キューバ遠征から見えた国際大会での戦い方
12月15日から始まった東京都高野連によるキューバ遠征。高校野球ドットコム編集部も遠征に同行した。キューバの野球、文化、キューバ人の人となりを知ることができて、とても参考になる遠征だった。さて、前編の総括でもお伝えしたように、この遠征は東京代表の選手たちの成長ぶりを追うだけではなく、プレ世界大会を位置づけ、9月の世界大会でどう戦うべきなのか?を考えていた。
「チームが1つになった」と実感!キューバに1勝した東京代表の軌跡
投球 チェンジアップやフォークなど縦系の変化球を武器にする制球力が高い左腕は通用しやすい
大会を通して好投した細野晴希(東亜学園)
とにかくキューバ打線は強力だった。中村晃太朗は「日本の打者にはないパワーがあり、ヒットで済むような当たりが長打、本塁打になったりした」。そういう打線に脅威を発揮したのは落ちる球だ。その中でも大きく通用する投球を見せたのが中村と3試合で13イニングを投げて自責点1の好投を見せた細野晴希(東亜学園)だ。
中村はチェンジアップで、細野にはフォークがあった。何より2人は制球力が優れ、コーナーを出し入れすることができる。さらにメンタリティも優れ、中村は絶対にマウンドを明け渡さないエースらしいプライドが見え、それが好投につながった。細野はどんな場面に出てきても飄々と抑える粘り強さがある。キューバ打線相手に好投ができた2人は日本代表候補としてマークされることになりそう。さらに実力をワンランク引き伸ばしてほしい。
平均球速140キロ~145キロ越えの右投手は有利
投手はスピードではなく制球力だという声はあるが、国際大会ではやはりスピードも重要。特に右投手の場合、制球力は高くても、130キロ後半で、スライダー主体のピッチャーはパワーで持っていかれる姿を、キューバ遠征だけではなくこれまでの世界大会で目にしてきた。
ただ平均球速が140キロ越えの投手はストレート主体で押すことができる。このレベルは145キロを1イニングで2、3球は投げられる投手は140キロ以下を下回ることはほとんどない。今回、それに該当したのは井上広輝(日大三)である。今回のキューバのU-18代表で井上のストレートをまともに前に飛ばした打者はいなかった。
2019年度の高校3年生投手は平均球速が140キロ越え、さらに決め球に空振りが奪える変化球を持ち合わせ、制球力が優れた右投手が多い。そういう意味で井上は良い見本になってくれたと思う。
[page_break:守備 天然芝やデコボコのグラウンドに対応ができるか]守備 天然芝やデコボコのグラウンドに対応ができるか
遊撃手の成瀬脩人(東海大菅生)
キューバ遠征では3会場で試合を行ったが、いずれも天然芝だった。さらに芝が深く、グラウンドもデコボコ。したがって日本と比べて規則性のあるゴロはほとんどない。
遊撃手の成瀬脩人(東海大菅生)は「打球が転がらないし、バウンドも不安定なので、前に行かないと捕りに行けない」と話をしていたが、予測して捕りに行ける打球はなく、イレギュラーバウンドすることも多い。内野手のミスが多かった。ミスをする内野手の動きを見ると、取りに行く直前で両肩が浮いてしまい、目線がボールに対して、一定になっていない。エラーしてもおかしくない捕球体制になっている。
どう転がるのか、どうバウンドするのか、まったく読めない。名手と呼ばれる内野手もそういうグラウンドでプレーするうえでは、一からどう対応するのかを頭に入れるべき事案だと感じた。
ちなみにキューバより優れていると感じたのは外野守備。一歩目の反応、守備範囲の広さ、送球レベルの高さなどスピード感ある外野守備は世界に誇れるものだと実感した。
打撃 自分が打つべきポイント、タイミングをどうつかむべきか
東京代表の打撃は最終的にキューバの140キロ後半の投手を攻略するぐらいのレベルまでになった。セレクションに備え、10月の途中からやっていた選手もいれば、代表入りが決まり、11月から約1か月半、木製バットを使って準備をしてきた選手。打撃練習ではスタンドインできる選手が多くなり、その仕上がり度は過去の日本代表の選手たちと比べてもそん色ないレベルだったといえる。それぐらい今年の東京代表の打撃レベル、成長度は素晴らしいものがあった。
それぞれどのように対応していったのかを聞くと、小山 翔暉(東海大菅生)の場合、動作を小さくして、ポイントを前でとらえることを意識した。小松涼馬(帝京)はトップの動作で日本人打者にありがちなヘッドを投手方向に向ける動作をやめて、ヘッドを垂直に落として最短距離で振り抜くことを意識。足のあげ方を変えるなど工夫を凝らした。木製バットで練習を重ね、急激に打撃力を伸ばした佐藤英雄(日大三)は、キューバ選手の打撃動作を見て、コンパクトに強く振る動作に着目し、その結果、打撃練習では木製バットで本塁打にしていた。
投手よりなのか、捕手よりのポイントで捉えるかは人それぞれ。今回の東京代表は1か月半をかけて、日本国内・キューバ遠征合わせて10試合以上の実戦を重ねて、持ち味を発揮できるようになった。より実戦を重ねていくことが大切といえるだろう。
[page_break:異国の地で起こるすべての出来事を受け入れることができるか]異国の地で起こるすべての出来事を受け入れることができるかか
馬車でグラウンド整備も当たり前
キューバではいろいろな野球、文化があり、選手はそれを受け入れることに苦労したと思う。その中でも驚かされたのはキューバの応援スタイルだろう。キューバ人はブブゼラみたいな笛で、敵の守備時に吹く。これはキューバの国内リーグでは当たり前の光景で試合中はずっと吹いていて、うるさいものだった。
この親善試合でもそれを吹く中年オヤジがいたが、そのオヤジが持っているものは、球場で見た笛とは違うもので、自転車の空気入れのような形に改造されており、正規のものよりも数倍うるさく、トラックのクラクションみたいな音が鳴り響く。オヤジは「へへ」とにやつきながら、日本が失点するたびに音を鳴らすのだ。
東京代表の指導者からは、あの応援は迷惑だという声が多かった。日本では近隣住民の苦情につながる騒音による応援は禁止されており、日本の尺度で見ればあの応援は間違いなく規制が入るレベルだろう。
ただ、キューバでは当たり前のもので、それに動じないメンタリティが必要となる。今回の韓国で開催される世界大会はそういうこともあると頭に入れなければならない。まずは韓国の文化、応援文化を知りながら、対応することが必要だろう。
今回の東京遠征は日本高野連の泉正二郎氏がチーム付き相談役として同行していた。泉氏を通して、日本高野連も世界大会へ向けて準備を重ねていくのではないだろうか。今回のキューバ遠征が日本の高校野球をレベルアップさせる機会になることを期待したい。
(文=河嶋 宗一)