ほっともっとで飛躍した逸材たち【近畿大会展望】

　近畿大会は4強が出そろった。今回は高校野球ドットコムは27日、28日の近畿大会6試合を徹底取材。そこで6試合で光った逸材たちを紹介したい。

　4強入りしたのは、履正社、智弁和歌山、龍谷大平安、明石商の4チームだ。

　この中で最も実力的に優れていたのは履正社だといえる。最速145キロ左腕・清水大成、ビタ止めキャッチング、確実性が高いスローイングでアウトにする野口海音、初戦の南部戦で特大の満塁本塁打を放った井上広大が注目されるが、レギュラー選手全体のレベルが高いという恐ろしいチームなのだ。高校通算8本塁打を放っている強打強肩の1年生サード・小深田大地、2番打者ながら、打率.667を残す池田 凛、決して体は大きくないのだが、本塁打級のファウルを連発した一塁手・西川 黎、巧みな右打ちで打率5割を記録する桃谷 惟吹、軽快なグラブ裁きが光る遊撃守備と思い切りのよい打撃が光る野上 聖喜と1人1人のキャラクターがしっかりと出ていてかなり強いチームである。

　ただ大阪大会を振り返ると、苦戦が多い。新チーム当初から圧倒的な力で頂点を勝ち取るチームがあるが、履正社の場合、勝ち進みながら選手の精神状態が落ち着き、自分の力を発揮できて結果的に圧倒した試合運びができているのだろう。ポテンシャルが高い選手が多く、伸びしろはたっぷり。

　そして大阪桐蔭を破った智辯和歌山。このチームは中谷仁監督のコーチ就任とともに入学してきた世代で、実は中谷監督の薫陶を最も受けてきた代である。中谷監督の勧めから野球ノートをつけ始めるなど、今までの強打に加え、試合前の準備、実戦を想定した練習を行ってきた。主将・黒川史陽は前チームとはだいぶ印象が変わり、うまく試合に入ってプレーができていない選手に対しては強く注意したり、ベンチでは最前列に立って声援を送るなど、人の前に立ってチームを引っ張るようになった。ナインを強く鼓舞しながらも、プレースタイルは丁寧で、いつも全力。人間面の成長が見てとれる。これまで目立った長打はないが、捉えた時の打球は圧巻。高校通算11本塁打の長打力がどれだけ磨かれるか楽しみだ。

　また、投手に寄り添い、大阪桐蔭を破る好リードを見せる東妻純平は強打強肩頭脳の三拍子を兼ね備えた捕手。扇の要が非常にしっかりしているので、智辯和歌山は落ち着いた試合運びを見せている。

　 安定した守備を見せる西川晋太郎、広い守備範囲、逆方向へ鋭い長打が打てる細川凌平、9番打者ながら7打点を記録する「恐怖の9番」となった綾原創太、投手では130キロ中盤のストレート、スライダーで勝負する左スリークォーター・池田泰騎、130キロ後半の速球とスライダーで勝負する池田陽佑と、去年のチームとは違う魅力があり、強力なチームへ化けつつある。

[page_break:龍谷大平安、大阪桐蔭の名門校にも逸材が並ぶ]

　龍谷大平安は去年のような松田 憲之朗、小寺智也、島田 直哉、松本 渉といったスター性のある選手がいない。だが、力がないことを自覚して束になって戦う姿勢が良いチームである。とはいえ、個人をしっかりと見ると楽しみな選手が多い。

　主将・水谷は近畿大会と活躍を見せているように、広角に長打が打てる右のクラッチヒッター。球際の強さが光る外野守備も素晴らしい。サヨナラ打を打った三塁手の奥村 真大。投手では左腕の野澤秀伍の素質の高さが光った。目につくのは肩、肘の柔らかさと股関節の柔軟性の高さ。テークバックをとってからトップに入り、リリースに入るまでの動きが滑らか。ストライドが大きく、球持ちが優れたフォームから繰り出す130キロ後半の速球は絶品だ。平安の左腕は伝統的に好投手が多いが、野澤も十分に上を狙える投手だった。

　明石商は準々決勝で1年生右腕・中森俊介の登板はなかったが、2年生サイドの宮口大輝は130キロ中盤の速球とスライダーを武器にする好投手。体も強く、140キロ越えも期待できる逸材だ。

　準々決勝で敗れたチームでは大阪桐蔭は実力的に抜けている。本塁打を打った1番柳本 直輝はパンチ力があり、コンタクト力も高く、俊足の巧打者。根尾昂と学びながら遊撃守備を磨いてきた榎木 貫太はバットコントロールが良く、遊撃守備も球際が強く、スローイングも確実なところはさすが名門校のショートである。

　2試合連続打点を放った高校通算9本塁打の1年生・西野 力矢、打率.571を記録した巧打のサード・山田優太、強打のセカンド・宮本涼太と多士済々の顔ぶれ。また投手陣では智辯和歌山戦の1イニングだけ登板した髙野 裕輝は180センチの長身から130キロ後半の速球を投げ込む本格派左腕。個々の能力は高いが、まだ突き抜けた選手がいない。また連携など細かなミスも多く、劣勢時を打破できる能力を持った選手がいないのが課題だろう。たとえ選抜出場できた場合でも、全国で勝てるまでには時間がかかるチーム。ぜひ来年にはさすが大阪桐蔭と呼ばれるような強さを身に着けてほしい。

[page_break:準々決勝敗退チームにも逸材がずらり]

　福知山成美は小橋 翔大と原陽太のバッテリーに注目だ。小橋は球速こそ130キロ弱の速球、変化球を丁寧に投げ分ける。激戦区の京都を勝ち抜いたことを実感させる投球術だった。リードする原はフレーミング技術が長けたキャッチャーで、スローイングタイムも2.00秒前後と肩もよい。力強いスイングから強烈な打球を飛ばす選手だ。また遊撃手・東原 成悟はパンチ力ある打撃と強いスローイングができる好選手だった。

　報徳学園の143キロ左腕・林 直人は、来年のドラフト候補として期待できるほどの完成度、ポテンシャルの高さがあった。市立和歌山は181センチの左腕・岩本 真之介はまだ球速は130キロ前後だが、体を作り、フォーム技術を極めていけば、140キロ台も期待できる有望株。打線は上位に高打率を残した打者が並び、1番山野 雄也は打率.625を残し、広角に打ち分ける打撃と球際が強い三塁守備が光る。2番下井田知也も打率.556と活躍を見せ、フットワークが軽快な二塁守備が光った。緒方隆之介は打率.625を記録。パワフルなスイングから強烈な打球を飛ばし、堅実な遊撃守備が光る選手だ。

　そして、6番に座る米田 航輝もなかなかの好捕手。下級生の岩本を粘り強くリードし、また捕ってから投げるまでが速く、たびたび盗塁を刺していた。

　大阪偕星学園はエースの福田 慈己は最速140キロの速球、スライダー、カーブを高低に投げ分ける本格派。智辯和歌山戦で投げた経験をどう生かすのか、注目したい。145キロ右腕・坪井悠太はケガのため、野手のみの出場。ケガをしっかりと治し、来年は投打で大暴れを見せてほしい。2安打を記録した3番松山侑生はパンチ力の高さが光る強打の左打者。肩も強く、楽しみな選手だろう。

　今年の近畿は例年になくハイレベルで、逸材が揃った。スピードガンのある[stadium]ほっともっとフィールド神戸[/stadium]で試合を行ったこともあり、好投手たちの実力を堪能した方も多いことだろう。ぜひ彼らにはこの冬の期間で実力を伸ばしてほしい。

　そして3日はいよいよ近畿準決勝。どこが近畿の頂点をつかむのか、大いに注目したい。

文＝河嶋宗一