Column

奥川、武岡、西原…平成最後の神宮大会で躍動した逸材たち

2018.11.16

奥川、武岡、西原…平成最後の神宮大会で躍動した逸材たち | 高校野球ドットコム
トーナメント表

平成最後の神宮大会となった第49回明治神宮大会は、札幌大谷の優勝で幕が閉じた。続いて逸材のパフォーマンスについて紹介する。

 今回は
・ドラフト候補の投手・野手
・ドラフト候補とまではいかなくても今後が楽しみな選手
・将来性豊かな1年生
の項目に分けて紹介する。

頭1つ抜けていた奥川 奥川に続くドラフト候補の投手たち

奥川、武岡、西原…平成最後の神宮大会で躍動した逸材たち | 高校野球ドットコム
奥川恭伸(星稜)

 まず今大会の注目投手である奥川恭伸星稜)は前評判通りの実力を発揮した。大会3試合に登板して、防御率0.00と圧巻のピッチングを見せた。奥川は投手好きの人からすれば理想には遠い投球フォームである。歩幅が狭く、しっかりと胸を張ったフォームでもない。ただ骨盤を一気に回旋させた勢いによって高速の腕の振りができる投手で、力みなくリリースできる。そのため常時145キロ前後の速球は内外角にきっちりコントロールされ、さらに、ストライクゾーンからボールゾーンに変化する縦スライダー、スライダー、カーブ、高速フォークボールの4球種で投球を組み立てる投球は高校生のレベルを超越している。

 また、この大会は初日2試合がともに初回5失点と慌ただしい立ち上がり。奥川は大会の流れを読んで、先頭打者から三振を狙いに行ったりするなど、状況判断にたけたところも大人。ポテンシャルの高さと実戦力を兼ね備えた高校生右腕はそうそういない。アジア大会の経験をしっかりと成長につなげており、2019年の日本のエースへ期待できる存在となってきた。

 優勝投手となった札幌大谷西原健太は、決勝戦の星稜戦で1失点完投勝利。大会前にフォーム修正を行い、開きが小さく、球持ちが優れた投球フォームとなった。この大会では最速140キロのストレートは重量感があり、回転数も高く、空振りが奪える。さらにスライダー、カーブ、チェンジアップの精度は高く、右打者、左打者問わず、苦手にすることなくピッチングが組み立てることができる。全道大会では不調に終わったが、見事に自信をつけていった。これほど実戦力が高い投手だとは思わなかった。

 このままいけば、北海大西健斗(慶應大)の3年夏の投球ができるまでに行く可能性は秘めている。高卒プロを狙うのであれば、あとアベレージ5キロ~7キロアップは期待したい。

 コールド負けした広島広陵は3人の投手がドラフト候補として期待できそうだ。それぞれ個性があるのが頼もしい。まず先発の石原勇輝はなんといっても角度あるストレートとカーブ。大きく胸を張って高い位置から振り下ろすストレートは回転数が高く空振りが奪えるストレート。ブレーキングが利いたカーブは2019年度の高校生左腕の中でも唯一優れた武器といえる。

奥川、武岡、西原…平成最後の神宮大会で躍動した逸材たち | 高校野球ドットコム
河野佳(広陵)

 河野佳は最速145キロを計測したが何といっても光るのが低めへ伸びるストレートだ。回転数が優れたストレート、130キロ前後のカットボール。どれも超高校級。174センチ76キロと上背がなく、大学進学向きとみられるが、同タイプの吉田輝星がプロへ進んだのを見ると、河野も成長次第では十分に可能な投手だといえる。最近は身長の境目がなく良い投手であれば獲るという流れになってきた。貪欲にレベルアップを追求してほしい投手だ。

 星稜戦の7回表に登板した左腕・森勝哉は最速142キロを計測。180センチ82キロから振り下ろすストレートは威力があった。1イニングだけだったが、能力は十分。3人の能力は十分に高いので、評価を高めるには[stadium]甲子園[/stadium]で3人がどれだけ投げられる状況を作れるか。すなわち打撃陣の奮起に期待したい。

西舘 昂汰筑陽学園)は186センチの長身から繰り出すストレートは角度がある。ただ常時130キロ中盤と威力不足を痛感した。大化けしたピッチングを期待したい。香川 卓摩高松商)も135キロ前後の速球、スライダー、カーブと適度にまとまりがあった左腕だった。来年のドラフト候補の投手として期待できるのは上記の7人。さらなる成長を期待したい。

 船尾監督は優勝直後のインタビューで「信じられない」と話すように、想像以上の結果だっただろう。これが自信となるのか、驕りが出てしまうのかはこれからの取り組み次第。確かに西原、太田を中心とした投手の駒は豊富で、打線も北本、センター・石鳥を中心とした打線も強力であることが分かった。

 札幌大谷はこれをピークをせず、この成功体験を機に、レベルアップができるか。選抜はもちろん、札幌地区にも強力なライバルが多い。それでも寄せ付けない強さを身に付けることを期待したい。

[page_break武岡、石川などドラフト候補野手は大爆発ならずもポテンシャルの高さを見せつける]

武岡、石川などドラフト候補野手は大爆発ならずもポテンシャルの高さを見せつける

奥川、武岡、西原…平成最後の神宮大会で躍動した逸材たち | 高校野球ドットコム
武岡龍世(八戸学院光星)

 一方、野手ではエースで4番の石川 昂弥(東邦)、遊撃手の熊田 任洋東邦)、武岡龍世八戸学院光星)、森敬斗桐蔭学園)の4人だ。まず高校通算37本塁打を誇る石川は八戸学院光星の先発・後藤丈海のスライダーを逃さずライトへ二塁打を含む2安打。もう1試合はみてみたかった逸材であった。シートノックで三塁からのボール回しを見ていたが、とんでもない強肩だったので、ぜひ和製・ノーラン・アレナド(現・ロッキーズ)を目指してほしい逸材だ。熊田も独特のタイミングの取り方から鋭い打球を打ち返すショートストップ。ハンドリングに課題を抱えるが、深い位置からダイレクトスローでさせる強肩、プレーの俊敏性は大会随一だった。

 そして武岡は、2試合通じて4安打。東邦戦ではバックスクリーンへ本塁打を放ったが、広角に打ち返せて、甘く入れば本塁打にできる小力のあるバッティング。遊撃守備を見ていてもバウンドに合わせるのがうまく、雨天の中でも瞬時にワンバウンド送球に切り替えたりする野球頭の良さがある。身体能力は十分に高いので、打撃面では力強さ、守備面では前方への打球に対して素早さが出れば、もっと高い評価を受ける逸材だといえる。

 森は無安打、さらに失策も重ね、持ち味を発揮できなかった。とはいえ、三遊間の深い位置からでもダイレクトスローできる強肩だったり、ほかの遊撃手では捕れない当たりを追いついてしまうスピードは絶品。ただこの選手、バウンドがうまく合わせられず、体が浮いた状態となってリリースに入るので、踏ん張って投げる以外のスローイングはすべて不安定。運動量は非常に高い選手なので、スピードと確実性が両立すれば、もっと高い評価を受けるショートだろう。

[page_break札幌大谷・太田、筑陽学園・福岡など春までの成長が楽しみな選手たち]

札幌大谷・太田、筑陽学園・福岡など春までの成長が楽しみな選手たち

奥川、武岡、西原…平成最後の神宮大会で躍動した逸材たち | 高校野球ドットコム
太田流星(札幌大谷)

 そのほかでは活躍を見せた投手・野手を紹介したい。優勝した札幌大谷はリリース位置が低いサイドスローの太田流星のピッチング術が巧み。3秒~4秒以内に投球動作に入る投球間隔の短さにより打者に考える時間を与えず、狙い球を絞らせない。多くの打者が「見たことがない軌道」というように、125キロ前後のストレートでも浮き上がるような軌道となり、同じ腕の振りからスライダー、シュートを駆使するピッチングは、超高校級。筑陽学園戦では8回まで無安打のピッチングを見せた。ここから常時130キロ前後のストレートが投げられて、シンカー系のボールをマスターすると、十分に日本代表に入っていてもおかしくない投手だ。

 また、札幌大谷野手も好素材が多く、決勝戦で逆転の2点適時打を放った北本 壮一朗は守備力も高いショートストップ。強打のセンター・石鳥 亮は今後の真価が見逃せない選手だ。準優勝の星稜は俊足巧打の東海林 航介、シュアな打撃が光る知田 爽汰、広い守備範囲を見せる二塁手・山本 伊織、パワフルな打撃を見せる一塁・福本 陽生も楽しみだ。

 筑陽学園福岡 大真は甲子園準優勝投手となった福岡真一郎選手の息子。親譲りの強肩、体幹の鋭さを生かしたフルスイングから長打を連発。ポテンシャルの高さは必見だ。強打の二塁手・江原 佑哉も見逃せないだろう。ベスト4の高松商ははバットコントロールがたけたセンター・飛倉 爽汰 、パワフルな打撃を見せる立岩 知樹と面白い逸材が多かった。

 初戦敗退の国士舘は2安打4打点の黒川 麟太朗は身体能力の高さを生かした二塁守備と右方向へ強い当たりが打てる二塁手だった。

 敗れた八戸学院光星は野手のタレント度では大会ナンバーワン。ドラフト候補は武岡だけだが、強豪大学で続けられる技量を持った選手が多くいた。強打の三塁手・下山 昂大、ミート力が高い二塁手・伊藤 大将、強打の一塁手・近藤 遼一、パワフルなスイングから逆方向にも鋭い打球を飛ばす左の強打者・大江 拓輝と楽しみな選手が多くいる。初戦で敗れた龍谷大平安は左腕・野澤秀伍は近畿大会で見せた制球力抜群のストレートは影を潜め、勢いもなかった。もう一度しっかりと鍛えなおして、140キロ左腕へ成長してほしい。

奥川、武岡、西原…平成最後の神宮大会で躍動した逸材たち | 高校野球ドットコム
内山壮真(星稜)

 最後の1年生では内山壮真星稜)と中村敢晴筑陽学園)と2人のショートストップ、宗山塁(広島広陵)の3人に注目だ。内山はバットコントロールの良い打撃と小園海斗から学んだスプリットステップを使いながら、抜群の出足を生み、守備範囲の広さは大会トップクラス。大会中の数々の好プレーを見せてくれた。だからこそ悔やむべきは決勝戦の逆転適時打の場面。二塁ベース付近に転がった打球に対して、内山は追いつきながら捕球できなかったことだ。「追いついたのにボールがグラブの下を抜けていった。バウンドの跳ね方とかは準備していたつもりですが…。これは自分の準備不足と実力不足。しっかりと努力をしていきたい」と悔やんだ。この悔しさも内山の成長の糧となるだろう。

 中村は初戦の桐蔭学園戦で3安打とシャープな打球が光る。遊撃守備を見ていても肩の強さが光るが、捕球して体を浮かせて投げてしまい、体勢が安定しない状態でスローイングするので、暴投が多くあった。攻守ともにレベルアップして注目を浴びることを期待したい。

 宗山は奥川の149キロのストレートを合わせて安打にしたように、対応力の高さは抜けており、さらに機敏な動きを見せた二塁守備も必見だ。

 最後の神宮大会を彩った逸材たち。ぜひ来春の公式戦でももうワンランクレベルアップした姿を見せることを期待したい。

(文=河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.03.27

報徳学園が投打で常総学院に圧倒し、出場3大会連続の8強入り

2024.03.27

【福岡】飯塚、鞍手、北筑などがベスト16入り<春季大会の結果>

2024.03.27

【神奈川】慶應義塾、横浜、星槎国際湘南、東海大相模などが勝利<春季県大会地区予選の結果>

2024.03.27

青森山田がミラクルサヨナラ劇で初8強、広陵・髙尾が力尽きる

2024.03.27

中央学院が2戦連続2ケタ安打でセンバツ初8強、宇治山田商の反撃届かず

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード

2024.03.24

【神奈川】桐光学園、慶應義塾、横浜、東海大相模らが初戦白星<春季県大会地区予選の結果>

2024.03.23

【東京】日本学園、堀越などが都大会に進出<春季都大会1次予選>

2024.03.27

報徳学園が投打で常総学院に圧倒し、出場3大会連続の8強入り

2024.03.22

報徳学園が延長10回タイブレークで逆転サヨナラ勝ち、愛工大名電・伊東の粘投も報われず

2024.03.08

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.03.17

【東京】帝京はコールド発進 東亜学園も44得点の快勝<春季都大会1次予選>

2024.03.11

立教大が卒業生の進路を発表!智弁和歌山出身のエースは三菱重工Eastへ、明石商出身のスラッガーは証券マンに!

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード

2024.03.01

今年も強力な新人が続々入社!【社会人野球部新人一覧】