第84回全国選抜高等学校野球大会展望
東の大谷、西の藤浪だけでは語れない選抜2012
大谷翔平(花巻東)
おそらく、今大会の注目はこの二人を中心に語られて行くのだろう。しかし、2人だけではない。彼らに続くのは、昨秋、東海大会を制した愛工大名電の浜田達郎。力みのない投球フォームからストレートを中心に投げ込む、スケールの大きい投手だ。1年時からチームの軸として活躍してきた智弁学園の青山大紀は昨夏、その片鱗を見せたばかりだ。神宮大会を制した光星学院には二人のスラッガー・田村龍弘と北條史也がそびえたつ。
2年前の夏、PL学園の清原和博以来となる「1年生・4番」で本塁打を記録した九州学院のスラッガー萩原英之は1番打者として今年も甲子園に帰って来た。昨夏ベスト4の作新学院の大谷樹弘、横浜の柳裕也、昨秋の防御率が0点台の聖光学院の岡野祐一郎ら、スター候補生が揃っている。
藤浪晋太郎(大阪桐蔭)
昨夏に続いて出場の健大高崎や神村学園。21世紀枠から被災地を代表して石巻工が雄姿を見せる。早鞆は元プロ野球選手の大越基監督が率いるとあって注目度も満載だ。個人的には、宮崎西、高崎などの進学校がどこまで上位進出を果たすか、期待している。
ここ数年にはなかった大激戦になる――。今大会には、それほどの期待感がある。
今まさに旬を迎えるチームに目が離せない
青山大紀(智弁学園)
とはいえ、前評判通りいかないというのがここ数年の傾向である。特に、センバツ大会の前年秋に開かれる神宮大会優勝校に特別枠が設定されてからと言うもの、その傾向が強くなってきたように思う。
各地区の優勝校が集結するこの大会は、センバツより先んじて、注目を浴びてしまう。そのことがプレッシャーを生み、出場校に重くのしかかっているのではないだろうか。戦力をさらけ出すということも一理あるだろうし、傾向は強くなっている気がしてならない。
この10年の結果を振り返ると、74回大会から78回大会年までは毎年のように、地区大会優勝校が決勝に来たものだが、この5年は81回大会の清峰と79回大会の常葉菊川だけだ。昨年は地区大会準優勝校同士だったし、一昨年優勝の興南は地区大会3位だった。09年優勝の清峰の相手・花巻東は、地区大会準決勝敗退校で、落選もありえた学校だった。
いわば、前評判など役に立たない。むしろ、プレッシャーになる時さえある。そう思った方が良いのかもしれない。
その中で、ここ数年の傾向として顕著に奮闘ぶりが際立つのは九州勢である。つごう4年連続で決勝に顔を出している。うち3校が優勝だ。また、昨年の波佐見や一昨年の自由ケ丘がそうだったように、大会の優勝候補を破る大金星を挙げるなど、旋風を巻き起こしているチームがあるのも見逃せない。
「食べ物でも、何でも、旬ってある。スイカは夏とかね。高校野球のチームにもある。それが5年か10年かは知りませんけど、その期間は強い」
萩原英之(九州学院)
初出場初優勝から一時期は甲子園が遠ざかっていた大阪桐蔭も、01年夏以降、出場を増やし、08年夏、2度目の全国制覇を果たした。彼らもまた、旬を経験したのだ。
優勝校だけではない。今、まさに旬を経験しようとしているチームがいくつもある。2年連続出場・履正社は77回大会の出場以降、波に乗っている。光星学院だって、そろそろ激しい波が来ていい時期だ。歴史は古いが、未だ全国制覇のない智弁学園も昨夏、奈良県代表校史上初めて、神奈川県勢を破った。そして、昨秋は近畿大会を初制覇という流れをつかんでいる。さらに、今大会は奈良県代表が14年ぶりに2校出場する。実は、前回、奈良県勢が2校出場した時は、天理が頂点に立っている。そうした奇縁も旬に変わる時もくる。九州学院は萩原英之の登場とともに、甲子園の出場数を増やしている。萩原のいる時こそ、旬という見方があってもいい。
優勝争いは果たしてどこがつかむのだろうか。神宮大会を制覇の光星学院など地区大会優勝校がそのまま頂点に掛け登っていくのか、それとも、ここ数年の奮闘ぶりが目立つ九州勢なのか、はたまた、“旬”のチームか、また、あるいは、昨年の東海大相模がそうだったように横浜・天理・浦和学院などの、いわゆる甲子園強豪校が紫紺の優勝旗を持って行くか。
大会は3月21日に開幕する。
(文=氏原 英明)