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【西東京大会総括】29歳の青年監督による快挙、そして力を発揮できなかった実力者たち

2019.07.31

 東西東京大会が終わった翌日に、関東地方の梅雨明けが発表された。それだけ雨に悩まされ続けた3週間余りであった。連日の雨の中でもグラウンドを整備し、パズルのように複雑な日程調整をしながら、最終的には予定通り大会を終えた関係者の苦労に、まず敬意を表したい。

 第101回大会、令和元年と、新たの時代の到来を感じされる今大会は、波乱続きであった。とりわけ東京の高校野球をリードしてきた早稲田実日大三帝京が準決勝に残ることなく姿を消した。これは東京が東西2代表になった1974年の第56回大会以降、初めてのことだ。また早稲田実が国分寺市に移転し、西東京に編入されてから、早稲田実日大三も4強に残れなかったのも、初めてのことだ。
 波乱の一方で、新たな時代の息吹も感じられた今年の東西東京大会を振り返る。
 今回は西東京を見ていく。

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第101回 全国高等学校野球選手権 西東京大会

長所を引き出した29歳の青年監督

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國學院久我山・高下耀介(春の都大会・都立篠崎戦から)

 国士舘日大三早稲田実東海大菅生など、優勝候補が相次いで敗れる中、西東京大会を制したのは、秋、春の都大会で8強止まりだった国学院久我山だ。特に秋は、エラーで自滅する形で敗れた。
 選手たちが問題点を自覚し、改善していった。尾崎直輝監督は、選手たちの長所をうまく引き出してチーム力を上げ、優勝に導いた。

 尾崎監督は29歳。東京で20代の監督が優勝するのは、久々である。
 東京の高校野球をリードしている帝京の前田三夫監督も、日大三の小倉全由監督も20代で監督として甲子園に行っている(小倉監督は関東一の監督として)。早稲田実の和泉実監督も30代前半に優勝している。

 それに比べると、近年は若い指導者があまり台頭していなかった。東京の高校野球の発展のためには、世代や背景が違う指導者が切磋琢磨し合うことが望ましい。
 準優勝の創価の片桐哲郎監督は、指導者経験は豊富だが、1976年生まれで若い方に入る。

 小倉監督や和泉監督、それにプロ野球経験者である東海大菅生の若林弘泰監督といったベテランの指導者が覇を競い合っている中に、若手の指導者が入り込んできた。東京の高校球界にいい刺激になるに違いない。

完成されたチームの難しさ

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東海大菅生(春の都大会・国士舘戦から)

 今年の西東京でダントツの優勝候補は、東海大菅生だった。投、攻、走、守のあらゆる面で高いレベルでスキがなく、完成されたチームだった。

 これだけ完成されたチームは、一度センバツにピークを持って行って戦い、大会後は一度リセットしたうえで、夏に臨むべきなのかもしれない。しかし力はありながらセンバツに出場できなかった。そのためリセットする間もなく、関東大会を戦った。

 エースの中村晃太朗が6月に、走り込みで膝を痛めたのが響いた。
 強肩、俊足、強打の捕手である小山翔暉、華麗な守備の遊撃手・成瀬脩人らを甲子園でみられないのは、寂しい気がする。

[page_break:エースの存在の大きさ]

エースの存在の大きさ

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日大三・井上広輝(春の都大会・修徳戦から)

 昨夏の甲子園でベスト4の日大三は、廣澤優井上広輝のWエースに、捕手の佐藤英雄らが残った。昨年の甲子園で全国区の存在になった廣澤と井上だが、廣澤はやや伸び悩んだ感がある。
 廣澤は昨夏の身長189センチから、今年は193センチに伸びた。「まだまだ伸びている」という廣澤が、本当の力を発揮するのは、次のステージであろう。

 井上は昨年の春季大会で肘を痛めてから、小倉監督は回復した後も大事に使った。それは指導者として正しい判断であると思う。ただこの夏敗れた桜美林戦では、廣澤が打たれた後、2年生の児玉悠紀をはさんで井上を投入した。小倉監督は、児玉も投手として経験を積んでいると語ったうえで、「大事にいったことで、思い切りや奮い立たせることができなかったのかもしれない」とも語っている。

 横浜高校時代の松坂大輔は、準々決勝のPL学園との延長17回の死闘を繰り広げた翌日に行われた準決勝の明徳義塾戦は登坂を回避したものの、劣勢の中、投球の準備を始めた途端、球場の雰囲気が変わり、逆転勝ちにつながった。エースは単なる投手陣の駒の1人ではない。その意識が変わらない限り、球数制限などはうまく機能しない。

 八王子帝京八王子に敗れた試合で八王子は4番手くらいの投手が先発した。期待の選手であり、今後の長い戦いを考えれば、必要な投手起用だったと思う。ただそれを、両チームの選手たちがどう感じたかは、別の問題である。

ベテランの指導者が育て上げた都立豊多摩

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国士舘(春の都大会・東海大菅生戦から)

 今大会、波乱の幕開けは、秋優勝、春準優勝の国士舘が初戦で都立日野に敗れたことだった。都立日野も実力のある学校であり、波乱と呼ぶのは失礼かもしれない。それでも同じ日、シード校の法政都立狛江に敗れた。

 ノーシードながら強豪の明大中野八王子は、都立田無に苦戦し、明星に敗れた。
 明星には本来、西村英紀という2年前の秋季都大会で準々決勝進出の立役者となった好投手がいるが、故障で夏に間に合わない。そこで遊撃手で器用な鈴木歩夢を投手に育てた。しかし春季大会では経験不足から、都立紅葉川に打ち込まれた。ところが夏は制球力が抜群になり、チームのベスト16進出に貢献した。
 結局夏に向けてチームをどう仕上げてくるかがカギとなるわけだが、それ以前に監督と選手の信頼関係も重要である。

 この夏西東京で、都立では唯一準々決勝に残った都立豊多摩は、平岩了監督が都立城東から異動して4年目になる。甲子園経験もある都立城東との意識の差に、当初は「カルチャーショック」と言って戸惑っていた平岩監督であるが、指揮官の意思が浸透し、選手に自主性が芽生えるようになった。

 また佼成学園を破り4回戦に進出した啓明学園の芦沢真矢監督は、ヤクルトのOB。「一朝一夕にはいかない」と言いつつも、年々確実にチーム力を上げている。
 初戦でコールド負けしたものの、途中まで都立小平西と互角の試合をした国際基督教大高も、かつてのような弱小校ではない。
 相変わらず、実力上位の学校と下位の力の差は、はっきりしているが、ステップアップしているチームもあり、東京の戦いを面白くしている。

 東西東京の代表として甲子園に行く関東一と国学院久我山は春季都大会の準々決勝で対戦し、延長10回の熱戦の末関東一が勝っている。あれから3カ月余り、両チームとも力をつけて晴れの舞台に立つ。まずは甲子園を思い切り楽しみ、暴れてほしい。

 と同時に、敗れた学校には来年の夏に向けての戦いが始まっている。来年は東京オリンピックが開催される。[stadium]明治神宮球場[/stadium]は開会式しか使えない代わりに、[stadium]東京ドーム[/stadium]が準決勝と決勝戦の舞台になる。きっと今後も語り継がれる夏になるに違いない。来年のドラマも楽しみである。

文=大島 裕史

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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