につなげるようにすることが、腰のケガ予防にもつながります。
例えばバッティングの時にぶれない軸の意識を持たせるのであれば、メディシンボールなどを使った体幹トレーニングを併用する。遠くへ飛ばすパワーをつけたいのであれば下肢の筋力トレーニング(特にパワークリーン、スクワットなど)を継続して行う。スイングスピードを上げたいのであれば、ノックバットなど軽めのバットでスイングするといったことがあげられます。
逆スイングで筋力バランスを改善する
素振りが同じ動作の繰り返しということを考えると、数多く素振りをした後に、逆スイングを行うことも一つの方法です。同じ数、同じ運動量にする必要はありませんが、体に逆スイングをさせることで今まで縮んでいた筋肉は伸ばされ、伸ばされていた筋肉は筋収縮をするという反対の動きを伴うことになり、アクティブストレッチとしても活用することができます。ただ腰椎への負担という点では反対とはいえ回旋動作が繰り返されるため、痛みや不安部位を抱えている選手は負担が大きくなりすぎないように注意する必要があります。
やみくもに回数をこなすのではなく、意図を持って素振りに取り組むことや、目的によっては違ったアプローチ方法を併用するなどして、素振りによる腰痛を引き起こさないようにしていくことが大切です。
【素振りと腰のケガ】
●反復練習はオーバーワークにならないように注意する
●高校で腰椎分離症を抱えたままプレーする選手は少なくない
●マスコットバットでの素振りは腰椎に過度な負担がかかりやすい
●素振りで何を鍛えるのかを明確にし、時には違ったアプローチも併用する
●逆スイングをアクティブストレッチに活用する
次回コラム公開は8月30日を予定しております。
(文=西村 典子)