Column

完成度と将来性を併せ持つ特Aクラスの超高校級、高橋 純平

2015.04.14

 今大会の快投で、大会ナンバーワンピッチャーの称号を欲しいままにした高橋純平。高橋投手を小関順二氏が徹底分析。高橋投手の魅力をさらに知ることができます。

高橋純平の魅力は『静かな』投球フォーム

完投勝利を挙げた高橋 純平と女房役の加藤 惇也
【第87回選抜高等学校野球大会 1回戦 松商学園戦より】

 高橋純平(県岐阜商3年)を見て驚かされたのは投球フォームだ。「美しい」「きれい」「合理的」「理にかなった」……等々、その形容をいろいろ考えた末に一番ぴったりくるのが「静かな」である。

 昨年秋の東海大会の映像を見るともっと上体が暴れていた。そして初めて姿を現した甲子園(選抜大会)ではそういう余計な動きの一切を取り払っていた。わずか半年でこうまで変わるのか、そういうことに驚かされた。

 ボールが速い高校生はワインドアップかノーワインドアップで投げるのが普通だが、高橋純は走者がいないときでもセットポジションで投げる。今大会に出場した投手はどうだろう。専門誌『報知高校野球5月号』(報知新聞社)に140キロ以上計測したと紹介される14人中、セットポジションで投げる投手は高橋純以外では小川 良憲近江3年)と京山 将弥近江2年)の2人しかいなかった(常総学院井上真幸は不明)。

◇ワインドアップ5人
佐藤 世那仙台育英3年)、平沼 翔太敦賀気比3年)、高橋 奎二龍谷大平安3年)、高山 優希大阪桐蔭2年)、高橋 晟一朗米子北3年)

◇ノーワインドアップ5人
大澤 志意也東海大四3年)、鈴木 昭汰常総学院2年)、勝俣 翔貴東海大菅生3年)、大江 竜聖(二松学舎大付2年)、村木 文哉静岡2年)

 高橋純はしばしば「打たせて取る」「低めに投げる」とコメントしている。高橋純以外でもそういうことを言う投手はたまにいるが“監督に言わされている感”が強く、無理するなよと言いたくなる。しかし、高橋純は違う。1回戦松商学園戦の2回裏、一死走者なしの場面で5番宮嶋 隼平(2年)にクイックモーションで投げているのだ。

 モーションを起こしてから投げたボールがキャッチャーミットに収まるまで2秒前後かかる投手に1.10秒で投げられたらバッターはびっくりするし、それ以降落ち着いてボールを待てない。ちなみに宮嶋はこの打席、センター前にポテンヒットを放っているが、それ以降松商学園が放ったヒットは3回のバント安打だけである。高橋純のボールの力と、打者を翻弄する技が融合した結果と考えていい。

コラムに登場した選手のインタビューは以下から!

仙台育英学園高等学校 佐藤 世那投手「頭脳的フォークボーラーの進化の過程」
敦賀気比高等学校 平沼 翔太投手 「目指すは世代ナンバーワンピッチャー!」
東海大学菅生高等学校 勝俣 翔貴選手「投打でひと回り成長できた真夏のトレーニング」
二松学舎大附バッテリー 大江竜聖×今村大輝! 「5季連続甲子園出場を果たし、歴史に名を刻みたい」

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[page_break:速球だけではなく、変化球の精度も高い高橋純平]

速球だけではなく、変化球の精度も高い高橋純平

県立岐阜商業 髙橋 純平
【第67回(平成26年度)秋季東海地区高等学校野球大会
準決勝 いなべ総合戦より】

 ストレートはこの松商学園戦と2回戦近江戦で150キロを計測した。今大会150キロの大台を超えたのは高橋純1人だけで、2番目に速かったのは仙台育英・佐藤世の144キロ。高橋純が飛び抜けた存在だということがわかる。
スピードだけではない。変化球の精度も高かった。球種はカーブ、スライダーが主体。ともにストレートと同じ腕の振りで投げることができ、さらに腕がよく振れる。細かな特徴は次の通りだ。

◇カーブ……横ブレが極めて小さい縦変化で105キロ程度

◇スライダー……横変化と斜め変化の2種類あり、横スラはカットボールのように小さく変化するのがありバリエーションが豊富

 この2つに時折、チェンジアップも加わる。120キロ台後半のボールで縦に落ちるボールである。これらの変化球を2回戦近江戦では1回に多投した。近江打線は当然、ストレートを主体にした配球を予想したと思うが、この回はほとんど変化球。それもストレートと約40キロのスピード差があるカーブを多投した。2回以降、通常の配球に戻した高橋純に対して近江打線は105キロの“遅球”の幻影に惑わされ3安打完封に抑えられた。

 高橋純の投球フォームは非の打ちどころがない。2012年春優勝投手の藤浪 晋太郎大阪桐蔭→阪神)ですら腕が背中のほうに入りすぎる、その結果、右打者の内角を狙ったストレートがシュート回転するという悪癖があったが、高橋純にはそういうフォームに起因する悪癖がほとんどない。

 選抜大会中、毎日1試合ずつ書き続けた本サイトの「小関順二がストップウォッチで有力選手を分析!」では松商学園戦の高橋純の投球フォームを次のように書いた。
「上半身にまったくブレがないのだ。スッと立った上半身がその最初の状態のまま下半身に誘導されて打者に向かって行き、テイクバック時から投げに行くまでのヒジの位置が高い。これはヒジ・肩の無理使いから無縁でいられるということである」

 この高橋純に対する思いは原稿を書いてから20日後の今でもまったく変わっていない。最後に高橋純の今大会の成績を紹介しよう。


1回戦
 松商学園(4対1)9回、110球、2安打、11三振、1四球、失点1、自責点0

2回戦
 近江(3対0)  9回、112球、3安打、10三振、1四球、失点・自責点0

準々決勝
 浦和学院(0対5)8回、103球、11安打、5三振、1四球、失点・自責点5

 球数の少なさ、四死球の少なさがわかる。それでいてストレートが150キロを計測し、三振を1、2回戦に10個以上取っている。高校生では極めて稀な「完成度と将来性」を併せ持った特Aクラスの高校生だということがわかる。

(文・小関 順二

【小関順二がストップウォッチで有力選手を分析!】 バックナンバーはこちらから

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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