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これからは複数投手制がトレンド。東海大相模、東海大菅生など関東大会出場校の投手運用を振り返る【関東大会総括】

2019.05.24

 令和初の関東王者となったのは東海大相模だった。6日間で5試合というハードスケジュールの中、激戦を制した東海大相模の戦い方、投手運用は参考になるものがあった。春の関東大会は夏へ向けて戦力を試し、どれだけ積み上げできるかが大事になるが、東海大相模を見事に実践していた。

 今回は投手運用という観点から関東大会を総括していきたい。

東海大相模は積極的な継投策で頂点に立つ

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1年生ながら準々決勝、決勝に先発した石田隼都(東海大菅生)

今大会の東海大相模でピックアップしたいのは投手運用だ。5戦の先発投手は以下の通り。

1回戦 木更津総合 先発:遠藤成
2回戦 前橋育英 先発:冨重英二郎
準々決勝 浦和実 先発:石田隼都
準決勝 山村学園 先発:冨重英二郎
決勝 東海大菅生 先発:石田隼都

 先発投手は毎試合変わっていた。リリーフでは、左腕の野口裕斗、右サイドの紫藤大輝が待機。大崩れすることなく、試合を作ることができていた。昨秋まで多くの投手がスピード不足で、不安要素があった。だが、紫藤、野口、富重の3人は平均球速が130キロ中盤を出せるようになるまでレベルアップし、余裕を持った投球ができるようになった。

 絶対的なエースはいない。だからこそそれぞれの投手が自分の武器を磨き、高校生投手としては高いレベルを誇る投手陣となった。

 ただ能力が高くても、指導者の考えによっては1人で投げ通すチームは少なからずある。だからこそ場面に応じてリリーフを起用した投手運用も見事と言える。投手をレベルアップさせるには指導者陣の管理能力も大事になるが、今大会は東海大相模の投手管理能力の高さを実証した大会だった。

 また、投手陣をカバーした打線も素晴らしかった。5試合で総得点30、チーム打率.329と打撃面でも高いファクターを示し、1番・鵜沼魁斗、今大会ショートのレギュラーとなった茂谷光の2人が打率5割を記録。また、要所では堅い守備が光り、投手を盛り立てた。

 まさに投打がかみ合い、令和初の関東王者となった東海大相模。ベンチで控えている選手のレベルも高く、チームとして隙が見当たらない。夏へ向けて激しい競争が行われると思うが、また夏には最強の20人が出てくることを期待したい。

東海大菅生も全6投手が登板 有意義な「春」に

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準決勝では完封勝利を挙げた中村晃太郎(東海大菅生)

 準優勝の東海大菅生も夏へ向けての選手起用が光った。春の都大会までの中心投手は左腕・中村晃太朗新倉寛之、147キロ右腕・藤井翔の3人。関東大会では左腕・杉浦敦基、左腕、広瀬楽人、右腕・新村凪の3人が新たにベンチ入りし、のべ6投手がベンチ入りしていた。

 ベンチ入りメンバーを確認した時、どのタイミングでこの3人を起用するのか、注目していた。なんと決勝戦の東海大相模戦で、中村晃以外の5人が登板したのだ。5人とも直球は130キロ超えで、藤井にいたっては143キロを連発。中村晃以外の投手陣も能力が高いことを証明した。もちろんエース・中村晃と比べると安定感、投球術など課題はある。

 若林監督は野球部訪問の際、「夏は晃太朗1人では勝てないですから。だからこの春はできるだけ勝ち進んで、多くの投手を経験させたいんです」と語っていたが、都大会・関東大会を通して、投手陣の経験値を積ませることができたのは、有意義な春だったといえるだろう。

 ただ自慢の打線は鳴りを潜め、チーム打率.276に終わった。東海大菅生は常に西東京の好投手と対戦することを想定して試合に臨んでいる。決勝戦の東海大相模戦は能力が高い東海大相模投手陣とはいえ、3得点に終わったのは大きな反省材料だろう。

 関東大会の経験を生かして、夏ではどんなチームとなっているのか、注目したい。

[page_break:山村学園、専大松戸など複数投手制を活用し、経験を積ませた学校たち]

山村学園、専大松戸など複数投手制を活用し、経験を積ませた学校たち

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山村学園のエース・和田朋也

 関東大会ベスト4の山村学園。エース・和田朋也東海大相模相手に9回まで1失点に抑える好投。延長10回に3点を勝ち越されたが、自信を深める投球内容だった。

 和田は春の県大会前半まで不調に陥っていた。だが、県大会準々決勝の昌平戦で完封して復活を示すと、関東大会では27.2回を投げて6失点と抜群の安定感を示した。今大会の和田は昨秋と比べると無駄な力みがなく、制球力重視の投球が光った。不調の間に自分の持ち味を見直し、何ができるかを再確認できたことが大きかったのではないだろうか。

 また、左腕・河部直樹、1年生の小泉裕貴も登板。今大会の登板はなかったが、県大会でリリーフを中心に活躍した右腕の伊織丈一郎も控えており、多くの経験値を積ませられた大会だった。

 打線は2回戦で習志野、準々決勝で国士舘とセンバツ出場校から二けた得点を記録した攻撃力を夏でも発揮できるか注目したい。

 ベスト4入りした専大松戸もエース・横山陸人以外の起用が光った。準決勝では140キロ右腕・杉田智也が先発して、8回3失点の好投を見せた。西村卓真小野樹一朗の両左腕は失点してしまい、2人にとっては悔しい関東大会のマウンドとなったが、貴重な経験となっただろう。

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桐光学園を支えた谷村然

 ベスト4以外では、左腕・安達壮汰、左腕・冨田冬馬、右腕・谷村然の主力投手3人をバランスよく起用した桐光学園も見逃せない。準々決勝の専大松戸戦では左腕・天野陸を起用するなど、幅広く起用する意図が見えた。

 センバツ準優勝で、今大会は推薦出場の習志野は割り切りが見えた。コールド負けした山村学園戦ではエース・飯塚脩人の登板はなかった。おそらく甲子園や夏の試合では、序盤から飯塚がロングリリーフする態勢に入ったと思うが、それでも登板させなかったのは飯塚以外の投手陣に、「自分たちの能力は、いざ関東レベルの強豪校と対戦すると、まだまだ通用しないんだよ」と理解させるための意図があったのではないだろうか。投手陣がそれを理解しレベルアップを遂げれば、さらに手が付けられないチームとなりそうだ。

 センバツ出場校の山梨学院は左腕投手4人が登板。エース左腕・相澤利俊、大型左腕・木村渓人以外では松原翔佐田亮太らの登板があった。佐田は身延シニア時代から注目されてきた速球派左腕。まだ130キロ中盤だが、これを機に成長を見せていきたい。他では130キロ中盤の右サイドで安定感十分の佐藤裕士、復調が期待される140キロ左腕・駒井祐亮など能力が高い投手が多いので、競いながら、レベルの高い投手陣を形成してもらいたい。

文=河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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