2015年の高校野球を占う【東北編】 過去5年で明治神宮大会優勝3回の東北勢を占う
近年、全国でも上位進出が目立つ東北勢。昨年の振り返りをしていきながら、東北地区の各校の状況を占っていく。
圧倒的な力の差を示して優勝した仙台育英
優勝した仙台育英
秋の日本一を決める明治神宮大会。田村 龍弘(現ロッテ)、北條 史也(現阪神)らを擁した光星学院(現八戸学院光星)が2011年に初優勝を飾った。上林 誠知(現ソフトバンク)(2013年インタビュー)が中心を担っていた12年の大会では仙台育英が初めて頂点に立った(試合レポート)。そして、今年は仙台育英が2年ぶりに明治神宮大会を制覇。秋の東北地区のレベルを示している。
甲子園での優勝はまだないものの、準決勝や決勝に進出するチームが増え、初戦突破も珍しくなくなった。以前、東北地方のチームの躍進に「交通の便が変わり、遠征がしやすくなり、逆に東北地方に他の地方のチームが来訪しやすくなった。高いレベルの高校と試合ができるようになった」と言った指導者がいた。また、野球の技術・戦術、トレーニングに関することや選手個々の話題など、情報量が増えたことも要因だろう。
2015年は、高校野球が始まって100年という記念の年。今年の東北地方はどんな展開を見せるのだろうか。
話題の中心は、秋の日本一に輝いた仙台育英になるだろう。エース・佐藤 世那が心身両面での成長を見せ、攻守の要・平沢 大河が東北大会準決勝から復活。その平沢を中心とした打線は明治神宮大会で破壊力を見せつけた。秋の公式戦の打点119はセンバツ大会出場校でダントツのナンバーワンだ。切れ目がない、というよりは、個性的な打線かもしれない。1番・佐藤 将太が高打率をマークし、4番・郡司 裕也が打点を稼ぐ。一発を秘める紀伊 海秀が6番におり、8番・谷津 航大は「谷津当たり」と言われたほど、死球を受けることが多い。
バラエティに富んだ打線で相手投手にしてみれば、常に緊張が強いられる。投手陣は1年春から公式戦経験のある小林 勇太が不調で、佐藤世が一人で投げる格好となったのがもったいなかった。佐藤世にとっては一人立ちする機会となったが、チームとしては負担を減らしたかったところ。春、夏と投手陣の厚みが増すと、他校にとっては厄介だ。
宮城は仙台育英を追いかける展開になるが、中でも東北が名門復活に本気だ。好選手が多い東陵、利府、柴田に加え、昨秋の東北大会に初出場し勝利を挙げた(試合レポート)松島が面白い。21世紀枠候補校9校に残ったが、残念ながらセンバツ大会出場とはならなかった。夢の舞台へはたどりつけなかったが、ゲーム勘のある選手たちがそろうため、春の戦いぶりが楽しみだ。
東北大会決勝で、仙台育英に4対10で敗れはしたものの、初のセンバツ大会出場につながる戦いぶりを見せたのが大曲工だ。初の甲子園出場を視野に入れ、第1シードで臨んだ昨夏は準決勝で敗退。新チームの公式戦は接戦続きだったが、秋の県大会で7年ぶりに優勝し、東北大会へ駒を進めた。
準々決勝で花巻東と延長15回を引き分けたが、再試合を10対6で勝利。準決勝で鶴岡東を4対3で下し、センバツ大会の当確ランプを灯した。チームの中心は“二刀流”の武田 龍成。昨秋は背番号7を付けてエース格としてマウンドに立ち、打っては4番を担った。エースナンバーを背負った山崎 泰雅ら投手陣は豊富だった。攻撃面では、打率.441の1番・佐々木 駿一が火付け役になり、打線に勢いを与えた。
今回のコラムに登場した学校の野球部訪問は以下から!
仙台育英学園高等学校(宮城) 2014年08月23日公開
東陵高等学校(宮城) 2014年03月14日公開
光星学院高等学校(青森) 2011年02月18日公開
東北各地区の状況と有力選手
中川 優(八戸学院光星)
秋の県大会決勝で、大曲工に1点差で敗れた能代松陽は東北大会で八戸学院光星に敗戦を喫し(試合レポート)、レベルアップを誓っている。東北大会に出場した西目、県大会の3位決定戦でコールド負けした秋田商、昨年3月から元プロ野球選手の八木 茂監督が指揮を執る明桜にも注目。秋田はその年によって中心になるチームが変わるため、展開は予想しにくいが、それが秋田の面白さでもある。
仙台育英の明治神宮大会優勝でセンバツ大会出場が決まったのが八戸学院光星だ。東北大会準決勝で、仙台育英に2対7で敗戦。センバツ大会出場は絶望的だったが、明治神宮大会枠がもたらされた。昨夏の甲子園を経験する中川 優、呉屋 開斗、八木 彬の3投手がいたことで、ディフェンスは計算が立った。しかし、攻撃陣は経験者がいたものの、全体的に小柄だったことから、1点を取りにいく攻撃となり、こじんまりとした。その反省から「強打の光星」の復活を掲げて冬場は徹底的に振り込んでいる。
弘前学院聖愛は2013年夏に初の甲子園出場を果たした。その時、1年生で甲子園を経験した選手が残っている。「もう一度!」という気持ちは強いはずだ。また、昨秋は横浜の元コーチ・小倉 清一郎氏を臨時コーチとして招き、指導を受けた。指導を受ける監督、選手は細かい部分までの徹底ぶりに当初は戸惑ったようだが、食らいついて習得しつつある。秋に教わったことを春にどのような形で体現するのか、注目だ。八戸工大一は195センチ右腕・内沢 航大がどこまで成長しているか。この3校に青森山田を加えた「私学4校」の牙城を崩す公立校の出現も楽しみにしたい。
昨秋の東北大会で、2カード連続で延長再試合を演じた花巻東。プロ注目左腕・高橋 樹也が左肩を痛めていたため、万全の状態だったらどうなっていたか分からない。高橋をはじめ佐藤 唯斗、千葉 耕太といった能力の高い選手がそろっており、今年も注目度の高いチームだ。岩手は毎年、混戦になるが、秋に準優勝だった一関学院、3位の宮古商、能力の高い選手がそろう盛岡大付、監督が代わり新たなスタートを切った専大北上と、今年も混戦模様だ。
山形の秋季大会の結果は、優勝・鶴岡東、準優勝・山形城北、3位・米沢中央。この3校以外でも注目校は多い。昨夏の甲子園で2勝した山形中央は、左腕・佐藤 僚亮、スラッガー・青木 陸を擁する。13年夏の甲子園で4強入りした名門・日大山形に酒田南、羽黒、東海大山形の私学勢もだまっていないだろう。日大山形、青森山田を指導してきた渋谷 良弥監督が現在、監督を務める山形商も力を付けてきている。
福島は昨秋、日大東北が連覇を達成した。夏こそ、聖光学院が8連覇中で、福島=聖光学院のイメージが強いものの、他校の存在感も出始めている。日大東北は、13年秋の県大会準決勝で聖光学院の連勝記録を止め、昨秋の県大会では準々決勝で3対2で下し、東北大会出場への道を閉ざした。その力を春と夏に見せられるか。長いシーズンオフを過ごすことになった聖光学院がこのまま黙っているわけもない。昨秋準優勝の東日本国際大昌平、3位の光南も東北大会出場の経験を生かしたいところ。福島は毎年のように好投手が出現するため、今年はどんなピッチャーが出てくるのか、それも楽しみだ。
(文・高橋 昌江)
今回のコラムに登場した学校の野球部訪問は以下から!
弘前学院聖愛高等学校(青森) 2014年04月24日公開
盛岡大学附属高等学校(岩手) 2013年05月07日公開