Column

第84回全国選抜大会展望~九州勢の強さに迫る~

2012.03.14

選抜大会特集

甲子園の春夏連続ファイナリスト記録は7年間継続中の九州沖縄勢

昨年度、準優勝校・九州国際大付

 過去数年にわたり、甲子園球場で最大の勢力を誇る九州沖縄勢だ。
 2005年年・春に神村学園が初出場で決勝進出を果たして以降、春夏いずれかの大会で決勝進出チームを輩出しているのだ。うち全国制覇は10年に興南(沖縄)が達成した春夏連覇を含む5度。とくに春は神村学園に始まり昨年の九州国際大附まで、07年を除くすべての大会で決勝進出を果たしている。その07年も夏に佐賀北が全国制覇を達成したため、春夏合わせた甲子園のファイナリスト記録は7年間継続中というわけだ。
 強さの理由は、常に探っている。ところが、そこに明確な理由などはない。ただ、探っているうちに「強さ」ではなく「好結果を残し続けることができた理由」が、おぼろげながらにも見えてきた。

クロスロードの成長とともに

平野國隆監督(鳥栖)

 九州監督会を束ねる鳥栖・平野國隆監督が“盟友”の当時沖縄水産監督、故・栽弘義さんとともに「クロスロードイン鳥栖」を発起したのが1994年。わずか6校でスタートした5月連休の練成会が、現在では120校を超える全国最大の巨大オープン戦リーグに成長したわけである。クロスロードの巨大化に比例して、九州地区の野球レベルは上昇していくのだった。
 現在では、九州各地からも強豪が挙って参加するようになったが、その人気の理由は、監督間同士の交流(懇親会)が充実していることにあるという。クロスロードの“育ての親”栽さんは「九州(・沖縄)はひとつ」というスローガンを常に提唱し、自身の経験や野球観を余すことなく若い指導者たちに伝授していった。

 練習方法や戦術など、本来であればチームごとに隠し通して可笑しくない事柄すら、出し惜しみなく伝えていくのだ。

 栽さんのグラウンド内外で見せた地域強化の精神は“生みの親”でもある平野監督を中心に継承されてゆく。伝授から意見交換の場となり、チーム強化の品評会としてクロスロードは成長した。そして、他地区の指導者が「我々の地域では考えられないですね……」とカルチャーショックを受けるほどの一体感を作り上げていった。

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独特のカレンダー

昨秋の九州王者・神村学園

 「練習環境を見ても、そんなに恵まれているわけではない。細かなサインプレーなど戦術面を見ても、とくに九州沖縄だけが特別なことをしているわけじゃない。身体能力でも都会の子に敵わない」
 ここ数年、九州沖縄勢が挙げてきた戦果に対しては、平野監督ですら首を傾げるのである。また、2年連続でセンバツ出場を決めている九州学院の坂井宏安監督が、こう言って続いた。
「北海道や東北の強豪私学の方が、冬は暖かい環境で練習をしているよね。こちらには雪のある地域ほど立派な室内を持ったチームなんてありませんからね」
 大きな沈黙の後、平野監督がようやく搾り出すように言った。

「やはり、実戦経験の差じゃないかな」
「いろんな点で関東や関西には及ばない。となれば、もう実戦で培われた経験と勘ということになるのかな」
 九州は豪雪地帯がないため、当然、早い時期から紅白戦などを組むことができる。2月になれば、早くも実戦たけなわという場所もある。また、シーズン終了も近い11月末であっても、日の入りが体感で関東よりも1時間遅いことから、時間を割いて入念な練習を行なうことも可能だ。
 さらに、九州沖縄独特といっていいシーズンの流れが大きなポイントだと平野監督。

初出場・宮崎西高校

 九州地区では3月20日過ぎから春季九州大会の予選が始まる。センバツ開幕と時を同じくして、解禁からわずか2週間で公式戦を組むの。そしてセンバツの余韻が色濃く残る4月20日すぎに、早くも春季九州大会を実施。他地区では地区大会を5月の連休中やその後に行なうところがほとんどだ。九州ではその時期に既述のクロスロードや鹿児島ベースボールフェスタ、柳ヶ浦練成会、中九州ベースボールフェスタなど、大規模な練成会を行なっている。
 さらに他地区大会がようやく終幕する5月末から6月前半頃には、地元テレビ局などが主催するフラッグ争奪トーナメントやカップ戦が行なわれる。この大会にはすべてのチームが予選から出場し、上位チームに招待試合への参加資格が与えられる。

 これがいわゆる“夏の前哨戦”として位置づけられているわけで、本気度も非常に高い。
こうして春季大会から夏までの間に、さらにもう一度ガチンコのトーナメントを組むことで、平野監督の言う「実戦経験」が積み重なっていくというわけだ。つまり、春季大会の早期開幕が、結果的には非常に大きいということになる。

 かくして、九州沖縄勢の聖地挑戦が今年も始まった。
 まずは昨秋王者の神村学園、2年連続の九州学院が初出場の別府青山宮崎西が「8年連続」に挑戦する。

(文=加来 慶祐)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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