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「チームが1つになった」と実感!キューバに1勝した東京代表の軌跡

2019.01.04

 東京代表は12月15日から12月27日までキューバ遠征を行った。現地時間の17日から21日まで5連戦を行い、1勝3敗1分という成績。前田三夫代表監督を「チームが1つになった」と感動させた東京代表はどんな歩みを見せたのか、振り返っていきたい。

守備面ではキューバの実力を正しく把握することに努めた

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マウンドに集まる東京代表の選手たち

 現地時間12月21日、キューバに勝利した東京代表は選手、首脳陣、高野連スタッフの表情が喜びに満ちていた。それだけ勝つまで苦しかったことを現わしている。まず第1戦は3対7で敗戦。先発した中村晃太朗東海大菅生)はキューバ打線のレベルの高さを実感していた。
「キューバの打者がパワーもすごいですが、何より外角が本当に強いです」

 4回裏、8番打者にアウトローのストレートを左中間に打ち返されたが、中村は「甘いボール、コースではなく、日本では打たれていないコース」という。それを長打にされたのは中村にとって衝撃だった。中村と、リードしていた小山 翔暉東海大菅生)は「上手かったね」と苦笑いするしかなかった。
 ただ選手たちは少しずつキューバの実力、実像をしっかりと掴もうとしていた。キューバの選手は体も大きくて、パワーが凄い、球速も速い。だからキューバにはかなわないという先入観が選手たちにはあった。ただ実際に戦ってみて、3対7で敗れたとはいえ、「意外と戦える」と手応えを感じていたようだ。リードする小山はこういう。

 「中村をリードしていて、チェンジアップは弱い。そして内角のストレートはストライクコースに入ってしまえば、かなり強いですが、ボールゾーン、高めのコースは弱いということが分かってきました」

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抑えとして活躍した井上広輝

 また150キロ右腕・ 井上 広輝(日大三)は「変にかわすのではなく、押していけば抑えられるのではないかと感じました」と自慢の直球で勝負することを決意。捕手の佐藤 英雄日大三)は「速球も、変化球も一辺倒にならず、高低、コーナー、緩急をすべて駆使して抑えようと考えました」と試合を重ねるごとに攻略法を編み出していった。

 結果、中村と小山は第4戦、9回一死までキューバまでリードする試合展開に。中村は逆転を許したが、決して逃げることなく、無四球、9奪三振のピッチング。井上は直球中心の配球で計2試合を投げて5回11奪三振の快投。勝利を飾った最終戦でラストバッターに対してはフルカウントから高めの143キロのストレートで空振り三振に打ち取った投球を見せ、キューバ打線の力量を把握したうえで抑えることができた。井上は東京にいたときよりも状態は良く、第3戦の平均球速143.19キロ、第5戦の平均球速は140.91キロと、力でキューバ打線を圧倒していた。
 この遠征で最も長いイニングを投げた 細野 晴希東亜学園)は、チェンジアップを駆使して、13回を投げて、自責点1、牽制で2回も走者を刺し、最も株を上げた投手といっていいだろう。

[page_break:打撃面では「次につなぎたい」という結果が猛打を生んだ]

打撃面では「次につなぎたい」という結果が猛打を生んだ

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生沼弥真人主将(早稲田実業)

 一方、打線は第3戦までの得点が3、4、2と打線は低調。しかし第4戦以降から8得点、7得点と大きく上がった。その要因は何だろうか。生沼弥真人主将(早稲田実業)は「プライドは捨てました」と言い切る。

 生沼は第4戦で左中間を破る適時三塁打、第5戦で追い上げとなる適時二塁打、左前安打と最終2試合で3安打を放った。その生沼の打撃を見るとバットを短く持っていた。
「日本にいたときは長打を打ちたいために、バットを長く持っていました。でもキューバの投手は速く、ボールも動きます。そしてなんとしても勝ちたかったので、長打を打ちたいプライドを捨てて、勝つためにはバットを短く持って、次につなげようと。そういう気持ちがヒットにつながったと思います」

 1つだけ伝えておくと、バットを短く持って打つことは首脳陣側が強制したことではない。小倉全由総合コーチ(日大三監督)は打撃練習の際に「フルスイングで良いんだぞ!当てるようなスイングはするなよと」と強いスイングを求めていた。それでも生沼は自発的に短く持った。どの試合でも巧打を見せていた小松 涼馬帝京)はバットを短く持ったり、足の上げを小さくしたり、対応することを心掛けた。動きを小さくする中でも、選手たちはスイングを小ぢんまりさせることはなく、動きの無駄をなくす中でも、強いスイングを心掛けた。その結果が後半戦の猛打につながったといえる。

 そして、東京代表の選手たちがキューバにきて、変わったのは何としても勝ちたい気持ちだ。最終戦になると、選手の顔つきも変わり、必死に応援したりする姿が見えてきた。その姿に前田監督はキューバの最後まで諦めない姿勢に影響されたと語る。
 「やっぱりね。彼らが終盤に強くなったのはキューバの影響が大きいと思いますよ。本当にキューバの選手はあきらめない。なんといってもナショナルチーム。いろいろ聞きましたが、ナショナルチームになると待遇が恵まれているそうです。だけどチームが終わったらその待遇は一切なし。ずっと代表チームに居続けるには、やはり結果が問われるそうです。だから最後に諦めない姿勢が凄い出ていました。
 東京代表の選手たちはそれを感じとってくれていましたよね」

 粘り強さが出た瞬間というのは第4戦の9回裏だろう。6対8と勝ち越され、また負けゲームだと思った瞬間、同点に追いついた。打たれた中村を負け投手にさせたくない。その思いが出た試合だった。主将の生沼は試合後の夜、宿舎の部屋で選手を集めてミーティング。試合では誰よりも声を出し、声が枯れるほどだった。主将の献身的な姿に選手が応えたともいえる。

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抱き合う井上広輝(日大三)と中村晃太朗(東海大菅生)

 前田監督は「本当に感動しました。チームが1つになったと思います」とチームの成長に目を細めた。こうしてみると勝てるチームになるには一筋縄ではいかない。生沼自身、「最初は手探りで、キューバの先入観に影響されていたところがありました。キューバと戦って、雰囲気、選手たちの力量をわかった上で戦うと、結果も良くなってきたと思います」と語るように、いかにして、国際大会ではその環境を知り、受け入れて、戦うかが大事だといえる。

 勝つまで苦しみ、勝利をつかんだ過程というのは選手たちにとって大きな糧になることは間違いない。国際大会は簡単に勝てない、自分の土俵で戦えないということを実感したことだろう。

 前田監督は「代表20人の今後の成長の糧になるだろうし、彼らはまたキューバで感じたことをチームに伝えてくれるでしょう。東京都の高校野球は大きくレベルアップすると思いますし、大成功のキューバ遠征だったと思います」と締めた。前田監督の意見に武井克時理事長も深く同意していた。

 筆者は東京代表の選手たちの成長を追うとともに9月に開催される世界大会へ向けて、この遠征をプレ世界大会と勝手に位置付け、来る世界大会へ向けてどういう選手が通用するのか、どういう対策をするべきなのかを考えながら見ていた。筆者なりにそれが見えてきたので、それは次の章で紹介していきたい。

(文=河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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