Column

【東東京大会総括】役者の揃っていた関東一が3年ぶりの甲子園へ!都立校や好投手の出現も際立った

2019.07.31

 東西東京大会が終わった翌日に、関東地方の梅雨明けが発表された。それだけ雨に悩まされ続けた3週間余りであった。連日の雨の中でもグラウンドを整備し、パズルのように複雑な日程調整をしながら、最終的には予定通り大会を終えた関係者の苦労に、まず敬意を表したい。

 第101回大会、令和元年と、新たの時代の到来を感じされる今大会は、波乱続きであった。とりわけ東京の高校野球をリードしてきた早稲田実、日大三、帝京が準決勝に残ることなく姿を消した。これは東京が東西2代表になった1974年の第56回大会以降、初めてのことだ。また早稲田実が国分寺市に移転し、西東京に編入されてから、早稲田実日大三も4強に残れなかったのも、初めてのことだ。
 波乱の一方で、新たな時代の息吹も感じられた今年の東西東京大会を振り返る。
 まずは東東京から見ていこう。

【東東京大会総括】役者の揃っていた関東一が3年ぶりの甲子園へ!都立校や好投手の出現も際立った | 高校野球ドットコム組み合わせ日程はこちら

第101回 全国高等学校野球選手権 東東京大会

米澤監督の我慢が実を結んだチームの成長

【東東京大会総括】役者の揃っていた関東一が3年ぶりの甲子園へ!都立校や好投手の出現も際立った | 高校野球ドットコム
関東一・谷幸之助(春準々決勝・國學院久我山戦から)

 戦国大会と言われたが、終わってみれば関東一が強かった。谷幸之助土屋大和の投手陣に、打線も俊足の大久保翔太、長打力のある平泉遼馬ら役者が揃っていた。

 しかし甲子園に行けなかったこの2年間、米澤貴光監督は苦しんでいた。昨年の秋季都大会で国士舘に完敗した後は、「鍛えてダメなら、やり方を考え直さなければならないかもしれない」とまで語っていた。
 中でも悩みの種は、主戦投手の1人である谷だった。球速は誰もが認める。しかし、良い時と悪い時がはっきりしており、突然崩れることも多かった。良さを消さないよう配慮しつつ、粘り強く指導した結果、決勝戦では被安打2の完封をし、優勝に貢献した。

目立った都立の好投手の活躍

【東東京大会総括】役者の揃っていた関東一が3年ぶりの甲子園へ!都立校や好投手の出現も際立った | 高校野球ドットコム
都立小山台・安居院勇源(春準々決勝・早稲田実業戦から)

 2年連続決勝戦で敗れたとはいえ、都立小山台の健闘も見事だった。昨夏の準優勝に続き、春季都大会はベスト4、そして今回は準優勝。これだけ安定した成績を残しているのは、都立小山台のほかには関東一くらいだ。都立校の2年連続決勝進出も初めてのことだ。

 春季大会後、都立小山台の福嶋正信監督は、エースの安居院勇源のほかにも、もう1人、2人の投手を育てることを課題にしていたが、結局安居院が1人で投げ切った。
 安居院とって大きな武器になったのは、2014年のセンバツ出場時のエースだった伊藤優輔(三菱日立パワーシステムズ)に教わったスプリットだった。進学校ゆえに、時間をうまく使う選手たちの努力と、甲子園を経験した偉大な先輩の存在が、都立小山台を強豪校にしている。

 今大会では、都立校の好投手が多かった。都立小山台と準々決勝で戦った都立高島高橋涼は、サイドから抜群の制球力を誇り、強豪・岩倉を破った。
 都立高島が4回戦で対戦した都立板橋のエース・黒岩真人は、左腕からの低めの制球が素晴らしかった。初戦で都立の強豪・都立城東を破り、柴崎正太監督や選手たちが泣いている姿が印象的であった。

 3回戦では打ち込まれたものの、2回戦で明大中野を完封した、都立大島荒田奏斗の投球も見事であった。本塁打1発で沈んだものの、帝京を苦しめた都立江戸川船津僚太も強い印象を残した。

[page_break:突如出現した151キロ右腕・赤坂諒]

突如出現した151キロ右腕・赤坂諒

【東東京大会総括】役者の揃っていた関東一が3年ぶりの甲子園へ!都立校や好投手の出現も際立った | 高校野球ドットコム
上野学園・赤坂諒(秋のブロック予選・二松学舎大附戦)

 私立勢で健闘したのは何と言っても準決勝に進出した上野学園日大豊山だ。両校とも秋、春とも1次予選で敗れ、都大会の実績がない中での好成績だ。

 中でも一躍スポットライトを浴びたのが、上野学園赤坂諒だ。最速151キロを記録したことが報じられたが、本当にそこまでスピードが出ていたか、半信半疑であった。しかし、雨天中止が続いたことによる変則日程により3連投し、中1日で迎えた準々決勝でも149キロを記録。そのスピードは本物だ。
 昨夏は負傷のため出場しておらず、秋の1次予選は筆者も見たが、故障上がりで、それほど印象に残る投球はしていなかった。春も1次予選で敗退した。それでもこの夏の快投は、一躍ニューヒーローに押し上げた。

 東京のようにチーム数が多いと、埋もれた人材も少なからずいる。雨天中止が続き、結局3日間連続の試合になり、その全てに登板させたことに批判もあるかもしれない。しかしこのケースに関しては、その3連投があったからこそ、埋もれかけていた逸材が世に出たとも言える。

 また上野学園の小川貴智監督、日大豊山の福島直也監督という若い指導者が、野球を楽しむという姿勢を貫き、選手たちがノビノビとプレーしていたのが印象的であった。
 それに日大豊山の場合、横手投げの瀬崎絢投手の力投も、印象的であった。

 この夏は、日大三の優勝メンバーで元ヤクルトの内田和也監督率いる立正大立正が、初めて準々決勝に進出。昨夏元日本ハムの投手だった田中幸雄が監督に就任した郁文館もベスト16に残った。今後の活躍が注目される。

打てなかった二松学舎大付と帝京

【東東京大会総括】役者の揃っていた関東一が3年ぶりの甲子園へ!都立校や好投手の出現も際立った | 高校野球ドットコム
二松学舎大附・右田稜真(春の4回戦・東海大菅生戦)

 健闘した学校がある一方で、3連覇を目指した二松学舎大付と帝京の不振は残念だった。

 二松学舎大付は、初戦でいきなり強豪の修徳にぶつかったとはいえ、2-1と、ロースコアの1点差負け。ホームが遠かった。
 昨夏のメンバーが多く残り、戦力は充実していた。ただ市原勝人監督が春に「一桁の背番号をもらっただけで、甲子園に行った気でいる子がいる」と語っていた不安が的中したのかもしれない。勝ち続けることの難しさだ。

 帝京は4試合で失点はわずか1だが、得点も6しかない。準々決勝の日大豊山戦は、今大会唯一の失点が決勝点になった。1、2年生が多いチームだけに、秋以降は強い帝京が戻ってくることを期待したい。

 秋季都大会4強の東亜学園も初戦敗退。そのほか秋は、岩倉、日体大荏原、都立城東が東東京勢として8強に残ったが、春、夏とも8強に進めなかった。

文=大島 裕史

【東東京大会総括】役者の揃っていた関東一が3年ぶりの甲子園へ!都立校や好投手の出現も際立った | 高校野球ドットコム関連記事
「もう一度甲子園に」偉大な先輩の背中を見て学んできた韮澤雄也(花咲徳栄)
4番エースに相応しい選手になるために 村田賢一(春日部共栄)【前編】
【逸材レポート】島村大樹(大宮東)「埼玉を代表する伝統校・大宮東に現れた二刀流」
【逸材レポート】米山魁乙(昌平)「まだ底が見えない埼玉ナンバーワンサウスポー」
確かな取り組みで上積みを見せた埼玉県ナンバーワン右腕・飯島一徹(東農大三)【前編】
奪三振率の高さを生み出す「強い信念」と「明確な自己分析」 豆田泰志(浦和実)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.04.22

【埼玉】花咲徳栄は伊奈学園と、昌平は正智深谷と初戦で対戦<春季県大会組み合わせ>

2024.04.22

【和歌山】智辯和歌山、田辺、和歌山東がベスト8入り<春季大会>

2024.04.23

【春季埼玉県大会】地区大会屈指の好カードは川口市立が浦和実を8回逆転で下し県大会へ!

2024.04.22

【春季愛知県大会】日本福祉大附が4点差をはね返して中部大一に逆転勝ち、ベスト8に進出

2024.04.22

【九州】神村学園、明豊のセンバツ組が勝利、佐賀北は春日に競り勝つ<春季地区大会>

2024.04.17

仙台育英に”強気の”完投勝利したサウスポーに強力ライバル現る! 「心の緩みがあった」秋の悔しさでチーム内競争激化!【野球部訪問・東陵編②】

2024.04.21

【神奈川春季大会】慶応義塾が快勝でベスト8入り! 敗れた川崎総合科学も創部初シード権獲得で実りのある春に

2024.04.22

【埼玉】花咲徳栄は伊奈学園と、昌平は正智深谷と初戦で対戦<春季県大会組み合わせ>

2024.04.22

【和歌山】智辯和歌山、田辺、和歌山東がベスト8入り<春季大会>

2024.04.23

【春季埼玉県大会】地区大会屈指の好カードは川口市立が浦和実を8回逆転で下し県大会へ!

2024.04.09

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.05

早稲田大にU-18日本代表3名が加入! 仙台育英、日大三、山梨学院、早大学院の主力や元プロの子息も!

2024.04.14

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.02

【東京】日大三、堀越がコールド発進、駒大高はサヨナラ勝ち<春季都大会>

2024.04.12

東大野球部の新入生に甲子園ベスト4左腕! 早実出身内野手は司法試験予備試験合格の秀才!