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「学びの力」が成績として反映された秋季四国大会【大会総括】

2018.11.30

 10月28日(土)・29日(日)、11月3日(土・祝)、4日(日)の4日間で予定通り行われた「平成30年度(第71回)秋季四国地区高等学校野球大会」。3年ぶり9回目の優勝を遂げ、3年ぶり3回目の出場となった「明治維新百五十周年記念 第四十九回明治神宮野球大会」でもベスト4入りを果たした高松商(香川1位)ばかりでなく、松山聖陵(愛媛3位)が初の決勝進出。富岡西(徳島3位)も初のベスト4に入るなど話題の多い大会となった。

 そこで今回は、大会を明治神宮大会高松商含め総括すると共に、後日総括を行う四国4県の秋季大会ともリンクさせながら春以降につながる提言も行っていく。

見事だった高松商の「成長力」と松山聖陵の「結束力」

「学びの力」が成績として反映された秋季四国大会【大会総括】 | 高校野球ドットコム
優勝した高松商

 「初戦八戸学院光星)前日に『強いゴロを打とう』という指示をして、それが練習でうまくできていたんですよ。そして実際の試合でもキャプテン(飛倉 爽汰・2年・中堅手)が1番でいきなり強いゴロを打ってくれた。結果は二塁ゴロだったんですが、それがいい試合につながったんだと思います」

 準決勝星稜との激闘から2日後、高松商グラウンドでの日常に戻った長尾 健司監督が明治神宮大会を振り返る。このように全国の舞台でも的確に準備し、試合開始から表現した彼らにとって、秋季四国大会は県大会制覇で得た自信を熟成する場となった。

 初戦の準々決勝で逆転勝ちし明治神宮大会連覇を狙った明徳義塾(高知3位)の野望を阻むと、準決勝ではスタートダッシュで夏の甲子園2勝の余勢を買い、夏春連続甲子園・24年ぶり15度目のセンバツへ突き進んでいた高知商(高知1位)の勢いをシャットアウト。決勝戦でも試合をコントロールし松山聖陵(愛媛3位)に主導権を一度も渡さなかった。多彩な試合展開に順応しながら頂点を獲得した成長過程は、見事の一語である。

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松山聖陵注目の1年生・大村侑希

 「見事」は初の大会決勝進出を遂げた松山聖陵にもあてはまる。秋季愛媛県大会準決勝で聖カタリナ学園(愛媛2位)に7回コールド負けを喫しながら3位決定戦から4連勝を果たした反発力もさることながら、打線だけをあげても20打数12安打10打点の県大会から一転四国大会では18打数2安打に終わった田窪 琉風(2年・遊撃手)を、準決勝富岡西戦の決勝アーチを含め四国大会19打数7安打5打点と躍動した1番・大村 侑希(2年・一塁手)や、5番ないし6番で大会18打数7安打2打点の新城 健太朗(2年・左翼手)といった選手たちがカバーした結束力こそが、相手の探究を打ち破る原動力となった。

 松山聖陵でもう1つ特筆すべきは愛媛県大会5試合1盗塁から四国大会4試合9盗塁とスタイルを大きく転換させた荷川取 秀明監督の「決断力」であろう。うち4番・折田 玲(2年・中堅手)が4盗塁をマークするなど、どの打順からでも走れる形を冬の間に熟成し、結果的に1年生右腕・平安山 陽に頼る形になってしまった投手力を向上させれば、2年連続のセンバツ、3度目の甲子園で悲願の初勝利をマークする可能性が上がってくる。「考えながら取り組んでくれる選手たち」(荷川取監督)の奮起に期待したい。

[page_breakベスト4・富岡西の「明」、高知商の「暗」]

ベスト4・富岡西の「明」、高知商の「暗」

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富岡西ナイン

 各県1位校が準々決勝からのシード、2・3位校が1回戦からの登場となる秋季四国大会において、準決勝の勝敗・内容は時に運命の分かれ道となる。事実、90回記念大会により当初から四国地区に3枠が与えられ、さらに明徳義塾(当時高知1位)の明治神宮大会優勝によって1枠が増枠となった今年のセンバツではその内容が選考に影響している。

 涙を呑んだのは昨秋四国大会準決勝で同県の英明(当時香川1位)に県大会準決勝に続き6回コールド負けで連敗した高松商(当時香川3位)。同じく準決勝で明徳義塾に1対3で敗れた松山聖陵(当時愛媛1位)に3枠目を譲ったばかりか、準々決勝で英明に1点差で敗れた高知(当時高知2位)に明治神宮大会枠を明け渡したことで、改めて「試合内容」の重要性がクローズアップされることになった。

 その点で今大会ベスト4に進んだ富岡西(徳島3位)と高知商(高知1位)を比較すると、ここでも明暗がくっきり分かれている部分が多い。

 富岡西高知(高知2位)、帝京第五(愛媛1位)といった甲子園出場経験校に連勝し、準決勝松山聖陵戦でも3点差を追いつく健闘。旧チームからのエース・浮橋 幸太(2年)が防御率5.33と苦心する中、県大会からの7試合すべてで安打を放ち、通算24打数16安打10打点の主将・坂本 賢哉(2年・右翼手)をはじめ、試合の中で順応を続け、つながりを持った打線で浮橋をカバーできたことが大きい、

 対する高知商は、7番・上田 周弥(1年・遊撃手)が放った2ランを高知県大会優勝の原動力となった赤沢 将宗(1年)、真城 翔大(2年)の右腕継投で守り切った準々決勝・徳島商(徳島2位)戦から一転、準決勝・高松商戦では継投が成就せず。コールド負けは免れたものの、5回表の「7失点」はマイナスポイントだ。

 ともかくも一般枠での選出確率は中国地区ベスト4の市立呉(広島)、創志学園(岡山)を加えての「25%」。ここは2019年1月25日の判断を待ちたい。

[page_break四国に生じつつある「新しい地図」]

四国に生じつつある「新しい地図」

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4年ぶりに四国大会に出場した志度

 今大会は「四国4商」中、松山商(愛媛)を除く3商が出場。先に述べた高松商高知商に加え徳島商英明(香川3位)に競り勝ち「伝統の力」を示すことに。また、過去に白井一幸氏(元・北海道日本ハムファイターズコーチ)、熊野 輝光氏(現・阪神タイガーススカウト)など、渋みのある選手を輩出した志度商からの流れを継ぐ志度も4年ぶりに秋季四国大会へ歩を進めている。

 その一方で新たな動きも目に付いた。春の四国大会で初出場準優勝の聖カタリナ学園は秋も愛媛県大会を準優勝して初出場。四国大会では初戦で明徳義塾に2安打完封負けに終わったものの、2期生以降も実力者がそろっていることを証明した。また、秋季徳島県大会を選手15人で初優勝した川島も、2010年の21世紀甲子園出場につながった「創意工夫」が伝統になりつつある。

 そして「創意工夫」で言えばもう1つ。今大会では中学野球指導経験者が出場12校中4校を占めたことも特筆に値する。

 帝京第五・小林 昭則監督は帝京(東京)コーチの職を解かれた後、中学硬式野球でのコーチ経験があり、高松商・長尾 健司監督は丸亀市立飯山中、香川大教育学部附属坂出中で全国大会出場。高知商・上田 修身監督も藤川 球児(阪神タイガース)を高知市立城北中で指導するなど豊富な指導実績を誇る。

 そして高知・濱口 佳久監督は全日本少年軟式野球大会2度、全日本少年春季軟式野球大会で1度、高知中を全国制覇に導いている中学軟式野球界の名将。基本技術・戦術の徹底が勝敗・選手成長の大きな要素を占める中学野球のメソッドが高校風にアレンジできれば、野球の島・四国はまた「新しい地図」を得ることになるだろう。

 このように「学びの力」の大切さを改めて知ることになった今回の秋季四国大会。2019年には参加12校のみならず、四国すべての高校野球関係者の方々が全ての事象を他山の石とし、全国と、もっと言えば来年はWBSC U-18ワールドカップが控える世界と戦うための心技体を高め、整えてほしい。

(文=寺下 友徳

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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