「対県内」を「対四国・全国」へ押し上げろ 秋季愛媛県大会総括
第4シードから初優勝を遂げた帝京第五。第2シードから初のファイナリストとなり準優勝の聖カタリナ学園。3位に生き残った松山聖陵。そして第1シードの支持を集めながらまさかの4位に終わった今治西の順で決した「平成30年度秋季四国地区高等学校野球愛媛県大会」。県大会16試合中6試合がコールドだった一方、2点差以内が5試合。うち3試合がサヨナラゲームとなるなど、白熱した試合が繰り広げられた。
では、そこに至った理由は何か?今回は奇遇にも四国大会進出3校の練習を準決勝前に見る機会に恵まれた筆者が「対戦相手」の視点から愛媛県高校野球の2018年秋を総括していきたい。
「対戦相手への意識付け」が生んだ好成績
帝京第五ナインと・小林 昭則監督
「そのコースには絶対に手を出すなよ!」準決勝を目前に控えたある日・[stadium]伊予市立しおさい球場[/stadium]に大きな声が響く。声の主は帝京第五・小林 昭則監督である。
今大会・準々決勝までの主役は今治西。もっと明確に言えば今治西の左腕・村上 滉典(2年)だったことは誰もが認めるところだろう。1回戦の松山東戦で12奪三振2失点完投すると、芦谷 泰雅(2年主将・捕手)ら夏の甲子園ベスト4経験者が3名スタメンを張る済美からも11三振を奪い7回コールド勝ち。俊足好打の打撃も加わり、本命にふさわしい戦いを演じていた。
が、帝京第五打線は村上の宝刀スライダーに対する低めへの見極めを徹底し「浮いた球を叩く」(1番の豊留 輝将・2年・三塁手)に策を統一。結果、準決勝では7回途中まで7安打3四死球・3得点を奪って試合の主導権を握り、最終回のサヨナラ勝ちへつなげた。
この試合が大会自体の構図を大きく塗り替えたといっても過言ではない。帝京第五は決勝戦も2試合連続となるサヨナラ勝ちで大会初優勝。3位決定戦の松山聖陵も同様の作戦で今治西・村上を序盤で攻略。四国大会準優勝・2年連続センバツを大きく引き寄せる大きなターニングポイントとなった。
そして、その松山聖陵に対した準決勝で初回8得点を奪い、決勝戦でも初優勝目前にまで迫った聖カタリナ学園の試合運びも見事。アプローチの方法に多少の差はあるものの、練習の中に「対戦相手への意識付け」を組み込んだ帝京第五・小林監督、聖カタリナ学園・越智 良平監督、松山聖陵・荷川取 秀明監督のタクトは、県内他校に対し春以降の示唆を与えるものであったともいえよう。
課題は「意識レベルの引き上げ」と「試合機会提供」
今大会の主役級の活躍を見せた村上 滉典(今治西)
ただ、その3校も四国大会では明暗が分かれる形に。甲子園での経験をベースに意識レベルをスムーズに上げた松山聖陵が決勝戦進出を遂げた一方で、残る2校は初戦敗退。愛媛県での成功体験への「過信」が、一因にあったことは否定できない。今後は捲土重来を期す済美、今治西、県大会準々決勝で松山聖陵に食い下がった今治北、1回戦で聖カタリナ学園を苦しめ21世紀枠県代表選出校となった新居浜西などを含め、意識レベルをいかに四国・甲子園に引き上げられるかが焦点となる。
幸い、愛媛県勢にはその過程を貫き、昨年2勝・今年はベスト4に駆け上った済美というお手本もある。松山聖陵が聖地で得るアドバンテージをどこが凌駕していくか。まずは冬の成長に期待したい。
そしてもう1つ。秋を終えて見えた課題は「試合機会の提供」だ。地区予選を含んだ大会を通じ散見されたのは単純な守備のミスや判断ミス。これは試合機会の不足があることは間違いない。
加えて今年、愛媛県高等学校野球連盟は秋季大会後の恒例行事だった「地区別1年生大会」を開催せず。特に南予地区で顕著となっている部員不足などを鑑み苦渋の決断を下したことは容易に想像が付くが、選手は試合、特に公式戦を通じ育つことも自明の理だ。
1年生大会に限っての連合チームを認める。または高知県のように「2年生大会ベンチ外選手」にまで枠を広げて新たな大会を新設するなど柔軟な発想を施し、選手ファーストを貫く。西日本豪雨災害の傷もいまだ癒えない今、愛媛県の高校野球が求められているのは「各校ごと」ではなく「愛媛県代表として」どうやって元気を与えられるかである。
(文=寺下 友徳)