神村学園、攻守に安定感 「守り勝つ」野球を再認識 2018秋鹿児島大会総括
3投手陣を軸に6試合無失策で優勝した神村学園
優勝を果たした神村学園
第142回九州地区高校野球大会鹿児島県予選は、決勝で神村学園が鹿屋中央に完封勝ちし2季ぶり12回目の優勝で幕を閉じた。新チーム最初の県大会はどこもチーム力が発展途上で先の読めない展開になりがちな中、神村学園の攻守に安定感のある戦いぶりが光った。
神村学園といえば「強打」のイメージが強い中、1、2年生の新チームは「3年生に比べると、個の力は及ばない分、チーム力で戦う」(小田大介監督)ことを心掛けた。中川武海、桑原秀侍の2人の1年生右腕に2年生左腕・仲間歩夢の3投手陣を軸にした「守り勝つ」(小田監督)野球をまず目指した。その成果が全6試合無失策という数字に如実に表れている。
決勝の鹿屋中央戦、ライト森口修矢(2年)、ショート松尾駿助(2年)、セカンド北浦海都(2年)、3人の絶妙な連携で2つ、外野に飛んだ打球で三塁アウトを取っている。内野手が球際のボールを粘って処理し、アウトにするシーンも多かった。ミスなく守るだけでなく、相手の「攻め気」を奪う好守が再三見られた。夏の大会、初戦の加治木工戦でまさかの敗戦を喫した試合にサードで出ていた北浦は「自分のエラーが失点につながった。1球の重みを考えてプレーしている」という。
打線の力も決して過去のチームと比べてそん色があるわけではない。3番・森口、4番・田本涼(2年)、5番・井上幹太(1年)の中軸トリオを中心に、切れ目のない打線が、川内・富濵哲至(1年)、鹿児島城西・小峯新陸(2年)、鹿屋中央・福地玲夢(2年)と好投手を攻略してきた。先頭打者の意表を突くセーフティーバントや、無死一塁からファールで粘って打ってつなぐなど、攻略の引き出しも多彩である。現時点の鹿児島県内では間違いなくナンバーワンのチーム力であり、九州大会でもぜひ鹿児島勢3年ぶりのセンバツ出場を勝ち取ってもらいたいところだ。
強打で九州大会を掴み取った鹿屋中央
鹿児島ナンバーワン右腕・小峯(鹿児島城西)
夏に続いて決勝に勝ち進んで9季ぶりの九州大会出場を勝ち取った鹿屋中央は、3番・新有留優斗主将(2年)、4番・柊木野太助(2年)、5番・池田智雄(2年)の大型クリーンアップトリオをそろえた強打のチームである。中でも3番・新有留主将は準々決勝・枕崎戦で2ラン、準決勝・鹿児島情報戦でグランドスラムを放ち2試合で10打点を挙げるなど、勝負強さが光った。豪快なスイングスピードが特徴的な柊木野は、鹿児島情報戦の延長12回のサヨナラタイムリー、夏に4番を打っていた池田は夏の準々決勝・樟南戦で好投手・松本晴(3年)から初回に打ったライトオーバー二塁打が印象深い。秋は初戦でシード樟南に打ち勝ち、5試合で45得点、1試合平均9得点の得点力で勝ち上がった。
泣き所は投手力の安定を欠いたところ。4、5点のリードではセーフティーにならず、最後まで苦しい試合が続いた。驚異的な得点力は「何点とっても安心できない」(新有留主将)危機感の裏返しでもある。決勝戦ではエース番号を背負う福地が、敗れたとはいえ9回を投げ抜き試合を作れたことは好材料だった。「夏の選手権は出たことがあるが、まだ出たことのないセンバツに山本(信也)監督を連れていく」と新有留主将は九州大会への意気込みを語る。
4強入りしたのは鹿児島城西、鹿児島情報とノーシードながら実力はあると目されていたチームだった。県内ナンバーワン右腕・小峯がエースで4番を担う鹿児島城西は、元プロ野球選手の佐々木誠監督の下で、ユニホームも一新して臨んだ大会だった。4回戦で鹿児島実を完封、準々決勝で鹿児島商に競り勝ち、準決勝ではライバル・神村学園から2連続ホームランなどで4点を先取し終盤まで苦しめた。
鹿児島情報はスタメンに6、7人の1年生が並び、左打者の多い打線が特徴的だった。準々決勝・武岡台戦の果敢な攻撃野球で逆転勝ちしたのが印象深い。エース番号を背負うはずの沖田龍之丞(2年)が本調子でなかったが、復調の兆しをみせた。春以降も大きな伸びしろを感じさせた。
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枕崎の8強入りに貢献した好左腕・上野倖汰
残る8強には川内、枕崎、鹿児島商、武岡台の公立勢が健闘した。
川内はリードオフマン祝迫駿輔主将(2年)、4番・前田倖佑(2年)ら前チームからの経験豊富なメンバーを擁し、攻守に高い力を秘める。
知将・小薗健一監督率いる枕崎は、部員不足などで長年上位から遠ざかっていたが、10年春以来となる8強入り。好左腕・上野倖汰(2年)を中心に守り勝つ野球が特徴的だ。鹿児島実、樟南と並ぶ鹿児島の「御三家」と言われる鹿児島商は長年低迷していた中、昨秋に続く8強入り。古豪復活への足掛かりとしたいところだ。武岡台は、エース久保亮祐(2年)、主将で4番、捕手の下別府昂希(2年)のバッテリーが強力なリーダーシップを発揮し、文字通り原動力となって攻守に力強さを感じさせた。
樟南が初戦で鹿屋中央に敗退、鹿児島実が4回戦で鹿児島城西に完封負け。どちらも8強に残れなかったため、来春は鹿児島の名門2強がそろってノーシードからのスタートになる。来春、そして101回目の夏に向けて、この冬場で相当に巻き返してくるだけのノウハウ、潜在力は十分に秘めており、来春以降も優勝争いは混戦になるだろう。
この秋は全体的に、計算のできる投手が少なく、4、5点のリードがセーフティーにならず、終盤まで乱れたり、四死球、エラーが絡んで打者一巡以上するビッグイニングを数多く見かけた。近年、攻撃野球が盛んにクローズアップされる中、優勝した神村学園に象徴されるような投手を中心にした「守り勝つ」野球の醍醐味を再確認させられた大会でもあった。
(文=政純一郎)